経営はクリエイティブ。変革期を生き抜く経営者のリアル。
クリエイティブサロン Vol.213 山田徳春氏

213回目となるクリエイティブサロンの登壇者は、クリエイティブプロダクション・株式会社500Gの代表取締役である山田徳春氏。若かりし日は劇団員として演劇に打ち込み、フリーランスカメラマンへの転身を経て、株式会社化と、経歴に軽く触れるだけで激動を感じさせてくれる。クリエイターとして、経営者として歩んで来たこれまでのこと、大きく変わる時代の中で今考えていること、そしてこれから。「結論のない話なんですが、聞いていただければ」という言葉からトークは始まった。

山田徳春氏

意外過ぎる転身。劇団員⇒カメラマン、そして独立へ。

山田氏が代表を務める株式会社500Gは、カメラマン、ビデオグラファー、クリエイティブディレクターなど8名が在籍する広告制作会社。「スタジオ テンジンベース」と「スタジオ シロバコ」という2つのレンタルスタジオを運営するほか、東京にも事務所を構え、写真・映像・グラフィック・Webなど、幅広いメディア制作に携わっている。

「カメラマン20%、経営者80%」と、今の仕事を語る山田氏。自ら撮影も行いつつも、経営者として忙しい日々を送っているが、実は20代前半までは役者として活動していたそう。「劇団ファントマというところで芝居をしていました。何かを表現したくて血気盛んだった頃ですね」。芝居漬けの青春時代を送っていたが、母親の大病をきっかけに退団。地元である三重県桑名市へ戻ったのが20代半ばの頃だった。「アルバイトをしながら1年程で母を看取りました。そんなできごともあり、手に職を付けて自立しなければいけないと思って」。ちょうどその時、幼馴染がカメラマンをしていたことから、カメラマンという職業に興味を持つ。写真を学ぶため、劇団時代の舞台撮影でつながりのあった故神本昌幸氏に師事した。

2005年に「office 500G」の屋号で独立。「最初から仕事があるはずもなく、アルバイトをしながら自宅兼事務所で独立しました。初月の売上は5万円くらいだったかな……。独立から1~2年間は、いつ辞めようかと考えてましたね」。厳しい船出ながらも、得意先の紹介などで徐々に仕事が増え出して上向きに。事業が軌道に乗り始めた。

作例
広告写真や映像の撮影に強みを持つが、紙媒体やWebのデザイン、さらに企画など、総合制作会社として活動している。

痛い失敗から学んだチーム戦と経営の難しさ

「独立して間もなく孤独を感じてしまって。自分には一匹狼のフリーランスは無理だと思ったんです」と、スタッフを雇ったきっかけを語る。10年程前には4人のスタッフを雇用していたが、9割近くの現場に自ら赴く状況だった。「このままではスタッフに給料を払えないと限界を感じたんです。そこから、いろんな案件を請けられるように、チーム力を活かす方向にシフトしました」。生き残るために個人戦からチーム戦への戦術変更。英断に思えるが、これが不幸の始まりでもあった。「複数の現場を回せますよ、夜遅くまでやりますよ、安くやりますよ、となってしまって。俗に言う“三バカ戦術”です」。未来の見えない状況にスタッフが去っていく時期が続いた。

まさに負のスパイラルというべき状況に陥ってしまうが、乗り越えなければ今はない。どうやって軌道修正したのだろうか?「レンタルスタジオの『スタジオ テンジンベース』を始めたことが大きいですね。自分たちが稼働しなくても、売り上げが上がることを知ったんです。税理士からも『現場に行くには限界がある。スタジオをもっと増やすべきじゃないか?』とも言われて」。自らの手を動かして稼ぐ作り手のマインドから、経営者のマインドへシフトしたことで潮目が変わった。

ちなみに、先のアドバイスをくれた税理士は、山田氏の地元の同級生でもある。気の置けない仲だからこそ、真っすぐな意見をぶつけてくれるという。「法人化前、ダンボール箱に領収書を入れて彼に送っていたんです。そうしたら『もうこのやり方は止めないか。会計も整っていないし、小銭に目を向けると会社は成長しない』って。株式会社化するときも『帳面がしっかりしていない会社は大きくならない』と何度も言われました。今こうしていられるのも彼の存在が大きいですね」。確かなブレーンが500Gを影から支えている。

テンジン ベース
大阪市北区にある「テンジン ベース」。窓から緑や河川を望むスタジオで、自社の撮影スタジオとしても活用されている。

激動の時代をサバイブするために考えていること

これまでの足跡を紹介したあとは、今考えていることへ。キーワードとして挙げられたのが「技術のコモディティー化」。コモディティー化とは、高い付加価値を持っていた商品の市場価値が低下し、一般的な商品になることを言う。「スマホでキレイな写真や動画が撮れる時代。キレイに撮れることに価値がある時代は終わりつつあって、コロナ禍でその流れが加速しているんじゃないかと。うちの会社では、単価が下がっている傾向もあります」と、厳しい現実を口にする

続いて、さまざまな変化の具体例が示されたが、特にSNSによる変化は大きいと言う。「素人が発信するリアルが受ける時代。インスタグラマーにレクチャー料を払って、SNSに向いた写真の撮り方を教わったこともあります」。プロカメラマンがお金を払って写真を習う事実に驚くかも知れないが、山田氏はネガティブに捉えてはいない。「いいねの数やフォロワー数が評価基準になる仕事が現実にある。良い悪いの問題ではなく、これまでと着地点が違う。カメラマンも変わらないと! キレイなだけじゃ勝てない」

