失敗も別れも糧にして、笑いながら、前へ前へ
クリエイティブサロン Vol.200 山下大輝氏

2021年度、メビックの初イベントとなったクリエイティブサロン。しかも、200回目という記念すべき回に登壇したのが、株式会社マジカルの代表取締役・山下大輝氏。メビックの元コーディネーターでもある人物だ。これまでの歩みで巻き起こった喜怒哀楽を、(会場が驚くくらいの)ぶっちゃけトークで披露してくれた。そこには、クリエイターとして、経営者として、人として、悩みながら突き進んできた姿が垣間見えた。

山下大輝氏

メビックが人生を変えた!? 悩める青年が独立するまで

株式会社マジカルは2014年4月創業。現在はスタッフ7名が在籍し、食品関係のパッケージデザインを中心に手掛けている。実績として紹介された仕事は、誰もが知る大手企業ばかり。「商品にまつわるWebや動画、アニメーションなど、プロモーション関連の仕事も増えてきました。最近では、ブランディングから声を掛けていただくこともあります。メビックに関わった当初、『みんな素敵な仕事してるな、あんな仕事したいな』と、憧れていた仕事が徐々にできるようになってきました」と、活躍の領域を広げ続けている。

そんな山下氏がクリエイティブ業界に足を踏み入れたのは、20歳のとき。「専門学校を卒業してデザイン事務所に入りました。毎日、締切りに追われながら雑誌のデザインをするのが楽しかったです。少しずつできることが増えてきたんですが、その事務所は基本的には新しいことをしない会社で、だんだんと『いろんなデザインがしたい! もっと力を試したい!!』という想いが強くなっていきました」

25歳のとき、思い悩んでいた山下氏に転機が訪れる。「お笑い芸人や放送作家をめざしている友達と、自主企画のお笑いライブを開催することになったんです。チラシ作りから会場費まで全部自腹。費用が足りないから、会場近くの商店街の店に飛び込んでカンパを募ったり(笑)」。自分たちの力だけでゼロから立ち上げるイベントは、悶々と過ごしていた青年にとって、日々を輝かせる希望でもあった。この渾身のライブが、さらなる変化を呼ぶことに。

「ライブスタッフの一人からメビックのことを教えてもらったんです。初訪問したとき、堂野所長に『もっと新しいことに挑戦して、自分の力を試してみたい。独立するか悩んでるんです』と相談したら、『辞めて独立したらええやん』って(笑)」。ちょうどそのとき、仕事で大きなミスを起こして悩んでいたタイミングでもあった。メビックへの訪問をきっかけに独立を決意する。

大森屋「バリバリ職人」のパッケージ
巷で話題の人気商品、大森屋「バリバリ職人」のパッケージデザインも手掛けた。「商品が美味しかったからリピートに繋がったのは大前提ですが、売り場やSNSで『パッケージが気になって手に取った』という声も多く見られたので、クライアント様の期待には応えられたと思います」

めざすは一攫千金。失敗から学んだ創業期

「自分はこんなもんじゃない! 大金が欲しい!一発当てたくて独立しました」と笑う山下氏。27歳のとき、4人で株式会社マジカルを立ち上げた。社長は山下氏、副社長には専門学校時代の同級生が就いた。「これまで出会ったデザイナーのなかで一番デザインが上手い! 学生時代から神童やと思っていました」と、心強い仲間と共に走り出した。

創業1期目は、雑誌の仕事がメイン。「前職と同じ締切りに追われる毎日でしたが、めっちゃ充実してました」と、営業を担う山下さんは片っ端から企業を回り、仕事獲得に奔走した。それでも資金が足りず、創業して数カ月後には、銀行口座に数百円しかないこともあったという。

そして2期目。少しずつ業績が上がってきた頃、メビックのコーディネーターに就任。同じ業界、同じ規模感の経営者や、さまざまなクリエイターと酒を酌み交わしながら語れることが心から楽しかった。「今日、来ていただいた人との出会いはメビックのおかげ。今も友達のように接してくれるクリエイター仲間や先輩たちからは、時にライバルとして刺激をもらっています。メビックでの時間と経験はかけがえのないものでした」

