使ってもらえるシステムこそ、最高のシステム。
岩下 隆祐氏:(株)マクティズム
いわゆる受託開発系システム会社として基幹業務系や会計系のシステム開発を行う株式会社マクティズム。だが、代表の岩下隆祐氏によれば、安価かつ便利なパソコンのPOSレジを自社開発し、販売に乗り出しているという。受託系の仕事をしている会社にとって自社開発商品を持つことは、ある意味悲願と言える。今回は、自社開発商品やシステム開発に対する想いについてお話をうかがった。
キーボードに魅せられてシステム開発の世界へ。
小学生、中学生の頃はファミコンが全盛だったという岩下氏。だが、パソコンに初めて触れたのが高校生時代の授業だったというから決して早くはない。
「何気なく情報処理を選択してパソコンに触れると、キーボードの入力がゲーム感覚で楽しくて」
進学校で周囲が大学進学を選択する中、早く社会に出たいと就職を望んだ時も、パソコンを使う経理や事務の仕事を希望し、歯科技工の会社に営業事務として就職した。だが実際はほぼ営業マン扱いで、伝票入力やデータ整理にパソコンを使う程度だったという。そこで、経験不問で募集していた会計系のソフトウエアパッケージの開発会社に転職。6年間勤めることになるこの会社で、システム知識ゼロの状態から、プログラムをはじめ、開発、企画設計など、仕事のすべてを学び、最終的には管理職まで経験することになるのだが、ここで強く感じたことが後の起業につながったという。
「社内ではシステムに強い職人的な人は数多くいましたが、お客様に上手に説明したり伝えたりすることが全然ダメで。私の強みは、コミュニケーション力なんだと感じたんです」
当時はITバブル全盛で給料もアップしていたが、「いつかは独立起業を」と考えていた。
「当時、すでに管理職で現場から離れ気味でした。でも、もっと技術的なことやお客様とのコミュニケーションをやりながらモノづくりがしたかった」
ついに、27歳で起業した。
仕事ナシ、人脈ナシから始まった独立起業。
社員として働くうちに、受託開発を一人で完結できるスキルを備えていた岩下氏。だが、同じシステム関連の人的つながりが全くなく、営業先すらない状態だった。
「お客様を紹介してくれる人もなく、起業後半年間は月5万円程度のアドバイス仕事だけ。起業当初はヒマで、身体を鍛えてばかりでしたね(笑)」
大きなシステム会社で技術者を探しているという話に応募して見事受注。だが、実際に仕事を始めると、プログラムを組むはずが、いつの間にか営業を担当していたことも……。
そんな時、メビック扇町に入所していたシステム会社から声が掛かり、パートナーという形で業務をサポートするようになる。すると開発の依頼が舞い込むようになり、自社開発商品を開発するまでに成長した。苦労を重ねてシステムの開発を仕事にした岩下氏にとって、開発の楽しみは何なのだろう。
「達成感をたくさん得られることですね。ただ、役割によってそのタイミングや大きさが違います。プログラマーは、大きなプログラム内のひとつの機能が動くごとに達成感があるんですよ。設計はプログラム同士の連携成功が達成感になるので、達成感そのものは大きいですが得るには少し時間がかかります。営業になると、納品で達成感が得られるので、最後にドカンと大きい達成感がきますね(笑)」
だが、何よりも楽しいのはクライアントからのレスポンスだという。
「褒め言葉でもクレームでも、レスポンスがあるのは使ってもらえている証拠。最高に嬉しい。一番悲しいのは、レスポンスが帰ってこなくなること。手掛けたシステムが社内にマッチしなかったのか……いずれにせよ使われなくなったことを意味しますからね」
『デジタルとアナログの融合』に心を砕く
システムを作る時、どんな部分にこだわりを持つのか。岩下氏の答えは、ひとつは品質、もうひとつは『現場重視』という答えだった。
「我々がシステムのプロとして、知識を押しつけすぎないことです。システムのプロの視点からお客様の業務を見ると『アレもコレもシステム化すれば楽になる』と考えがち。ただ、全部をシステム化すると劇的に現場の効率がアップするかというと、全然別の話なんです」
そこで、クライアント先での打ち合わせでは、必ず現場の人を呼んでもらうそうだ。
「実際に使う現場の人と話をしないと必要なシステムが見えませんし、導入によって生産性が下がってしまうことも」
システム的な視点だけでは良いシステムは作れないと語る岩下氏が重視するのは『デジタルとアナログの融合』だという。
「段階的にシステムを作り、最終的にクライアントの生産性向上に最大限寄与したいと考えています。最初、アナログとデジタルの比率が10:0なら、まずは9:1や8:2を目指します」
まずは現場の小さな無駄や小さなロスの撲滅に視点を置き、段階的に導入することでクライアントの仕事の流れを深く理解できるようになり、信頼関係も深まり、より効果的なシステムが提案できるという。
「システム会社としては全部一気にシステム化した方が楽に儲かるんでしょうが(笑)。やっぱりお客様に使っていただいて喜んで欲しいんですよ」
自社開発のPOSレジで、多様なコラボを実現したい!
マクティズムでは受託開発に加え、自社開発商品としてパソコンを使ったPOSレジの開発、販売をスタートさせた。商品登録やPOSデータの確認などもすべてインターネット上で可能だという。今はこのPOSレジの拡販が一番の目標だ。
「パソコンをメインにして、レシートプリンタやドロワーなどは外付けです。インターネットと接続しているので、店舗の追加設定や複数台運用などが安価にできるのが特長です。また、多くの店舗に導入していただくことで、小さな店舗では手に入らないマーケティングデータを提供することも構想しています。実際に産学連携を活用し、マーケティングのプロとコラボレーションする準備も進めています」
会社としても、さらなる拡大を目指すつもりだ。
「効率の良い開発体制を考えて、将来的には15人程度まで大きくしたい。逆に、それ以上の規模を必要とする案件やデザインの領域については、パートナー企業と組んで仕事を進めたいと考えています」
最後に、岩下氏の将来の夢を尋ねた。
「スタッフのみんなに、精神的にも物質的にもゆとりを持って生活してもらえる環境を提供できる会社にしたい。あと、昔、実家が喫茶店をやっていたので、いつか喫茶店をやりたいですね」
公開日:2012年06月08日(金)
取材・文:株式会社ショートカプチーノ 中 直照氏
取材班:株式会社Meta-Design-Development 鷺本 晴香氏