パーソナリティと経営者、どちらも私に与えられた天命です。
子守 康範氏:(株)アンテリジャン

子守氏

開口一番、「いつも聞かれるんですわ、なんで宮根さんみたいなフリーのアナウンサーやなくて、映像屋なん?って」と笑顔で話すのは、映像制作会社『株式会社アンテリジャン』の代表・子守康範氏だ。元毎日放送アナウンサーで「MBSヤングタウン」などの番組でその声をご存じの方も多いだろう。現在はアンテリジャンを経営する傍ら、古巣の毎日放送でラジオ番組を持ち、フリーアナウンサーとしても活躍中する子守氏に、映像に興味を持ったきっかけや会社経営についてお話をうかがった。

8ミリビデオ片手に乗り込んだ湾岸危機取材が撮影初体験。

アナウンサーという言葉をメインにする仕事から、映像制作会社を立ち上げた子守氏。そもそも映像の分野に携わったのは入社5年目ぐらいのアナウンサー時代、ちょうど湾岸危機の頃だった。
「すべての西側諸国が、CNNのピーター・アネットが送る映像を使って報道していました。そんな受け取った情報をただ垂れ流して報道する姿勢が許せなくて……。僕も若かったから、ラジオの編成部長が「そんなに言うならお前行くか?」と言われて「行きます」と。中東行き決定です(笑)」
ただ、ラジオ番組の予算だけで思った動きをするのは難しい。そこで子守氏はテレビ部門に話を持ち込んだ。
「要は売り込みです。ラジオの仕事で行くけど、テレビで流せるように映像撮ってくるから予算くれ、と」

こうして獲得した予算で8ミリビデオを購入し、撮影する最低限のコツをテレビディレクターから教わって中東へ飛んで取材・撮影。そして、帰国後はすべての編集作業などに立ち会うことで編集方法も学んだ。
これをきっかけに、その後もソ連崩壊や地球サミットなどで、ビデオカメラ片手に現場に飛んで取材・撮影するようになった。
「今思えば“とにかく現場を生で見たい”という気持ちだったのでしょう」

ドキュメンタリーの制作手法で人の思いを伝える。

自分史ビデオ制作からスタートし、現在は企業紹介ビデオ制作なども手掛けるアンテリジャン。その特長は、ドキュメンタリーの制作手法で、その人の本質や企業の根っこにある“何か”を映し出すことだという。
「世の中に問題提起したり、社会の常識を覆すために制作されるドキュメンタリー番組の作り方は、プロのテレビ屋によって培われた多くのノウハウが詰まっています。この手法を使って、社会の暗部を暴くのではなく、企業や商品、人々の中に存在する“思い”を浮かび上がらせて伝えたいんです」と子守氏。

企業紹介ビデオには、会社や商品の良い部分だけにフォーカスし、それをひたすらアピールする映像が多いという。
「確かに費用対効果を考慮して、特長や良い部分をコンパクトかつダイレクトにアピールすることは必要です。しかし、商品が生まれた背景や開発者の熱い思い、会社の空気感を丁寧に伝えることが、将来的に大きなリターンを生みます。そういった映像の必要性をきちんとご説明させていただき、実際に制作できるのが、アンテリジャンの強みだと思います」

「あと半歩」歩み寄る大切さと難しさ。

子守康範 朝からてんコモリ!

現在、子守氏はパーソナリティとして毎日放送で『子守康範 朝からてんコモリ!』というラジオ番組を担当しているが、引き受けるにあたって、かなり悩んだという。
「本当は経営者としてこの番組をやるべきかどうか悩みました。経営者とアナウンサーという二足のわらじが、両方とも中途半端になるのでは……と。でも、私がアナウンサーを目指したきっかけが、朝のラジオ番組だったいうのもあって、思い入れがあるんです。だから、一生の中でこんなチャンスもないと思って受けることにしました」
結果的にラジオの仕事は、プラスになっている面が大きいという。

アンテリジャンの経営理念は“みんなが笑顔でありがとうと言いあえる幸せを作り続けます”というものだ。
「やれと言われたことをそのままやっていたのでは、心の底から「ありがとう」と言いあうことはできません。「あと半歩」お客様に歩み寄って“やりたいことは何か”を一生懸命考えて実行しなければ、「ありがとう」と言いあうことはできません。これはラジオのパーソナリティとして、リスナーの話を聞いていても感じますね」と子守氏。

ハードの進化に惑わされず、伝えるべきことを伝える。

子守氏

映像の世界は最もハードの進化が著しい業界かもしれない。3Dなどの技術面でも、iPadなどのデバイス面でも進化は著しい。
「結局、ハードが進化してもアンテリジャンの姿勢は変わらないと思います。当社では3D映像も制作していますが、新しい技術に対応していることはウリじゃありません。アンテリジャンが大切にするのは、クライアントが最も伝えるべき本質の部分は何か、それを見抜いて映像で表現する力です。人や企業、商品の内面にある大切なメッセージ、『志』と言うと格好良すぎるかもしれませんが……それを手を変え、品を変え、様々な手法で探っていく。そして『志』の部分を映像で表現し、多くの人に喜んでいただきたいですね」
最後に経営者としての目標についておうかがいした。
「クリエイターがそのプロジェクトに関わるものに責任を持っているとすれば、経営者は社員やその家族など、もっと広い範囲に責任を持っていますから、気が引き締まります。クリエイティブな部分をないがしろにすることなく企業が継続するよう、原理原則をきちんとやっていきたいですね」

公開日:2010年08月19日(木)
取材・文:株式会社ショートカプチーノ 中 直照氏