関西のジャズシーンを支える若きクリエイター
藤岡 宇央氏:ジャズグラ

藤岡氏

ジャズ専門のグラフィックデザイン事務所『JAZGRA』の代表を務める藤岡宇央氏。アートディレクター・デザイナーを本業としながらも、関西ジャズ無料情報誌『WAY OUT WEST』の編集・発行やジャズレーベル『JAZZ LAB. RECORDS/BLUE LAB. RECORDS』を手掛けるなど、関西のジャズ界にはなくてはならない存在になっている。三十代という若さで関西ジャズの魅力を発信し続けている氏に、ジャズの魅力やこれまでの経緯を伺った。

仕事や生き方に疑問を感じていた二十代

イラストレーターを目指していたが、学んでいた専門学校でデザインの面白さを知ったという藤岡氏。卒業後はデザイン事務所に就職し、デザイナーとして多忙な毎日を過ごすことになる。徹夜で仕事をすることも多い過酷な日々のなかで、ある疑問を膨らませていった。「いったい何のために働いているのだろうかと、仕事に対する意義が見出せなくなりました」。

やがて、バックパッカーで世界を旅するように。「二十代のうちにインドへ行くことを目標にして、アジア圏を中心に10ヶ国ほど巡りました。スケッチブックを抱え、行った先々で絵を描くなど思うままに行動しました。若いからこそできた放浪の旅。経験しておいて良かったですね」。自分の世界観や視野は確実に広がっていった。

そして、その後のジャズとの出会いが大きな転機となる。


ジャジーな魅力に溢れた藤岡氏のイラスト作品

最初はジャズの良さがわからなかった

「ロックが好きで学生の頃から聴いていたけれど、いろいろ聴いていくうちに、テクノやインストゥルメンタルも聴くようになって…その先にジャズがありました。それでジャズに詳しかった親戚の伯父さんにジャズが聴きたいといったらマイルス・デイビスや昔の名盤をダンボールで送ってくれたんです」。

しかし、最初は聴いても理解できなかった。「自分は音楽が好きだという自負があったから、ジャズの良さがわからないことが悔しくて。でも、とりあえず聴きまくっていたらなんとなくわかるようになりました(笑)。今思うと、自分の耳が日々成長していく過程が面白かったですね」。

こうしてジャズを探求するようになった藤岡氏。

しかし、ここで新たな問題が浮上する。
「ジャズを聴いているうちに、ライブを観たくなったんですね。生の音ってどんなかんじだろう、と。でも、どうやってライブ情報を入手したらいいのか分からなかったんです」。

ジャズが好きになってみえてきたこと

ジャズが演奏されている場所を探しながら、その情報をまとめていったのが、氏が作った『ジャズやねん関西』というホームページだ。「演奏している場へ足を運びつつ、情報をまとめていったのがWEBサイト『ジャズやねん関西(当時は“ジャズやねん大阪”)』の始まりです。2004年当時は今のようにSNSが普及していなかったから、貴重な情報サイトとして評判になりました」。

ライブに通うなかで、心に引っかかったものがある。
「ライブハウスに置いているフライヤー(チラシ)やCDジャケットのセンスに疑問を持ちました。僕がジャズにハマッたきっかけの一つがビジュアル・デザインの素晴らしさ。レコードジャケットがアート作品と言えるほどの魅力があるものが多い。ジャズの魅力が伝わらないビジュアルを目にする度になんとかしたいと思いました」。

この“なんとかしたい”という思いから、殆どボランティアでCDジャケットやフライヤーのデザインも手掛けるように。地元のミュージシャンやライブハウスとの繋がりをデザインとポータルサイトで広げていった。

これらが実を結び、関西ジャズ無料情報誌『WAY OUT WEST』に発展していく。


老舗ジャズクラブ(since 1970)「SUB」での
ジャムセッションの様子


「ミスターケリーズ」では初のライブレコーディングを行った

ジャズの世界で奮闘する日々のなかで

2006年、ジャズ専門のグラフィックデザイン事務所『JAZGRA』を設立。毎月発行する『WAY OUT WEST』は関西のジャズに関する情報が詰まった専門誌として愛され続けている。また、『JAZZ LAB. RECORDS』『BLUE LAB. RECORDS』といったジャズレーベルも運営。プロデュース、ディレクション、編集、デザイン等幅広い分野で関西のジャズシーンを支えている。
「誰もする人がいなかったから、自然とこうなった(笑)。関西のジャズ界はサポーターが少なすぎる。この業界に関わってくれるクリエイターがもっとでてきて欲しい。全体のクオリティーを上げていくことで関西ジャズの認知度が高まればと願っています」。

今では、オランダのジャズミュージシャンのCDやポーランドのジャズフェスのためのイラストを頼まれたりと、海外からの発注も多い。ニューヨークで行った個展も好評だ。

「昔のように“自分は一体なにをしているのだろう”という思いはなくなりました。ジャズと出会ったことで、ちゃんと必要とされているところで自分の力を発揮できる楽しさを感じています」。


手に取りやすいA5サイズでジャズの入門書としても最適


ポーランドの街のポスター柱には、手掛けたSOPOTジャズフェスのポスターが

公開日:2012年09月28日(金)
取材・文:Phrase 久保 亜紀子氏
取材班:株式会社ファイコム 浅野 由裕氏