「誰よりも先にデジタルで面倒くさいこと」をやって来たから今がある。
クリエイティブサロン Vol.257 加々本裕樹氏

『機動戦士ガンダム 水星の魔女』『呪術廻戦』など、アニメ好きならずとも耳にしたことがあるアニメ番組のインターネットプロモーションを一手に担ってきたのが、MBSグループの株式会社ピコリ・取締役の加々本裕樹氏。自ら「学生時代からテレビ業界に入り浸ってました」と笑う加々本氏が、記事にできないテレビ業界の裏話をたくさん盛り込みながら、現在に至るまでの軌跡を語った。

加々本裕樹氏

想いと縁がつながってテレビの世界に

加々本氏のクリエイティブサロン当日、メビックにクリエイティブサロンへの登壇を祝う「ファン一同」から大きな祝花が届いていた。そう、イベントスタート前からすでにサロンは始まっていたのだ。メビックスタッフも「前代未聞」と驚きながら加々本氏を紹介してサロンがスタート。

加々本氏が最初にスライドに映したのは、中学生と高校生時代の自分自身の写真。そこにはスリムでイケメンな姿が。

「当時、生徒会に参加したりしていて、めちゃくちゃモテてました。実はそれがテレビ業界をめざしたきっかけなんです、『タレントになりたい』って。でも父親に伝えたらぶん殴られました(笑)」

テレビ業界の裏側を支える仕事ではなく、出演する側をめざした若き日の加々本氏。父親からはゲンコツとともに「絶対に認めない。でも千里丘で働けるようになったら認めてやる」という言葉を掛けられたという。

「千里丘というのは、千里丘にあった毎日放送のことです。今思えば、この時から毎日放送と縁があるのかもしれません(笑)」

芸能界をめざした加々本氏は、実際に時代劇ドラマなどでその他大勢の役やエキストラとしてテレビに出演していた。そして高校生の頃には『ワタナベ』というドラマで、名前とセリフがある役でテレビドラマに出演することに。

「ついに役が来た!と喜んだんですが、この時にセリフが覚えられない自分に気づき、『あぁ、俺は役者無理や』と悟りました。でも、こうした経験が縁となって、高校生の頃からアルバイトのような形でテレビ局やドラマの制作現場に出入りするようになったから、この経験も今の自分につながっていると思います」

加々本裕樹氏と祝花

Appleのノートパソコンが、時代の最先端を呼び込んだ?!

高校卒業後は、大阪芸術大学に入学することに。

「推薦入学でしたね。試験は絵コンテの実技と映像学の基本的な知識を問う筆記試験だけ。どちらも高校生の頃からすでに映像制作の現場に入り浸っていた自分には楽勝でした(笑)」

見事に合格したものの大学にはほぼ行かず、大学の先輩の紹介で番組制作会社の毎日放送でのアルバイトに没頭。最初はカメラアシスタントからスタートし、徐々にADなどの仕事もこなすようになる。大学3年生の時には阪神淡路大震災に遭遇し、テレビ局で渡されたハンディカメラ片手に震災直後の被災地を回り、被災者に怒りの声を浴びながら『震災の今』を記録するという厳しい仕事も経験した。

そんなある日、まだ大学生なのにテレビ業界人のごとくテレビ局に入り浸っていた加々本氏に新たなツールが加わる。

「縁があってAppleのプロジェクトに参加することになり、当時150万円近くしたAppleのノートパソコンを無料で貸与してもらえました。条件は、当時まだ広まっていなかったインターネットをやること。最初は遊んでいましたが、縁あってゲームメーカーの3Dゲーム開発に参加することになり、『ダークメサイア』と『デスピリア』という2本のゲーム制作に関わりました。これもAppleのノートパソコンを持ってウロウロしていたおかげです(笑)」

さらに毎日放送のアナウンサーが出版する本のDTPを担当するなど、肉体的には大変で全然お金は稼げなかったが、Appleのノートパソコンを持っていたことが今の仕事につながる縁を生み出していたという。当時は、デジタルやインターネットなど新しいことが次々に誕生した時代だった。

