メビック発のコラボレーション事例の紹介
お墓のイメージを覆せ!“楽しい”石材店のWebサイト
製造業のWebサイト制作
後発の不利を挽回する個性という武器。
お墓を背景に遠くを見つめる男女、華麗に宙を舞う人影、そしてタイトルは「日本一敷居が低い石材店のホームページ」……。特大のインパクトを放つビジュアルは、大阪では最大手と言われる石材店・大阪石材工業株式会社、その南大阪店のWebサイトトップページだ。お墓を扱う石材店? しかも最大手が? 多くの疑問に答えるヒントは、メビックで開催された「クリエイター募集プレゼンテーション」にある。
「Web活用戦略のなかで、南大阪店のWebサイトを立ち上げることになりました。制作会社との繋がりや内製体制もありましたが、リーズナブルかつスピーディーに質を上げたいと思い、個人クリエイターを探していたんです」と語るのは、同社の根倉辰佳さん。クリエイターとの出会いを求めるなかでメビックを訪れ、プレゼンへ登壇することになったという。また、プレゼンの事前資料にはこうある。“南大阪店のコンセプトは「楽しい」石材店。日々の楽しい店づくりの様子を、「お酒が大好き」な店長と「わんこ系お墓女子」の副店長が、毎日Instagramを更新しています”と、登壇前から尖ったコンセプトが垣間見える。南大阪店の店長・安達裕樹さんは「南大阪店は富田林では後発。そのなかで存在感を示すために、地域の老舗石材店がやらないことをやろうと思いました」と言い、石材店としての技術や営業力には絶対の自信があるからこそ、石材店のイメージを裏切り、個性を武器にしようと考えた。
そんなメッセージに反応したのが、合同会社ホームランオフィスの柳田将一さんだ。「こんなに主張が強い企業は初めて(笑)。ですが、資料を読んでイメージが浮かびました」と言い、プレゼン会場へ向かう前にメインビジュアル案を制作。プレゼン後の交流会で、名刺交換よりも先にアイデアを提案した。「ビジュアルを見て大笑い(笑)。そして、言葉ではなく行動で見せてくれた最速の仕事。アイデアと行動力に打たれ、この人と仕事をしたいと思ったんです」と根倉さん。後日、Webサイト制作を柳田さんへ正式に依頼。イメージを覆さんとする石材店と、ラッパーの肩書も持つWebデザイナーという異色タッグが誕生した。
「Webマガジン」をテーマに独自のプロモーションを。
動き出したWebサイト制作。方向性は最初のビジュアル提案で既に決まっていたが、その他の具体的な仕様については柳田さんに一任された。「オーダーがないのは信頼の証拠だと感じました」と背筋を伸ばすが、Webプロモーションについては特に考慮したという。「プレゼンを見てWeb広告やInstagram、自社メディアなど、既に一連のWebプロモーションを行ってきたことが分かりました。その経緯のなかで、どこをめざすべきか見失っているのでは?と思ったんです」。そこで、笑いを誘うビジュアルを入口にしながらも、サイトを“Webマガジン”と捉え、情報発信しながら地域と繋がることをテーマに定めた。そのコンセプトを体現するのが「たぶん13秒で読めるお墓ブログ」。その名の通り、短文のブログによって石材店としての思いを日々発信している。「ブログをコンテンツにすることは決めましたが、タイトルを決めたのは安達さん(笑)。SEOには長文が有利と言われますが書くハードルは高い。短文にすることで更新ハードルを下げ、結果、記事が蓄積されてSEOになっています」と柳田さん。常套手段に捕らわれない発想がここにも活かされている。
そして気になるメインビジュアルの制作を担当したのが、メビックを通じて柳田さんと交流があった株式会社アイカラー。印刷の製版に特化し、写真レタッチを得意とする企業だ。「レタッチ技術を活かした新事業を構想していました。その実績づくりの意味もあり、メインビジュアルに挑戦したんです」と同社の玉田拓也さん。製版にミスは厳禁。堅実な仕事が求められるだけに、アイデア勝負の仕事は初経験だった。「普段まじめな仕事しかしていないので、ふざけていいのかな?と戸惑いました(笑)」と語り、スタッフ5人がかりでアイデアを出し合い、ときには柳田さんの愛の鞭(ダメ出し)も受けながら体当たりで挑戦。悪戦苦闘の末、「これはズゴイ!」と柳田さんも舌を巻くアイデアが生まれた。それが現在のメインビジュアルだ。
「おもしろさだけでは流されてしまう。バランスが難しかったですね」と振り返る柳田さん。インパクト、石材店としての思い、Webプロモーション。3つの要素を絶妙に噛み合わせながら制作を進め、2019年9月、遂にWebサイトが完成した。
挑戦が生んだ新基準、答えのない目標に向かって。
「社内の人に怒られたかったんです。それが石材店の枠を超えた証拠だから。実際には渋い顔をされた感じですが(笑)。しかし、ルールを覆した手応えを感じました」と根倉さん。実際に問い合せや来店が増えるなど、Webサイトは着実な成果を上げている。また、Webサイトをきっかけに成約に至ったお客は、成約後もブログを読み続けているという。「お墓を建てることがお付き合いの始まり」と安達さんが語る通り、ブログのファンになってもらうことで、お客との長い付き合いが実現されている。
「他社と張り合う必要はないと気付きました。南大阪店がめざすのは“日本一敷居の低い石材店”であり、“世界一おもしろい石材店”。答えがないだけに難しい目標ですが、やりがいを感じます」と誇らしげな安達さん。「挑戦するきっかけになりました。センスを磨くためにこれからも作り続けていければ」と未来を見据える玉田さん。「ゴールのイメージを共有し合えたからこそ、楽しみながら作れたんだと思います」と笑う柳田さん。前例のない戦いに挑んだ同志の心には、三者三様の思いが溢れていた。
最後に根倉さんはこう締めくくる。「相性が合う人と一緒なら、非常識なこともできる。柳田さんと出会えたからこそ非常識に挑めました」。Webサイトを見て「ウケ狙い」の一言で片づける人もいるかもしれない。しかしそこには、素直に、誠実に、非常識に挑戦する情熱があった。ときにやわらかく、ときに鋭く、硬いものを千変万化させるは石材店の十八番。浪速に咲いた熱き笑いの花は、未来の常識を変える力を秘めている。
公開:2020年5月1日(金)
取材・文:眞田健吾氏(STUDIO amu)
*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。