制作の域を超えた映像作りを世界へ発信していく
神谷 英孝氏:(株)キー・クルー

神谷氏

窓の外にはオーシャンビューが広がる、南港ATCの6階に株式会社キー・クルーがある。TV番組制作やスポーツ中継、LIVE撮影、メモリアルビデオ事業など多岐に渡って活躍している会社だ。オフィスの代表である神谷さんにお話を伺った。

カメラマンとしてのやりがい

撮影中の神谷氏

高校の写真科を卒業後、制作会社に就職した神谷さん。入社当初は、ディレクターや制作のポジションを希望していた。
「当時は何も知らなくて、カメラマンと制作者は別だって言うことも業界に入って知ったぐらいでした。現場でディレクターが、“こういう画をこういうふうに撮ってください”と指示しているのを見て、それだったら自分でやったほうが早いなとカメラマンを選びました」
こうして、中継車に乗って複数のカメラが撮る映像を切り替えるスイッチャーや、有名アーティストのLIVE撮影、ミュージックビデオの制作などに携わった神谷さんには、思い出深い仕事がある。長野からはじまり、シドニー、アテネ、北京と4度も参加したオリンピックだ。
「オリンピックのように規模が大きな仕事は、海外のスタッフと組むことが多いので、それはすごく大きな経験でしたね。言葉の壁もそうですが、仕事のスタンスが違うのでしんどかったです。もうすぐ締め切りなのに、仲間のスタッフが仕事に全然手をつけていなくて、でも僕が手伝おうとすると“触るな!”と怒られてしまうんです。“これは自分の仕事だから手を出すな”ということなんですが、こっちはハラハラしっぱなしですよ。日本よりも、かなり役割分担がハッキリしてるんですね。それでも、自分の担当した競技で日本がメダルを獲った瞬間はそんな苦労も忘れるぐらい最高でした。アテネオリンピックで、体操団体が金メダルを獲った瞬間を、自分が中継したというのは、やっぱり嬉しいですよ」

好きなことをしてお金を儲ける

この業界に入って15年、神谷さんはふと仕事に対する情熱が薄れてしまっていることに気づく。
「自分のやりたいことと仕事の内容にズレを感じていました。やりがいを見出せなくなって、単に与えられた仕事をこなすだけの状態になってしまっていたんです」
これではいけない! と焦りを感じていたときに、本田健さんの本と出会った。「好きなことをしてお金を儲ける」という本田さんの言葉に、これや! と奮い立った神谷さんは独立を決意。'08年に株式会社キー・クルーを立ち上げる。社名には、スタッフ一人ひとりが鍵(キー)のような存在になるようにと願いを込めた。
「制作会社にいたときは外回りの仕事が多く、色々な人脈を作ることができた。だから、独立しても大丈夫だ! と思っていたんですが、実際は全然ダメで(笑)。独立してすぐ、リーマンショックも起こってしまいましたし、人脈だけではどうにもならないことを痛感しました」

メモリアルビデオ

そこで神谷さんは新しい分野への進出を決めた。ブライダルをコアにした、メモリアルビデオの制作である。当事者の思い出やエピソードをシナリオライターがまとめ、本人出演でロケも行い、オーダーメイドで作り上げる。制作の技術を生かして、生い立ちから出会い、結婚までを一つの番組のように仕上げるのだ。
「営業や仕事の打ち合わせをしていて、相手からまず最初に言われるのが“映像って高いんでしょ?”という一言なんですよ。このイメージをどうにかして打ち崩したくて。ただ、今は機材もずっと安くなって誰でも映像制作にとっつきやすくなっているので、単に単価を下げるだけではダメだと思いました。うちはちょっと違うんです、ということで、ライティングやカメラワーク、テロップといった編集作業など、番組制作の技術を取り入れたものにしたんです。ブライダルの分野に進出したことで、新しい発見もありました。これまではテレビ局のディレクターさんなどと仕事をすることが多かったんですが、メモリアルビデオは直接お客さんとやり取りができる。なので、ダイレクトにお客さんの感想や反応がわかって、こちらも嬉しい。大きなやりがいを感じますね」

やりたいことを作って売るというスタンス

神谷氏
撮影風景

WEBでの映像配信など、映像を活用する場がどんどん広がっていく中、神谷さんが見据える今後のビジョンとは。
「これからは制作会社が企画から撮影、編集までした作品をテレビ局に売り込んでいけたらいいなと思っています。“こんなもの作ったんですけどどうですか”という感じで。ただ、まだまだ日本でそういう形は難しいので、まずはアジアで仕入れたものを欧米に売り込んでいければと考えています。アメリカではテレビ局が制作会社から番組を買って放送する、というシステムが成立しているんですよ。やりたいことを作って売ることができる。僕は音楽が好きなので、年に何度か台湾などに行ってアーティストのライブ会場を取材してます。“アジアのロック”というテーマで、それぞれの国の文化やファッションをミュージックに絡めて番組を作って売り込んでいきたいですね」

日本を飛び越えて、世界に自分の映像を売り込んでいく神谷さん。落ち着いた表情で淡々と語りながらも、胸の内には熱い想いをしっかりと抱えている人だ。そんな神谷さんのこれからの挑戦に期待したい。

公開日:2009年12月15日(火)
取材・文:山下 朋子氏
取材班:株式会社ファイコム 浅野 由裕氏