メビック発のコラボレーション事例の紹介
密なコミュニケーションを重ね介護レクの意義を伝える記事を作成
介護専門誌の編集パートナー
雑誌の核となる特集記事を、ともに創り上げるパートナーに。
介護施設でのレクリエーション(以降レク)、といえば高齢者が塗り絵をしたり、懐かしい童謡を皆で歌ったり……というシーンを思い浮かべる人が多いだろう。食事や排泄といった身体的介助の合間に行う、ちょっとした気晴らし、というイメージだ。
しかし、「なぜ、それをするのか?」というのは、実際に介護の現場で働くスタッフですら、実はよく理解していないことが多いのだという。2018年に創刊された『介護レク広場.book』は、“介護現場でのレクリエーション”に特化した雑誌である。レクのアイデアだけでなく、「集団レクはなぜ大事?」といった、現場で忘れられがちな、“考え方”の部分を大切にしているのが特長だ。
発行元のBCC株式会社は、長らくウェブサイト「介護レク広場」を運営し、脳トレや塗り絵といった素材のDLサービスを提供してきた。さらに「レク介護士」なる資格制度を創設し、レクに特化した人材の育成や派遣業務も行っている。2018年に雑誌を創刊することになり、玉城梨恵さんが編集長に就任。しかし、出版事業は素人からの出発だったため、伝えたいことをわかりやすく表現するには、毎号、膨大な時間がかかる。最初の1年は体力頼みで乗り切ったものの、なんとかしなければという思いは日に日に強くなっていったという。
Facebookのメッセンジャーを日々駆使し、信頼関係を深める。
そんな中、玉城さんはメビックからのオファーを受け、2019年7月、クリエイティブサロンに登壇。その際に、メビックのウェブサイトに掲載するレポート記事を担当したのが、岩村彩さんだった。記事を読んだ玉城さんは、その的確な仕事ぶりに感銘を受けたという。
「私が言いたかったことが、ズバッとひとことで、キャッチコピーになっていたんです。しかも、とりとめもなく話した内容が、とても素敵な記事にまとまっていて。『介護レク広場.book』はいままで世の中になかった考え方、価値観、サービスを言葉で伝えていく媒体なので、やはり創刊の背景だったり、介護レクについても私たちの考えを理解しようと前向きで、人間同士としても相性が良い方を探していました。そこで、編集部もまだまだ未熟でご迷惑をおかけすることがあるかもしれないのですが、手伝ってもらえませんか?とお声がけしました」(玉城さん)
一方、岩村さんは介護業界の仕事は初体験で、プライベートでの介護経験もなかった。しかし、教育や障がい者支援など福祉関係の案件の執筆に長く関わっていたこともあり、玉城さんからのオファーに点が線となってつながっていく縁を感じたという。同年8月より編集アドバイザー的な役割で参加し、連載記事などを執筆。2020年2月28日発行の第12号より、核となる特集記事をともにつくりあげている。特集は媒体の「伝えたいこと」が詰まった重要なページであり、かたちにすることは毎回容易ではないものの、次第にクライアントといちライター、という枠を超えた信頼関係を築くように。
「ファッション誌のようにヴィジュアルで見せていくのではなく、考え方の部分を大切にしている媒体なので密度が濃いというか、ライターとして、うわべだけの記事は書けないと思いました。どんな人に読まれるんだろう? そして、どんなふうに役立っていくんだろう? ということは常に意識しています。
たとえば“生きる希望”っていう言葉があったとして、そのままでは漠然としていますよね。高齢者やご家族にとって生きる希望とはなんなのか、より具体的に突っ込んで書かないと。そして最終的には、介護施設で働く読者が『なるほど、明日からこうしてみよう』と、実際に行動にうつしてもらわないと意味がないわけです。なので、ひとつのテーマに対し、段階を追って理解を深めてもらい、最後に具体的な事例や声かけの方法を紹介するなど、構成は毎回工夫しています。一方、あまりにも専門知識がありすぎると、逆に読者のニーズが見えなくなることもあると思うんです。なので、何も知らない第三者としての視点を持つことも、私の役割かなと思っています」(岩村さん)
特集記事の作成にあたり、両者が頻繁に活用しているのは、Facebookのメッセンジャーである。岩村さんは些細な疑問や違和感があればその都度質問し、対する玉城さんも日々、思いついたことを伝える。事前に密なコミュニケーションをとり、認識の食い違いを減らすことで、満足のいく結果に結びつくようになっていった。
『介護レク広場.book』を通して、日本の老後を変えていきたい。
そんな苦心の甲斐あって、『介護レク広場.book』は好評を博し、1年先まで予約購読を申し込む介護施設も増え、熱心な固定読者のいる媒体に成長。今後は全国に2〜3万あるというデイサービスセンターを中心に、さらに購読者数を増やしていくのが目標だ。
「売り上げだけを考えると、いまのような編集方針ではなく、レクネタ満載にしたほうが反響はあると思うんです。でも、それは私たちの本意ではなくて。最初は売れなかったとしても、この特集を読んで、『ああ、本当にそうだな』って現場スタッフに思ってもらって、口コミで広げてもらえたら……という思いがあるんです。
そして、最終的には日本の老後を変えていきたい。これまでの高齢者というのは、仕事や子育てが生き甲斐で、それが終わると、晩年は空白になってしまう。“レクリエーション=re-creation”は、言葉通り、人生の終盤に、生きる意味や喜びを“再び創る”試み。『介護レク広場.book』を通して、介護の現場をレクで変えていくことが目標でもありますね。そのために、岩村さんは欠かせないパートナーだと思っています」(玉城さん)
「これから団塊の世代が高齢になり、介護を受ける時代に突入していきますよね。彼らは現在の高齢者とは違い、豊かな時代に青春時代を過ごし、人生を謳歌した世代。楽しみや生き甲斐も多様でしょうし、老後も貪欲に自分らしく生きたい、というニーズが高まっていくと思うんです。そんな中、介護施設を選ぶうえで、レクというのがひとつのキーワードになっていくことは間違いなく、私自身もわかりやすく伝えていく使命を感じています」(岩村さん)
公開:2020年4月20日(月)
取材・文:野崎泉氏(underson)
*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。