また、この年の学びの一つとして紹介されたのが「契約の大切さ」。ある企業の商品ブランディングに携わったときのこと。「仕事の流れとしては理解してますが、デザイナーがお客様に提案するとき『必ず売れる』という自信を持って提案しますが、売れるなら自分で作って売れば良い。でも『売れる確証』はなく、そこまでリスクは背負えない。心のどこかで少しずるい職業だなと思っていました。そこでイニシャルの費用は一切もらわず、完全なインセンティブで取り組むことにしました」と言い、ネーミング、コンセプト、パッケージなどを一手に担当。ブランディングの成果もあってか、商品の売り上げが順調に伸びてきた。しかし、そのタイミングでクライアントが支払いを渋り出したという。「できるだけクライアント様と同じ目線で、気持ちもリスクも一丸となって取り組むための完全インセンティブという実験でしたが、信頼があれば契約もいらん! という思いで、一切の契約書を結びませんでした(笑)。口約束に過ぎず、支払ってもらえないリスクはあったので、着手時からお金で揉めた段階で、全ての権利とデータを渡して終わらせると決めていました。この経験はとても勉強になりました」

戦友との別れが、新たなステージへ導く

迎えた4期目では、大きな赤字を出してしまう。当時スタッフが6人に増えていたことや業績不振が理由だった。「赤字になるとチラつくのが人員削減の選択肢。誰かを辞めさせざるをえないか……と悩んでいたときに、副社長がこう言ってくれたんです。『辞めさせるな。お前の人間性にスタッフは付いて来てるんだ。そんなことをすると会社が崩壊するぞ』って。嬉しい言葉と、赤字を誰かのせいにしていた自分への反省で泣きましたね。副社長のおかげで腹をくくることができ、がむしゃらにがんばりました」。状況は苦しいが、山下氏は誰も辞めさせないことを決意。また、自社の強みを伸ばすこと、薄利多売を見直して、クライアントを大手企業や自分たちが本当に好きな人(企業)との仕事に絞り込むことなど、組織としての考え方を固める年となった。

そして、2020年の7期目。新型コロナウイルスが猛威を振るう。売り上げはなんとか維持できたが、マジカル史上最大の事件が起こる。苦楽を共にしてきた副社長の退社だ。「会社や仕事に対する方向性の違いというか。ケンカ別れじゃないですよ!」と、お互いに納得した上での退社だったが、クリエイティブを統括する柱を失うことになった。「正直どうなるか不安だったんですが、スタッフの自主性が爆発! 副社長の判断に任せていた部分を、自分の意思を持ってガンガン進めてくれるようになったんです」。任されることで人は成長する。寂しい別れを糧にして、8期目の2021年も駆け抜けている。

これまでの歩みを振り返るなかで、山下氏が大切だと感じたことが二つある。一つめが「メンタルヘルス」。「スタッフに付き添ってカウンセリングに行ったり、じっくり話し合ったり。自分も含めたスタッフ全員の心を健康に保つことの大切さを痛感しました」。心の個性、仕事の個性を見極めたうえで、どう仕事を進め、どんな組織をめざすのか。相手の気持ちに耳を傾け、一方的な親切になっていないかなど、経営者として今も重要視している部分だという。

二つめは「思いやり」。副社長が退社した際、あるスタッフが「ソーシャルスタイル理論」の勉強会を開いた。この理論は、人の言動を大きく4つのスタイルに分け、その違いを認識することで円滑なコミュニケーションを図るもの。互いのスタイルを認め合い、尊重し合うことで、働きやすい環境を整えたい思いからの勉強会だった。「コミュニケーションで悩む仲間のために、スタッフが自主的に行動してくれたことに感動しました」

マジカルのスタッフのイラスト
マジカルのスタッフたち。「デザイナーってコミュニケーションが苦手な人も多いと思うんです。けど、自分にないところをあの人が担ってくれてるんだとか、コミュニケーションが苦手でも相手に感謝することはできる。思いやりのある会社でありたいです」

遥か高い頂を見据えて、真っすぐに突き進む

トーク終了後の質疑応答でも、山下氏らしさが分かるQ&Aが多く飛び出した。最後に少しだけ紹介しよう。

Q

一発当てるために行っていることはありますか?