「私自身は、誰よりも先にデジタルで面倒くさいことをやっていました。そうすれば新しいことをやろうとする人たちが、パソコン片手にウロウロしている私を探し、声を掛けてくれたんです」

データ放送の画面

今後は自分が身につけたノウハウを教えていきたい

大学卒業が近づき、インターネットやホームページが普及し始めた頃、毎日放送がアニメに出資することになり、加々本氏のもとにアニメ番組のホームページ制作の依頼が舞い込む。

「面白がって監督インタビューや銃の設定など、細かいところまで作り込んだホームページを作りました。以降、いろいろなアニメ番組のホームページを手掛けることになるのですが、もはや趣味というぐらい、こだわって作り込んでいましたね(笑)」

そしてテレビ画面の中に文字情報を表示するデータ放送が始まる。実は現在のデータ放送のほとんどが、番組の映像を邪魔しないよう画面下部と右側にデータが表示されているが、あのフォーマットを開発したのも加々本氏だという。

「本編が流れているのを邪魔しないように考えて作ったのを他が真似して……。また、テレビ局の依頼に対応していると3時間でコンテンツをアップするぐらいのスピード感が必要で、さまざまなノウハウや効率化を追求した結果、最近の我が社は日本で一番ホームページ制作が早いと業界で言われているとかいないとか……(笑)」

会社としては、アニメ番組のインターネット広告宣伝やSNS運用といったWebコミュニケーションも主戦場のひとつ。この世界は、結果を出すための方法がSEOやAIといったテクニカルなものから、Web上の空気感といった心理に影響を与える施策を施し、コンバージョンなどの成果を狙う時代になりつつあるという。

「私自身は早くからそうしたSEOの先にある非言語コミュニケーションやSNSの心理効果を意識して、Webの世界で生きてきたつもりです。今後は、自分が身につけたノウハウや考え方を後輩たちに教えていきたい。もちろんすべてを教えても全員には伝わらないし、ごく一部しか伝わらないかもしれません。でも、それで良いと思っています。教えた人が実践して、また誰かに教えてくれたら自分の教えは伝わっていくから」

イベント風景

イベント概要

宣伝担当者必見! 伝えて刺さる。非言語コミュニケーションから見えてきたモノとは!?
クリエイティブサロン Vol.257 加々本裕樹氏

テレビ制作に憧れてめざすも、なんだか脇にズレてインターネットで番組宣伝をする事に。まだインターネットが定着していない時代に、オウンドメディアの運営やEコマースサイトをフルスクラッチで作ったり、ハイビジョン放送開始にあたりデータ放送画面を創ったり、iモードなどの有料携帯サイトを立ち上げたり……と、誰もやったことのないムチャぶりに答え続けた末に、ある法則が見えてきた……。言葉ではないコミュニケーションに魅せられてたどり着いた「大切」なものとは!?「機動戦士ガンダム 水星の魔女」「呪術廻戦」「かぐや様は告らせたい」など400以上の作品を担当してきたインターネットプロモーション担当者が語る奇妙なデザイン論。

開催日:

加々本裕樹氏(かがもと ひろき)

MBSグループ 株式会社ピコリ 取締役
デザイナー / マーケッター

大阪芸術大学映像学科卒。学生時代にプレイステーション用ゲームの開発に参加。ラジオドラマの監督やケーブルTVのコーナーを担当。卒業後、テレビ制作を経てMBS毎日放送のインターネットWebサイトの立ち上げに参加。同社のモバイルサイトの立ち上げを行う。その後、MBSのドラマやアニメのインターネットマーケティングを400番組以上担当。自分で立ち上げた放送特化型のITデザイン会社を、MBSホールディングスへM&Aし、そこから新設されたデジタル部門の新設会社の取締役へ。MBSグループ社の中で最年少の取締役。デザインから行動心理技術広告まで幅広く担当する。放送の広告技術を発展させたSNSマーケティングコンサルティングも行う。

https://picoli.co.jp/

加々本裕樹氏

公開:
取材・文:中直照氏(株式会社ショートカプチーノ

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。