イラスト、音楽、ファッションが融合した世界観を発信したい。
佐藤 亮二氏(Mookie S氏):ROCO PICTUREZ

佐藤氏

古いアメリカの新聞の4コマ漫画やロンドンの地下鉄のポスターのような、レトロでコミカルな作風。最初の印象は「これ、日本人の作品?」。どんな大御所が描いているのかと、取材前にインターネットで名前を検索してもほとんど情報が得られなかった。日本人離れした感性と独特の世界観で国境を越え活躍する佐藤亮二さん。「謎の人物」の人となりを取材した。

古さを感じるアートが心地いい。

事務所風景

オレンジ色の壁とダークブラウンの床。壁に立て掛けられたコントラバス、古いレコードプレーヤ―に何やらアナログチックな楽器たち。RocoPicturezの事務所は、レトロな音楽スタジオのような所だ。「この壁は仲間が海外ツアー中に一人で塗ったんです」迎えてくれたのは、想像とは全く違う「おしゃれなお兄ちゃん」だった。

RocoPicturezの代表である佐藤亮二さんは、ゲームやWEB制作など国内の仕事とは別に、海外のレコードレーベルやCDジャケット、ミュージアムのフライヤーなどを手掛けるイラストレーター・Mookie Sとしての顔も持っている。我々が取材前に見ていたのは、Mookie Sとしての仕事だ。

事務所風景

「アメリカの古い流れのアートが好きなんです。きっと自分の中でもすごく意識していると思う」と佐藤さん。
思えば子どものころからそうだった。周りで同年代の子どもたちが流行のマンガを描いていても、ディズニーのピノキオがお気に入り。友だちに合わせて流行のマンガが好きなフリをしても、何となく心地悪くて続かない。音楽もそう。高校生になって友だちと一緒に流行の音楽を聴いてみても、結局「オールディーズ」や「アーリージャズ」に戻ってしまう。「自分ひとりだけなのかな」。流行ではないものを「好き」というのが恥ずかしくて内緒にしていた思春期もあった。

しかし、佐藤さんと同じ趣味を持つ人たちの「シーン」たるものが世界には存在していたのだ。「すごく狭い世界なんですが、各国にあってつながっているんです」。その「シーン」で有名な日本人バンドのCDジャケットのイラストを手掛けたことが、Mookie Sが海外で活躍するきっかけに。「これを描いてるのは誰だ」と、アメリカを中心に、スペイン、フランスと、仕事が広がっていった。

「言葉の壁はあるけれど、同じシーンの中なら感覚でわかるんです。CDを聴けばだいたいそのバンドが好きな時代が見える。そして、僕の中でのその国のその時代のイメージをイラストにする。音楽が言葉の代わりをしてくれます」

作品

判断基準は「格好いい」か否か。

「絵を描くことが大好きな少年」が、それを仕事として意識するまでには意外と長い時間がかかっている。
小さいころから絵には自信があった。でも、18、9のとき、周りの友だちの方がずっと上手なように思えて描くことをやめてしまう。海外で活躍するバイヤーが「格好いい」と、ニューヨークとカナダを行きしてフィギアや古着を買い付ける日々に酔いしれた。
が、仕事でしばらくカナダに滞在していた時。当時はゲーム全盛期でどこへ行っても日本人というだけで「セガ、任天堂、スゴイ!」の時代。「世界的にはゲームを作る方が格好いいのか!」すぐに帰国して気付いた時にはゲーム会社に入る準備をしていた。ゲーム会社への就職が最も難しい時代に思い付いた無謀なチャレンジだったが、1年かけて5次試験をクリアし、見事入社を実現。それは人生で初めて「絵に関わる仕事」を手に入れた瞬間でもあった。
その後、仲間と共に独立し、WEB、テレビゲーム、アニメーションなどを手掛ける会社、RocoPicturezをスタート。今年で設立9年になるが、「Mookie Sという一人のアーティストとしてイラストが海外で認められ出したのはここ2, 3年」という。

作品

国境は越えた。次は枠(シーン)を超える。

事務所風景

「シーンの中では絶対的な自信はある」という。
「1000人に評価されるよりたった1人のコレクターに『お前、わかってんな~』と言われることにこの上ない喜びを感じるし、僕にとって音楽シーンにいることはどこにいるより居心地がいいんです」。だけど、仕事として考えるといつまでも「シーン」の中に留まるわけにもいかない。「シーンを出てどんどん発信していきたい気持ちも最近芽生えつつあるんですよ。でも、一般の世界で自分の作品が受け入れられるのか、正直とても怖いんです」。

現在、フランスやアメリカでの個展の話しもあるが、「絵が溜まれば」といたってマイペース。「個展用の絵は描きたいけれど、ちょっとでも仕事があると嫌なんです。1か月ぐらい仕事がない期間があればその時に描きたい」。

「日本での個展は?」の問いには、「誰も来てくれなかったら悲しいし」と消極的。「僕の絵は、絵だけを飾るよりも音楽やファッションと融合させて見てもらう方が伝わるような気がしています。絵を飾るだけでなく、そこにある家具や音楽、ファッションまですべてプロデュースしたいですね」。

それは確かにおもしろそう。でも、今や世界で作品が認められるアーティストでありながら「自分ひとりなのかな」と子ども時代と全く変わらぬ悩みを抱え続ける佐藤さんが、ちょっとおかしくて身近に思えた。

公開日:2009年07月31日(金)
取材・文:わかはら 真理子氏
取材班:株式会社ビルダーブーフ 久保 のり代氏 、 株式会社ショートカプチーノ 中 直照氏、株式会社ランデザイン 浪本 浩一氏