スタッフそれぞれの思いが結集した一枚を撮るために
近藤 織弓氏:Blanket

近藤氏

カメラマンは、ゼロ、コンマ何秒の瞬間を捉える鋭い感性とともに、重い機材を運ぶ体力のいる仕事でもある。そのためか、男性はもちろん、女性にも、凛々しく屈強なイメージをつい思い描いてしまう。しかし、近藤織弓さんはそんなイメージとはほど遠い、スレンダーで笑顔がよく似合う女性である。
「私、こう見えて結構力持ちなんです。それに、いろんなことに恵まれていて、(撮影)現場ではみんなにいろいろと助けてもらっているんです」と微笑む。一枚の作品を作り上げるには、みんなの協力が必要不可欠だと、この言葉はそう物語っているようだ。

キラキラ輝くフィルムのアイドル

近藤氏

「思えば、小学校の卒業文集には、すでに『将来の夢はカメラマン』と書いていました」と語る近藤さんは、プロカメラマンとして今年で8年目を迎える。現在は、ポスターやパンフレットなどの商業写真を中心に活躍中だ。その原点は、小学生の頃、友人宅で見たアイドル写真だという。
「親しい友人の父親がスポーツ新聞のカメラマンをしていて、その子の家に遊びに行ったときに、たまたま彼女のお父さんの撮った写真を見たんです。当時大ファンだったアイドルが写っていた理由で興味を持ったんですが、その写真を眺めているうちに写真の美しさに引き込まれていきました。印画紙に焼かれたカラープリントの美しさに引き込まれ、『なんてキレイなんだろう』と思わず見とれてしまって……。その時、子どもながらに思ったんです、大きくなったらカメラマンになろうって」。
その決意は堅く、近藤さんは中学校に入学すると写真部に入り、カメラを始めた。その後プロとして活動するまで写真屋さんでバイトをしたり、趣味で好きなインディーズアーティストの活動を撮ったり、何らかのカタチで写真に携わってきた。
「私にとって写真は生活の一部になっていて、“気がつけば側にある”そんな存在なんです」。

「個」から「チームプレー」の魅力の虜に

そして、カメラアシスタントの派遣会社に所属する。広告などの撮影に携わる機会を得ることに。当時は、HIROMIXや長島有里枝ら、女流写真家が人気を集めていた時代。じつは近藤さんも、職業カメラマンよりもアーティストとして写真に取り組みたかった。
「自分の感性の赴くまま、自由に作品を撮る写真作家に憧れていました。だからアシスタントのお仕事は、強い意志を持って選んだわけじゃないんです」。
しかし、ここでの経験が近藤さん自身の考え方を大きく変える。アシスタントとして撮影現場に身を置くうちに、写真は、カメラマン一人が撮るものではないということを知った。
「現場では、企業の担当者、アートディレクター、メイク、デザイナー、コピーライター、カメラマン……さまざまな職種の人たちがそれぞれの視点から互いに意見し合い、よりクオリティーの高い作品を追い求めます。実際に撮影を間近で見ていると、どんどん写真の精度(魅力)が増していくのが分かるんです。互いに思いを共有することで、決してカメラマン一人では成しえないような最高の一枚が生み出されていくんです」。
この経験が、近藤さんの職業カメラマンとしての将来を決定づけたと言える。

シャッターを切る瞬間の思いを大切にしたい

作品

カメラマンとして独立後、以前からお世話になっていた大先輩のカメラマンを通してある仕事の話が舞い込んだ。「神戸山手女子学園」の学校案内パンフレットだ。
「実際の学生さんをモデルにして、学校での生活風景を撮るんですが、私自身、撮っていて、とにかく楽しくて仕方なかったです。自分があまり学校が好きな方じゃなかったので、『私もこんなふうに過ごしたかったな』と、彼女たちの姿を自分に投影して再び学生生活を疑似体験しているようで、ワクワクした気持ちになりました」。
その仕事は毎年の恒例となり、今年で7年目を迎える。中高一貫の学校だけに、仕事を始めた年に中学一年生だった生徒が、この春卒業して大学生になった。
「この学校の子は、みんな素直で、普段から人懐っこく私に話しかけてくれたんです。ずっと撮り続けてきた子もいて、単なる被写体ではなく、徐々に心の通じ合う関係になっていました。写真を通じて互いに親しくなれたと思うと喜びもひとしおです」。
事実、パンフレットには、学園生活でのさまざまなシーンが写し出されており、少女たちの初々しい笑顔が印象的だ。これはクライアント、制作スタッフら、たくさんの人からも認められ、近藤さん自身の代表作となった。
「私、写真って、撮る人間の心を写し出すと思うんです。だから、たとえ同じモノを撮っても、シャッターを切る私自身の楽しいとか、うれしい、悲しい、悔しいとかいう感情って、きっと見る人に伝わると思う。写真にはそんな力があると信じています」。

それぞれの思いを集結させる

取材風景

カメラマンとしての経験を積むたびに、近藤さんは、制作物の背景に宿る制作スタッフそれぞれの「思い」や「願い」を強く感じる。
「私は依頼を受けて写真撮影の部分だけを担当しますが、その前段階では、いろんな案があって、私の知らないところで、その制作物に携わるスタッフそれぞれの思いが詰まっているということを最近、ひしひしと感じるんです。だからこそ、表面上には見えてこない、その奥に込められた制作スタッフそれぞれの『思い』を感じ取りながら、仕事をしていきたいなと思います。
ともに制作物を作る存在がいると意識することで、写真の持つパワーは何倍にもなると近藤さんは実感している。シャッターを切るのは、そこに関わるすべての人の切なる思いを写真に投影することだと、近藤さんは誰よりも知っている。

公開日:2010年08月20日(金)
取材・文:竹田亮子 竹田 亮子氏
取材班:株式会社ジーグラフィックス 池田 敦氏