仕事は一生。だから楽しいことをやりたい!
見杉 宗則氏:イラストレーター

見杉氏

ほのぼのとした、子供向けの絵を得意とするイラストレーターの見杉宗則さん。実際のご本人も、描く絵と同じくやさしそうで穏やかな印象です。イラストレーターとしての仕事のかたわら、毎年、自由に描いたイラストやオブジェを展示する個展も開き、絵本作家としても活躍されています。クリエイターでありアーティストの見杉さんに、仕事や作品づくりについてお話をうかがいました。

元・大工のイラストレーターって?

子供のころから絵を描くのが好きで「自分なりに自信もありました」と言う見杉さん。高校時代、夏休みに遊んでばかりいて、休み明けに友だち仲間らとの学力の差を感じるようになりました。「学校の勉強では勝てない」と思い、大好きな絵の道へ進むことを決意します。

取材風景

進路に大阪芸大を選び美術学科で油絵を学びますが、在学中は「これと言って就職活動をしていませんでした」とマイペース。実家の家業が大工さんだということもあり、自然、自身も大工として家業の仕事を手伝います。
ところが、ある設計事務所の人から「芸大を出してもらってて何で大工やねん」と意見され、その人の紹介でコラムデザインスクールという建築パースの学校へ行くことになりました。

そこで見杉さんは「絵を描くことができるし、家業の仕事にも通じてて面白い」と、建築パースにのめり込みます。「こんな仕事がやりたい」と思い、スクールの関連会社のコラムデザインに相談の電話をしました。すると、その日がちょうどコラムデザインの採用面接の日。タイミングも良く採用となり、家業の大工さんから建築パースを描く仕事に転身します。

手描きの味わいを大切に

作業風景

入社した当時は現在とは違い、パース画は手で描きます。「一枚一枚に作家の個性があり、画風がありました」。見杉さんは、毎年、レンダラーズ協会で開かれるパース展で、巨匠たちが描くパース画を見て「さすが」と唸っていたと言います。
ところが、時代は手描きからコンピュータグラフィックへ移ります。パース展でも個性の乏しいCG作品が増えてきて、味わいのある手描きパースが影を潜めるようになりました。手描き一筋の見杉さんは「CGで描くのは面白くない」と、CGへ移行したパ
ースの仕事から、手描きイラストの仕事へとウエイトを移して行きます。

建築パースからイラストへと言っても、すぐさまイラストの仕事が舞い込んでくるわけではありません。営業用に作品のファイルを作って、出版社や編集プロダクション、デザイン事務所など、イラストを必要としていると思われるところへ送り付けます。とくに「個展を開くようになって仕事が増えてきたように思います」と、積極的に作品をアピールすることで仕事の依頼が来るようになりました。

子供向けのほのぼのしたタッチを得意とする見杉さんですが、見せてもらった作品は多彩です。「プロのイラストレーターならある程度の描き分けができなければ。『これしか描けない』とは言いたくないんです」と、いろんなタッチを描き分けます。

その半面、「独自のタッチだけで仕事がいただけるならそれでやって行きたい」との思いもあり、仕事とは関係のない自由に描いた作品を発表されています。しかしそれも「大阪では見に来られる層が限られているので」と2000年から毎年催している個展も新たな展開へ。「東京はイラストレーターを求めている人が見に来られますが、大阪では同業者が多くて仕事につながりにくいんです」と、今後は東京での個展も視野に置いています。

神が降りて作った絵本


どうぶつむらのうんどうかい

イラストレーターというクリエイターの顔を持つ見杉さんですが、その一方で絵本作家としての顔も持ちます。「子供ができて、自分が作った絵本を読み聞かせることができたらなぁ」との思いが絵本づくりのキッカケでした。

その後、公募で応募した『どうぶつむらのうんどうかい』という作品が、タリーズピクチャーブックアワード2004でストーリー賞を受賞し、絵本作家としてのデビューを飾ります。「今の仕事のメインはイラストですが、目指している方向は絵本作家です」と言います。

ですが、「絵本は絵だけでなくお話を作るのですが、お話を作るのはヘタなんです」と言います。受賞作の『どうぶつむらのうんどうかい』は、「何か、降ってきたように話ができたんです」とのこと。「お話が作れたら、ナンボでも絵本が作れるのですけどね」。

今後は「お父さんやお母さんが子供に読み聞かせるだけじゃなく、一緒に遊べるような、例えば触って分かるような何かの仕掛けを持った絵本を作ってみたいです」と、絵を超えた絵本づくりに興味があるそうです。

人間関係の濃い仕事がしたい

見杉氏

また、クリエイターとしては「もっと濃いつながりの仕事がしたい」と、メビックのイベントなど積極的に関わっていきたいと言います。例えば、東京の出版社との仕事では「担当者と一度も会ったこともなく、メールのやりとりだけで済ませる事もあります」と、人間関係の希薄さに違和感を覚えます。
「こういう場に出していただいて、いろんな人と出会って、いろんな人と知り合いたい。そうしていると、いろんな可能性が出てくるだろうな、というのが楽しみです」。CGを使わない絵と同じく、生身の付き合いでこそ生まれるものを求めておられます。

クリエイターでありアーティストである見杉さん。仕事にも作品づくりにも「自分が楽しいと思えることをやって食えたらいい」との思いで臨んでいるとのこと。「だって、一生やって行くんですから」。
とても明快な生き方だと思いました。

公開日:2009年08月04日(火)
取材・文:福 信行氏
取材班:株式会社ゼック・エンタープライズ 原田 将志氏