事業会社で実践してきたWebマーケティングへの取り組み
クリエイティブサロン Vol.203 大江健太郎氏

ホームページは企業にとって重要なツールだ。しかし、「ホームページ制作イコールWebマーケティング」ではない。事業会社にとってホームページは完成して終わりではなく、完成してからがスタート。今回のクリエイティブサロンでは、デジタルマーケティング&Web制作・開発を行う株式会社アンバーの代表取締役・大江健太郎氏が登壇。Webクリエイターである合同会社ホームランオフィスのロックオン柳田氏と、事業会社におけるWebマーケティングについて語り合った。

大江健太郎氏

小さな成功の積み重ねがプロジェクトの推進力に

AdobeのMAツールMarketo Engageユーザーから選出される「MARKETO CHAMPION」に2020年と2021年の2年連続で選出された実績を持つ大江氏。代理店から転職し、約9年間にわたって事業会社のWebディレクター / マーケター / クリエイターとして経験を積んだ。2021年4月にデジタルマーケティング&Webクリエイティブの会社を設立。デジタル活用やWeb戦略に課題を抱える企業にとっては頼もしい存在だ。

そのような大江氏に対して、柳田氏から最初に寄せられたのが、プロジェクトに関わるチームや社内の体制づくりへの質問だ。制作もWebマーケティングも費用と人員と時間を投入するプロジェクトとなることが多いが、人のモチベーションはさまざま。プロジェクトをスムーズに進める秘訣が問われた。

「企画を実践するためには、会社の許可と同僚の協力が必須です。上司や役員を説得し、会社から予算をもらい、さまざまな職種の同僚たちの協力を得なければなりません。重要なのは信頼と信用を得ることだと思っています。そのためには小さな成功を積み重ね続けることが大切です。『この人は面白いことを考える』からはじまり、『この人は成果を出す』になり、やがて『この人は正しい事を言う』に変わる。さらに最終的に『まずはこの人に聞いてみよう』までいけば、自然と人も情報も集まってきます。そうなるとこちらの話を聞いてくれますし、いろいろな人も動いてくれます」(大江氏)

体制づくりへの回答に大いに納得した柳田氏。しかし、さらなる疑問が生まれる。大江氏にとっての「成果」の位置づけだ。

「成果を図る目標を設定する場合、まずは最終目標であるKGI(重要目標達成指標)を設定します。次に、KGIに影響する要因をすべて洗い出します。例えばKGIが「売上〇〇%増」の場合、これに影響を及ぼす要因は問合せの増加や問合せ商品の単価アップなどがあります。さらに“要因の要因”も洗い出します。問合せの増加という“要因”に対しては、集客数を増やす、直帰率を減らすなどの“要因の要因”が挙げられます。それらすべてをKPI(重要業績評価指標)に設定します。KPIをクリアしていけば、KGIつまり最終目標が達成される。成果ひとつは小さいですが、ひとつひとつクリアしていくことでゴールに到達するのです。このように目標は設計しています。」(大江氏)

ロックオン柳田氏
聞き手:ロックオン柳田氏

重要なことは適切なタイミングに、適切な内容を、適切な方法で届けること

続いて話題は、今回のメインテーマであるWebマーケティングの各論に。大江氏が実践しているさまざまな取り組みが紹介された。その一端を、大江氏の言葉で紹介しよう。

「WebマーケティングといえばSEOやWeb広告のイメージが強いですが、それらは集客施策であってWebマーケティングではありません。Webマーケティングはリアルのマーケティング同様に、市場分析や環境分析を行い、顧客を理解しWebを通して価値提供する仕組みだと思っています。さらにWebでは企業とお客様の直接やり取りが可能なため、コミュニケーション戦略も重要です。Webマーケティングにおいては自社サイトを必ず作ったほうが良いとは思っていません」

「顧客を理解することはとても重要です。商品やサービスがほしくなった動機、ほしくなったときに必要とする情報、その情報の調べ方や状況・環境・知識量など、顧客行動をとにかく考えます。さまざまなパターンの顧客行動を想定し、その顧客行動に沿ってWebマーケティングを展開することで、適切なタイミングに適切な情報を、適切な方法で届けることができる。個人的にはその実現を一番大切にしています」

「ホームページを作るとき、実はWebマーケティングは必須ではありません。作りたい会社と作れる人や会社がマッチングできればホームページは完成します。ただ、Webマーケティングに取り組むなら、ホームページは制作段階から考え抜いて作る必要があります。例えば当社で作らせていただく場合、まず制作前にキーワードを徹底的に分析し、検索意図やニーズを理解し、対象キーワードを決めSEO施策の方針を定めてサイト構造に当てはめます。次に検索キーワードから顧客がほしい情報を分析し、顧客がたどるページ動線をすべて洗い出します。そしてページ単位で目線や情報訴求の順番などを意図的になるよう設計します。最後にブランドイメージに合ったデザイン装飾を施します。これらのことを行うので、『とりあえず作ったサイト』しかない場合は、サイトのリニューアル提案から行うケースが多いです」

