“人間力”が人を結び、仕事を生む
竹村 博臣氏:ハミングバード

竹村氏

メーカーの展示会などで目にするスーパーリアルなイラスト。ホンモノよりも迫力があり、訴えかけてくるものがある。最近では3D描写で、あらゆる方向から製品の緻密な構造を知ることが可能になった。この精巧なイラストをコンピュータグラフィックスのない時代から描き続けているハミングバードの代表、竹村博臣氏。30年近く続けている仕事のなかでの変化や大切にしていることを伺ってみた。

26歳で独立。今しなければ必ず後悔すると思った



製品の構造と魅力が伝わるコンテンツデザイン

子供の頃はサッカー少年。高校生になると俳優を夢見て映画を制作したりもした。デザインを仕事にすることなど夢にも思っていなかったが、何かを表現する仕事をしたいと思ったとき、楽しそうだと感じた室内装飾を勉強してみようと専門学校に入学。学びのなかで、製図よりも水彩を使った建築パースの面白さや絵を描く楽しさを知った。
卒業後は宝飾関連の会社に就職したものの、もっとデザインの仕事がしたいと思い、テクニカルイラストの会社への再就職を果たした。厳しいイラスト業界で、一からイラストを学ぶ日々。
独立を決意したときには26歳になっていた。
「やはりイラストレーターというのは美術系の大学を卒業した人が多くて。私が独立しようと思った26歳という年齢は、スタートするには遅すぎると社長に反対されました」。
しかし、決意したことはやってみないと後悔するのでは、と気持ちのほうが強かったと言う。「どこまでできるかやらせてください、と社長にお願いして独立しました。けれど、独立しても得意先も全くない状態。電話帳で『商業デザイン』というカテゴリーの一番上から順番に電話をしていくところから始めました」。

そんな地道な努力の結果、取扱説明書のイラストなどパーツリストの仕事が自然と増えていった。会社の事業内容や製品のことを熟知しながらイラストを描くようになって感じることがあると竹村氏は言う。
「専門的に機械の構造まで理解して描いているところは少ないと思います。私の仕事はイラストを描くことですが、同時にその企業をいかにしっかりサポートをしてあげられるかというところも含めて仕事だと思っています。そういった意味では、関わってきた仕事の積み重ねが大きく実ったと感じていますね」。

仕事の面白さは人との出会いにある

一つひとつの仕事を積み重ねていくとともに、人との出会いもまた積み重ねだと語る竹村氏。「絵を描く面白さや、モノ作りの面白さはもちろんあります。しかし、人と人が繋がっていく面白さというのもこの仕事にはあるんです。ですから“こんな仕事がしたい”というよりも、“こういう人に会いたい、こういう人と仕事をしたい”といった思いのほうが強いですね」。

パナソニックショップの後継者を育成する松下幸之助商学院のマーケティング講師として活動を始めたのも、得意先からの繋がりで生まれた出会いだ。「たまたま出会った学院の先生と、話をするうちに意気投合。代わりにやってくれないかと言われて驚きましたが、断るよりはやったほうが刺激になると思い、迷わず承諾しました(笑)」。

授業ではプライスカードや商品・情報カードなど店で扱うPOP作りを教える。学院生は初心者ばかり。パソコンを使わない手描きの作業だからこそ、なぜ手描きが必要かというところから説明をする。「一生懸命にやっている姿をみるのがやっぱり嬉しい。自分の作ったPOPが実際に店で役に立ったと喜ぶ声を聞くと教え甲斐もあります。いい仕事だなと思ってずっとやらせていただいています」。

人との出会いから始まった新しい道。これが原動力となって、また新たな仕事を生み出しているようだ。

人と人を結ぶクリエイターズ・ネットワーク、MONOを設立


展示会に出展した時の“MONO”ポスター

人と人の出会いを大切にしている竹村氏が取り組むもうひとつの顔がある。それは、場所に関係なくクリエイター同士が自由に情報交換でき、繋がりのなかで面白い企画を生み出そうというネットワーク作りだ。

「mixiが立ち上がったときに、このSNSのなかでクリエイターを集めてなにかできないかと。都道府県にモノ作りの中心人物をおいていくことでいろんな繋がりができないかと思い、“MONO(モノ)”を設立しました。すると、東京をはじめ各地から多くのクリエイターが賛同してくださったんです」。一年目には自ら東京に出向き、30人ものメンバーに会ったという。そんな出会いのなかで、受注発注するというデザイナーのスタンスではなく、MONOブランドとして自ら発信していこうという話に。2年が経つ頃には、大阪で二週間、クリエイターが自由に自分の作品を発表・販売できるイベントも行なうほどになっていた。
「MONOのコンセプトは“モノづくりよりも人づくり”。参加者はデザイナーとは限らない。例えば料理を作るシェフも立派なクリエイター。クリエイターに憧れている人でもいい。思いがある人同士を繋いでいく“場”を創造したいんです」。

今後もしっかりと活動を続けていきたいと語る竹村氏。ブレのない明確なコンセプトを守りながら更なる発展を成すために、新しいカタチを模索中だ。

大切なのは人間力。人としての成長が仕事に繋がる

人との出会いや繋がりを大切にしながら仕事をするなかで、大切にしていることが二つあるという。
「先ず、“仕事人である前に社会人であれ”ということ。やはり人として常識がないと、良いものは生まれません。もうひとつは“しんどい時こそ丁寧にする”ということ。人は疲れると、どうしても仕事が粗くなってしまう。考えも甘くなりがちです。そんな時だからこそ丁寧にすることが大切だと思います」。これは教育方針としても反映されている。自分の子供や生徒達にも同じことを伝えているのだとか。「仕事を通して出会いの大切さを実感してきましたが、良い出会いをするためにも、自分の人間力を磨くことがなによりも大切です。これからの若い人達には、いろんな経験を積んで人としてきちんと成長していって欲しいと強く思います」。

第一線で現役を続けながら、人間力のある人材を育てることにも貢献していきたいと語る竹村氏。

「過去の人間になって意見するより、実践しているからこそ発言できる人間でありたい。自分の経験を伝えることから、正しいモノの見方や考え方を学んでもらいたいですね」。
だからこそ、これからの10年を大切にしようと考えている。
「継続して積み上げていくなかで、また新しいことが訪れるのだと思います。業種に関わらず、これから出会う人も楽しみ。その人脈を繋げられる、みんなの憧れの場所も作りたい。大阪スピリットを活かした面白い企画もできるはずだと思っています。なによりも、この10年が自分のひとつの結果となるのでは、と考えていますね」。

公開日:2011年11月01日(火)
取材・文:Phrase 久保 亜紀子氏
取材班:株式会社Meta-Design-Development 鷺本 晴香氏