デザインというものが浸透していない分野をデザインしてみたい
福嶋賢二氏:KENJI FUKUSHIMA DESIGN

福嶋氏

家具、照明、クッション、ラグ、文房具など、日常のあらゆるものをデザインする福嶋賢二さん。国や文化の違いを超えて愛される普遍性と、暮らしがほんのすこし楽しくなる遊び心。福嶋さんの活動は、イタリアで開催される家具の見本市、「ミラノサローネ」への出展を足がかりに、海外メーカーとのものづくりなど世界的な広がりを見せている。

素材が持つ強みをシンプルに、わかりやすくデザイン

学生時代は工業デザインを学んでいたという福嶋さん。大学3年のときに、イタリアで開催される「ミラノサローネ」に出展する機会を得たことで、家具デザインのおもしろさに開眼。4年になり大学院への進学を考えていた折、友人のすすめもあってスウェーデンに留学。帰国後は喜多俊之氏のもとでプロダクトデザイナーとしてのキャリアを積み、2011年に独立、今年で2年目になるという。中でも2012年に発表したFOOPという照明器具は評判がよく、手応えを感じた作品のひとつだそう。

「このライトは輪っかのパーツをふたつあわせてつなぎ、ぎゅっとプレスで曲げただけの本当にシンプルなもの。制作する上でも簡単にできて、それでいてLEDでしかできない薄さであったり、形状を追求したものになっています」

福嶋さんのデザインはこのように、素材が持つ特性であったり、そのメーカーが持つ技術力であったりを、ひとめでわかるよう端的に表現するのが特徴だ。なおかつ、はっとするようなフォルムなど、シンプルなだけでない新鮮な魅力を感じさせる。

「ミラノサローネでは、イタリアだけじゃなく北欧の企業とも繋がりができたので、今後は海外のメーカーさんとも積極的に商品開発をやっていきたいですね。おそらく半年や1年ではできないと思うんですけど、時間をかけて、じっくりと」

FOOP

文房具というジャンルへの足がかりとなった、消しゴムデザイン

家具から出発した福嶋さんの転機となったのは、誰もが知るあの消しゴムのデザイン。それはロングセラーの「まとまるくん」が、2011年に25周年を迎えるにあたって、大人向けのものをデザインしてほしいという依頼だった。深みのあるシックな色使いは、まるで海外のステーショナリーを思わせる仕上がりに。

「中の消しゴム自体は、もともと黒の商品というのがあったんです。それを見たときに、これをうまく生かせば上質感のあるものができそうだな、と。そこで、新たに別の色を開発するより、黒を土台に外回りを考える方向でやろうと決めました。スリーブは、タント紙に活版印刷することで質感にもこだわって。これがきっかけで、文房具の依頼がちょっとずつ増えていきました」

新しいジャンルの仕事に取り組むときに福嶋さんが大切にしていることは、工場などを訪問してものづくりの現場を「見ること」。そして、現場にいる人たちととことん「話すこと」。
「やっぱり、行かないとわからないことがありますから。その道のエキスパートである職人さんと会って話すのも好きですね。最初のアイデアみたいなものはもちろん投げますけれど、そこからやりとりを重ねることで、いろんな可能性を探っていくのが楽しい。今も、一人でデザインしているっていう意識は全然ないんですよ」

まとまるくん

いつか、神社仏閣の総合プロデュース的な仕事をしてみたい

福嶋氏

ハイセンスで趣味性の強いアイテムを得意とする福嶋さんだが、今取り組んでいるのは、意外にも「数珠」「仏壇」といった超ドメスティックなアイテム。いつか、神社やお寺の総合プロデュース的な仕事をしてみたい、と考えていたのだとか。

「デザインというものがあまり浸透していない分野を、デザインしてみたいという気持ちがあって。たとえば、神社に行ったときにお守りを買うじゃないですか。すると、だいたい2種類の色があって、健康祈願だったらこれ、学業成就だったらこれ、みたいに選択の余地がほとんどないですよね。
そんなことを考えていたら、タイミングよく数珠のメーカーさんとの出会いがあって。若い方でも、ファッションの1部として気軽に持てるようなものを提案させてもらっています。
仏壇もやはり、若い方が今、家にないという状態から、抵抗感なく買っていただけるものをつくろうと。オブジェとしても置けるような、ミニマムな、最小単位の仏壇。ただ、やはり人がそこに思いを込めるためのものですから、試行錯誤しながらすすめています」

福嶋さんのデザインは、言葉の世界でたとえるなら短歌のようなものだと感じた。ありったけの言葉を尽くして長々と語るよりも、研ぎすまされた最小限の言葉の方が、時にストレートに胸を打つことがある。そのために、「デザインしすぎないこと」もまた重要なのだと、手掛けたプロダクトを見て気づかされた。

SORATAYORI
晴れ、雨、曇りという3つの空模様を表現したSORATAYORIはMebicのイベントがきっかけで誕生。
東京のMOMAショップでも取り扱いがある。

公開日:2013年07月22日(月)
取材・文:underson 野崎泉氏
取材班:東善仁氏