イベント風景

「顧客は何を求めているか?」相手の求めていることを最優先に考え発信する

具体的な事例や経験をもとに語られる話に、柳田氏も参加者もうなりっぱなし。そんななか、柳田氏からは「会社の認知度が低いと、やはり厳しいのでは?」という質問が投げかけられた。

「会社の認知度はとても強力ですが、必須ではないと思います。例えば家のキッチンでひどい水漏れが起こったとします。今すぐ修理に来てくれる業者を探す場合、仮に知らない会社だったとしても、ホームページを見て信用できそうだと感じれば、電話して修理できるか聞いてみるのではないでしょうか。この場合、顕在化ニーズは『今すぐ修理』です。ネット検索で接点を獲得し、スマホ対応していたので料金や事例がわかりやすくて好印象だった。家の住所なら即修理にうかがえるとあり、ニーズが満たされたので電話に至ったケースです。このケースで認知度は重要ではありません。ただし、認知度があれば、今すぐ修理となった時点でその会社名で検索されるため、認知度が高いことはとても強力です」

ホームページ集客にはSEOも重要。専門会社に依頼したり、自社でブログを充実させる対策をしたりと、各社さまざまな方法を実践している。この点について大江氏の見解を紹介しよう。

「SEOは大切ですが、ただ訪問数が増えれば良いとは思いません。当社のSEO施策は特定のキーワード上位表示施策ではなく、お問合せにつながりやすいキーワード群の集客増をご提案しています。そのため『ただ作っただけのWebサイト』だと、サイト構造に課題があることが多いので、リニューアルが必要になります。また『ブログをできるだけ更新してください』ということも言わないようにしています。そもそも会社の日常のブログって、誰が興味あるのだろうって思っています。2、3日に1回なんとなく書くなら、2週間かかっても、お客様が読んで参考になる、感心する、感動するような文章を、練りに練って書くほうがいいとお伝えしています。言いたいことではなくて、相手が知りたいことを発信するのです。これはブログもそうですが、Webページの制作でもSEOでも同じです。SEOの場合“相手が知りたいこと”を、なんとなくそう思うレベルではなく、徹底的に調査・分析し、ある程度の確証をもって展開することで効果と成果が出ると思っています」

この他にも、顧客ニーズと自社の強みを結びつける方法や、デザインで機能性や回遊性を向上させる具体的な事例、ペルソナのアップデートなどが語られた。

作例

Webサイトを作って終わりではない関係性へ

大江氏は今年4月に株式会社アンバーを設立した。となると、気になるのは今後の活動だ。

「当社のサービスはデジタルマーケティングとWebクリエイティブの提供です。『とりあえずサイトがほしい、安くサイトを作りたい』といったご依頼は、正直、得意ではありません。作って終わりというよりは、ひとつひとつじっくりと取り組んでいきたいと考えています」

ある程度規模の大きい企業しか依頼できないのでは、という質問に対しては、「たしかに普通に制作する場合、他社よりも制作費用は割高だと思います。ただ、長期計画に沿ってひとつひとつ段階を踏んで着手していくことも可能ですので、企業規模の大小よりはご要望の内容が当社でご支援できるかどうかが重要だと思っています。ただし、売上は上げたいけどコストはかけたくないというケースは難しいかもしれません」

企業のデジタル戦略・Webマーケティングからサイト制作・システム開発までを支援している大江氏の足取りから多くの学びを得つつ、「次はどんなことをするのだろうか」という期待が膨らむなかで今回のサロンは幕を閉じた。

イベント風景

イベント概要

事業会社のWeb戦略。サイト制作とWebマーケティングの違いとは? 
クリエイティブサロン Vol.203 大江健太郎氏

Webマーケティングが無くてもサイト制作は可能です。発注する企業と受注する制作会社で完結します。また、WebマーケティングはWeb広告やSEOの意味で使われることもしばしばありますが、どちらも的確ではありません。マーケティングとは戦略や仕組みを指しますが、サイト制作やWeb広告・SEOは手段・手法です。本来のWebマーケティングとは、マーケティング・デザイン・エンジニアリング・データ分析・広告配信・ITツールなどを用いた戦略だと考えています。今回は事業会社で計9年行ってきた、Webマーケティング視点でのデザイン・制作・データ活用・デジタル戦略などをお話しさせていただければと思っております。

開催日:2021年7月8日(木)

大江健太郎氏(おおえ けんたろう)

株式会社アンバー 代表取締役

制作・代理店会社・冠婚葬祭企業のインハウスWebディレクター&クリエイターを経て、2021年3月末まで福屋ホールディングスで約5年Webマーケティング責任者として従事。広告・SEO・サイトリニューアル〜改善・SNS施策・既存顧客施策(CRM)・MA導入〜運用など、グループ全体のWeb戦略を体制作りからはじめ、長期戦略立案から実践まで担当。2021年4月に独立しWebマーケティング・Webサイト制作・システム開発を行う会社を創業。尚、FUKUYAグループ全てのデジタルマーケティングは継続して戦略立案から実践までの全てを担当。

2020年Adobe Marketo Champion受賞

https://umber-jp.com/

大江健太郎氏

公開:2021年8月3日(火)
取材・文:松本守永氏(ウィルベリーズ

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。