A

いろいろとチャレンジしていますが、特に印象的なのが3期目のときにスタッフ全員で行った淡路島合宿。一発当てるためのアイデアや考え方を、お酒を飲みながら一日中話し合ったり。あれは楽しかったですね(笑)。

Q

大手企業の仕事を勝ち取る秘訣は?

A

単純に営業している数だと思います。一人だとなかなか営業できないじゃないですか。僕たちはずっと営業しているから。営業スタイルもごく普通。「デザイン事務所なんですが、ご担当の方に繋いでもらえないでしょうか?」と、電話でアポイントを取っています。やっぱり、断られることの方が多いですよ。

Q

どんな苦労があっても常に前向きな姿勢を感じました。気持ちをポジティブに保つ秘密は?

A

もともとこういうタイプなんだと思います(笑)。悩んでいてもお金を生まないですし、涙はお金にならない。それなら、みんなで楽しく笑って前に進めばいい。向き不向きより前向き! CanよりDo!!

トークの締めに語られた今後の目標は、「10期目までに年商1億を超える。そして、40歳までに年収5000万!」と、めざす頂はやはり高い。さまざまな喜怒哀楽を飲み込みながらも、常に上を見上げ、パワフルに未来を拓く熱量は、奥手なクリエイターにとっては眩し過ぎるかも知れない。しかし、「自分も頑張らないと!」と、来場者の心に明日へのエネルギーを満たしてくれるようなサロンだった。

イベント風景

イベント概要

創業からの出会いと別れ マジカル7年間の喜怒哀楽
クリエイティブサロン Vol.200 山下大輝氏

スタッフの体調不良、新型コロナウイルス、散々な時期。そしてまさかの副社長退社。社内外問わず出会いや別れがありますが、いやー今年はエグい! でもなんか楽しかったですね! 誰かが退社するのってやっぱりちょっと寂しい。このまま少し業績的には落ちていくのかなと心配していましたが、スタッフの驚異的な成長と、強烈な新しい出会いで「今までで一番の成長」を記録しました。そして、現在の社内の意欲と勢いで更に今期爆発します。
そもそも思い返せば、自分の人生こんなもんじゃないとあれこれ動き、メビック扇町と出会い、いろんな先輩方と出会い勉強させていただきました。時には考え方の合わない人もいましたが、それでも学び成長できたのは全て出会いのおかげだと思います。僕がいつも楽しく仕事できているのはやっぱり皆さんやスタッフのおかげです。今まで思った通りに「いかなかった」自信だけはあるので、そもそも落ち込む要素がない。どうせやるなら楽しみたい!
この7年間の学びと、これからのあれこれ。人との出会いと別れ。赤字や黒字。マジカルの考え方とやり方。聞いてください。僕の喜怒哀楽と爆発を。

開催日:2021年6月14日(月)

山下大輝氏(やました ひろき)

株式会社Magical 代表取締役

20歳よりデザイナーとしてデザイン事務所に勤務。7年間の勤務を経て、株式会社Magicalを立ち上げ。現在、7名のデザイン事務所。パッケージデザイン・ブランディングをメインに企画、紙媒体全般、キャラクター製作やWeb製作など多岐にわたる分野を手がけています。「売り上げ」と「クライアントとの関係性」にこだわって製作しており、単発発注だけではなく、商品の開発から発売後の反響やその後のプロモーション企画まで責任を持って取り組んでいます。商品自体の良さや、ご担当者様の想いをデザイナーが丁寧に汲み取り、適切な形で消費者の皆さまへ伝えるためにはどうすればよいか。社内・社外・社会への「思い遣り」を大切に、商品やサービスの一番のファンとして取り組んでいます。

山下大輝氏

公開:2021年7月30日(金)
取材・文:眞田健吾氏(STUDIO amu

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。