この大きな変化に、どう立ち向かい、乗り越えるべきか。山田氏はこう考えている。「例えば、歌舞伎を見に行く人は、演目の内容は既に知っている。けれど舞台に足を運ぶんです。なぜなら、市川海老蔵などの看板役者が見たいから。人に魅力を感じているんです。500Gが考えるクリエイティブの本質も、“人が作るからおもしろい”ということ。『500Gが作るからおもしろい』とならなければ、生き残れないんじゃないかと思っています」。組織やスタッフが無二の個性を発揮できれば、人や仕事が自然と集まるようになる。そうすれば、“仕事をください”のスタンスから脱却できるのではないか。「そして、クライアントと個人のビジョンを一致させるのが仕事の本丸。クライアントが大切にしていることを、クライアント以上に好きになる。そのすり合わせの中で良い仕事ができればいいなと。言うは易く行うは難しですが(笑)」

トーク冒頭に流された動画には、焚火、釣りなどを楽しむスタッフの姿。個性豊かなスタッフが500Gを支えている。

経営者のみが知る最高のクリエイティブ

会社を成長させるために知恵を絞り、次の一手を打ち続ける山田氏だが、2021年のコロナ禍は無傷では済まなかった。「4000万。これは去年借り入れした金額です。4~6月は仕事がほぼゼロになってしまって、会社を畳む話が出るほどの大打撃でした」。そんな地獄の自粛期間中、たまたま目にしたのが映画『プライベート・ライアン』。ノルマンディー上陸作戦を描いた名作だが、あるシーンに釘づけになったと言う。「銃弾の雨の中、ようやく岩陰に隠れられたのに、隊長のトム・ハンクスが『突撃だ』って命令するんです。仲間からは自殺行為だと言われるんですが、『どうせここにいても死ぬ』って。このシーンを何度も見てしまいました」と、自身の現状を重ね合わせた。借りれるだけの借り入れをして、生き残るためのアクションを考えようと決断。コロナ禍が未来を考える大きな転機になった。

トークの終盤に披露されたのが、これからの会社の目標。なかでも力を入れていると説明するのが「従業員が幸せな人生設計をできる会社に」「従業員が目標を実現できる会社に」の2つだ。「面接する若者から、有給は何日あるか?残業はどれくらいか?と聞かれるんです。“会社には勉強しに行く”のが僕の感覚だったので、その質問に驚きました。けれど、ほぼ全員に聞かれるということは、この子たちがズレているんじゃなく、自分がズレているんじゃないか?と気付いたんです。そして、スタッフの人生設計のためには、給料が上がっていかなくちゃいけない」。未来の500Gを担うのは若者世代。会社を存続させていくためにも、働く環境を少しずつ改善していきたいと話す。

経営者としての思いを赤裸々に語ってくれた山田氏ではあるが、一人のカメラマンとして、クリエイターとして、創造する楽しみを失ってしまったのだろうか?「クリエイティブって、頭の中のイメージをカタチにすることだと思うんです。だから、今までにないスタジオを作ったり、会社の環境を良くすることも、カメラマンと同じくらい楽しい。めちゃめちゃクリエイティブを感じています。50歳までに基礎を作って、自分が死んでも会社を残せればいいな」と、笑顔でトークを締めくくった。経営者の苦悩や孤独の先には、何よりも夢中になれるクリエイティブがある。だからこそ、時代の変化という激しい雨の中でも、真っすぐに走り続けられるのだろう。

イベント風景

イベント概要

劇団員 → フリーランスフォトグラファー →法人化 → ?? 激動のこの時代、みんなこれからどうする?
クリエイティブサロン Vol.213 山田徳春氏

フォトグラファーを始めてから21年間があっという間に経ちました。「クリエイターとは!」「写真の未来とは!」、人様にそんな講釈たれる余裕もなく常に現在進行形。昨年よりコロナ禍に突入しえらいこっちゃで、いっぱい借金もしました(笑)。やっぱり大変やけど、まぁまぁ笑って生きています。自分の好きなことで少しでも世の中の役に立てれば、なんて思いつつも、ホンネは「これからどうする?!」。けっして正しい答えを持っているわけでもないんですが、僕のよもやま話を聞いてもらいながら、次につながる話をみんなでできたらええなぁ……なんて思ってます。

開催日:2021年10月7日(木)

山田徳春氏(やまだ とくはる)

株式会社500G 代表取締役
フォトグラファー / プロデューサー / 琵琶湖専門アングラー

1975年三重県桑名市生まれ。劇団ファントマ退団後、故神本昌幸氏に師事し写真撮影を学ぶ。2005年のoffice 500G.設立から2013年の500G Inc.法人化を経て現在に至るまで多くの撮影案件やプロデュース案件を経験。インテリア、ファッション、食の「衣・食・住」に関連する領域を特に得意とする。サントリー1万人の第九公式撮影チームのチームリーダーとしても12年間撮影チームを牽引。ライフワークの関西演劇界のフライヤービジュアル撮影でも目下活躍中。休日には釣り、キャンプなどアウトドアによる熱く燃えたぎる頭と身体の栄養摂取を欠かさない。

https://www.500g.jp/

山田徳春氏

公開:2021年11月11日(木)
取材・文:眞田健吾氏(STUDIO amu

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。