多くの人との出会いが、次の活動の原動力になる。
原田 祐馬氏:UMA / design farm

原田氏

『UMA / design farm』原田氏のオフィスは、大川のほとりにある見晴らしの良いビルの一室にある。
事務所の扉を開けると、真っ白な壁と開放的な空間が広がった。「仕事はデザインです。デザインという領域のなかで境界を設けたくないんです」と語る原田氏は「デザイン / 都市について考える3日間。」と題して、2009年9月に開催されたイベント『DESIGNEAST00』の実行委員の一人だ。今回は、携わる仕事や『DESIGNEAST00』について語っていただいた。

現在の仕事に導いてくれたアートプロジェクト。

アートのことやプロジェクトの進め方、グラフィックデザインやブックデザイン、さらには展示についての知識も有している原田氏のもとには、美術館やギャラリーの展示空間のデザイン、フライヤーや図録制作などの仕事が舞い込んで来るという。さらに最近は、アーティストブックのデザインも行うなど、美術館やギャラリーというフィールドを中心に活動の幅はさらに広がり続けている。
そんな、彼が追求する“理想”の仕事スタイルとは、美術館やギャラリーで、アーティストとキュレーター(学芸員)、展示施工業者や印刷所などのコミュニケーションを円滑にし、より良い方向に展覧会・プロジェクトを導く役割をトータルに担うことだという。

原田氏は、建築家を志して建築の専門学校から、意匠やデザインが学べる大学に編入し、さらには「建築を含めて様々な表現や美術について学びたい」とIMI(インターメディウム研究所)に入学した。この期間の出会いや出会った人々との交流が、原田氏の幅を広げ、今の仕事に導いてくれたという。
なかでもIMI在学中に、開館したばかりの金沢21世紀美術館で現代美術作家・ヤノベケンジ氏が手がけた、美術館に滞在して作品を制作する「子供都市計画」というプロジェクトに参加したことが大きな転機だという。
「僕も半年間金沢に住んで、ヤノベ氏と一緒に表現の世界をふくらませるミーティングや作品の制作はもちろん、作品を魅せる技術、作品の材料搬入、広報活動、広報ツール制作、ワークショップの運営まで、短期間でアーティストや美術館が一つのプロジェクトに対して行うすべての活動に携わりました。さらにこのプロジェクトを『ドキュメント子供都市計画』(美術出版社)という一冊の本にまとめるために、サンプル本制作から出版者探し、協賛金集めも行いました。この時の“一つの美術館の展示プロジェクトを最初から最後まで体験する”という貴重な経験が、今の仕事の礎となっているのだと思います。」

本や空間づくりは長い時間を切り取り、グラフィックは瞬間を切り取る。

取材風景

美術館やアーティストが原田氏に仕事を依頼する大きな理由は、総合的にグラフィックデザイン、ブックデザイン、展示デザインの3つの領域を一人で動かせる力を備えているからだろう。それぞれの領域に携わる時には、どう頭を切り替えているのだろうか。
「ブックデザインではその展覧会を、展示デザインではアーティストの感覚や想いを追体験してもらうことを意識しています。どちらも僕の中では建築空間を設計するのと同じ意識で作っています。」

グラフィックについては少し意識が違うという。
「グラフィックはビジュアルを限られた紙面に落とし込まなければなりません。限られたスペースの中で、アーティストのビジュアル、奥行きやヒストリーを伝えることを重視しています。でも、美術館のフライヤーは広告的な手法だけではダメだと思っていて、紙質やインクなどの特性を利用してビジュアルだけじゃなく触覚性も意識しています。目に入った瞬間に手にとってもらえるかどうか、その瞬間が勝負です。さらに手に取った瞬間に、読んでもらうための細かい仕掛けも随所に散りばめています。自身が想定するコストを多少超えてでも、目的を達成するために必要だと思ったことを優先したいと考えています。開き直るのは良いけども妥協はしたくないですね。」

『DESIGNEAST00』は、今までの活動の集大成。そして始まり。

事務所風景

2009年9月に開催され大盛況だった『DESIGNEAST00』の運営に実行委員として携わった原田氏に、『DESIGNEAST00』は何をもたらしたのだろうか。
「僕にとって『DESIGNEAST00』は今までの活動の集大成でした。自分たちで企画立案からフィニッシュまで完遂する経験は今回が初めてでしたし、大きな自信になりましたね。

あとは、非常に多くの人と出会えたことです。特に大阪だけでなく神戸や京都、東京の同世代のクリエイティブに関わる人々に出会えたのが大きいです。多くの人に助けていただいたおかげで『DESIGNEAST00』は成功しました。多くの人を巻き込むことが今回の目的でもあったので。これが一番大きな財産です。もちろん、毎年続けていきたいですね。」

目指すは“100冊の本づくりに携わること”

取材風景

最後に、これから目指すものについてたずねると、即座に「本づくり」という答えが返ってきた。
「museumのスペルを逆にしたmuesum(ムエスム)というレーベルを編集者と共同運営しています。この中で、アーティストと一緒に300冊限定の本を制作する『prototypebook』というプロジェクトを行っていて、このプロジェクトでは、企画から編集、デザイン、制作、流通に至るまで自分たちで手がけています。僕は死ぬまでに100冊の『prototypebook』をつくるのが夢です。『DESIGNEAST00』などで出会った人と一緒に本づくりに取り組んでみたいですね。100冊が目標の理由ですか? 100冊あれば僕が死んだ時に、誰かが展覧会しやすいじゃないですか(笑)」

公開日:2009年12月09日(水)
取材・文:株式会社ショートカプチーノ 中 直照氏
取材班:株式会社ライフサイズ 杉山 貴伸氏 南 啓史氏、福 信行氏