ゆとりと新たな視点を提供するデザインを目指す。
藤田 朋氏:トモグラフィックス

藤田氏

会社案内や学校案内、社内報といった編集系のグラフィックデザイン、さらにはポスターやチラシなどもデザインするトモグラフィックスの代表・藤田氏。映像や写真にも興味を持ち、「クライアントが伝えたいことを最適な方法で伝えられるなら、グラフィックデザインにこだわらない」という藤田氏が、グラフィックデザイナーになるまでの道のりや、主宰するクリエイティブスペース“Villege”についてお話をうかがった。

モノづくりを仕事にしたいとパン職人→グラフィックデザイナー。

絵を描くのが好きだった藤田氏の両親は、市民楽団に参加するアマチュアで音楽活動をしており、絵画や芸術に寛容だったという。大学進学時には芸大進学も考えたが、受験勉強になじめなかったのとモノづくりに興味があり、パン屋で修行することに。
「芸術系の大学に行きたかったんですがちょっと厳しい状況で、どうするか考えた時にモノづくりに興味があったんです。働きながら学べるコトを探していて、食も芸術のひとつだとパン屋で修行することにしました。モノづくりの仕事に関わりたいという思いはあったんですが、どんな仕事でそれを達成するかまだ絞り切れていませんでした。そのため、パン屋修行は1年で挫折することになってしまいました」

しかし、それは藤田氏が自分が仕事にできるモノづくりは、グラフィックデザインだと心に決めた瞬間でもあった。そこで、一念発起してデザイン専門学校を受験することに。でも、本当にグラフィックデザイナーとして役に立ったのは、専門学校入学前からずっとアルバイトをしていたカメラ屋での仕事だった。
「本格的にMacを触り始めたのは、このカメラ屋でのバイトです。専門学校の授業よりも全然面白かった。写真の知識も学校ではなくアルバイト先で学びました」

専門学校卒業時は、ちょうどバブル崩壊の真っ只中。就職は決まらず、デザイン会社にアルバイトとして採用された。しかし、お客様の顔がきちんと見える仕事がしたいと3年弱で退社。自分が働きたいと思うデザイン会社への転職活動を開始した。
「転職活動中に知人デザイナーの仕事を手伝うことになって……。いくつか手伝ううちに、知り合いのカメラマンと事務所をシェアすることになりました。でも、この時も独立を意識することは、まだありませんでしたね」

仕事に必要なモノは街が与えてくれた。

藤田氏

自然の流れに身を任せていると、次第にフリーランスの仕事が忙しくなってきた藤田氏は、独立することに。全く準備もない中での独立でも頑張れたのは、オフィスシェアのおかげだという。
「いろいろな人が出入りして自分の輪が広がっていくのが本当に楽しかった。オフィスをシェアしていなかったら就職していましたね」

さらに、独立をきっかけにあるスキルを高めようと取り組み始めた。
「独立した当時からずっと、自分はコミュニケーションがヘタだと感じていたんです。そんな自分を打破するべく、全く違う業種、例えばクライアントになるような人と会おうと考えました。そこで、一人で夕食を食べに行って近くの席の人に話しかけたり、バーで隣の席の人に話しかけたりと、こちらから積極的にコミュニケーションを取っていました。この経験で色々な人と話せるようになりましたし、実際にお仕事をさせていただいたことも数知れません。仕事以外の交友関係も広がりました。当時の私にとってはこれが営業活動だったのかもしれませんね」
このスキルはクリエイターとして仕事をし続けていく上で高め続けないといけない課題だと藤田氏は考えている。

クリエイティブでつながるコミュニティハウス“Villege”。

creative space village

6年近くシェアオフィスに滞在した後、個人で事務所を借りその後5年弱。10年後の自分に漠然とした不安を感じ始める。
そんな藤田氏が2011年に『ACDC;02』に事務所を移転し“Villege”を立ち上げた。
「フリーランスになって10年目。次の10年を考えるにあたって、自分が10年後にどんなスタンスで仕事をしているのかを考えはじめた時に『ACDC;02』の話をいただいたんです」

そこで、自らの今までのシェアオフィスの経験を活かそうと、何人かで集まってオフィスを利用することに。
「“Villege”は、単なるシェアオフィスや場所貸しではありません。入居企業が対等な立場で個人の判断や考えを尊重しつつも、自分たちの価値向上を目指して繋がっていくような関係を構築する空間として存在しています。ちょうどユニットとシェアの中間の発想でしょうか。」
シェアでもユニットでもオープンスペースでもない。そこにはゆるやかなネットワークが存在する。
「この“Villege”を小さなコミュニティとして育てていきたい。クリエイティブがキーワードのコミュニティハウスといった活動イメージを持っています」

最適な“伝える”を仕掛けられるグラフィックデザイナーに。

藤田氏はデザインの仕事を進める上でどんな部分に着目しているのだろう。
「“気づかせる”がキーワードですね。発信側からはカオスな情報を汲み上げて、整理してシンプルに情報として伝えることや、受け取る側にゆとりと新たな視点、気づきを与える、といった“伝える”を仕掛けるクリエイターになりたいですね」

それにはグラフィックデザインには固執しないで、最適な手段を選び、使いこなせるクリエイターを目指したいという。
「広い知識で、クライアントの困りごとと、それを解決するプロの技術との接点になりたい。クライアントの問題を解決できるならグラフィックデザインにはこだわりません」

将来の藤田氏が目指すクリエイターの仕事についてたずねた。
「グラフィックデザイナーは物事を俯瞰で見る目と、ピンポイントで見る目の両方を備えています。全体の仕組みをデザインしながら、必要なクリエイティブをプロデュースすることができるはず。私自身も、そんな仕事をしていきたいですね」

※2012年8月に「(株)モグ」に社名変更されました。

公開日:2011年10月31日(月)
取材・文:株式会社ショートカプチーノ 中 直照氏
取材班:株式会社キョウツウデザイン 堀 智久氏