メビック発のコラボレーション事例の紹介
クリエイターの「作ってみたい」をカタチにするオリジナル作品の展示会
クリエイターが全てに関わる展示販売会
個人には高すぎる壁もみんなでだったら乗り越えられる。
2014年にデザイン事務所「スクラッチファクトリー」を創業し、SPツールやディスプレイ、企業案内、ノベルティグッズの制作などを手がける一方で、雑貨作家としての顔を持つ岡貴美さん。作家としてのキャリアは10年を超え、愛らしいデザインの作品にはファンも多い。しかし作家活動を始めたときは、小ロットに対応してくれるメーカーと販売先がなかなか見つからず、苦労も多かったという。本業で付き合いのある取引先からの紹介でコツコツと人脈を広げ、今では複数のメーカーと繋がり、安定的に作品をつくることができているが、多くのクリエイターから「オリジナル商品をつくりたいけど、どこに頼めばいいのかわからない」「小ロットに対応してくれるメーカーを紹介してほしい」と相談されるうちに、「みんなで集まってまとめて発注して販売すればいいやん」とCreator’s Showcase(クリエイターズショーケース)を立ち上げた。
Creator’s Showcaseでは、さまざまな分野のクリエイターとそれを応援する製作会社が集結し、テーマに合わせてアイテムを製作、展示販売までを行う。岡さんと友人のWEBデザイナーの森﨑詩穂さんが事務局となり、テーマ・アイテムを選定。集客やテーマに合う会場探しを行いながら、参加者を募り、説明会を開催する。さらに会場を選定し交渉、打ち合わせ、クリエイターが製作したデータのチェック、メーカーへの依頼、パッケージ作業、会場の設営から当日のイベント運営など、そのほとんどの作業を二人で行なっており、想像をするだけでも大変だが、岡さん曰く「一番手間がかかるのはデータチェック」だという。デザインやイラストを生業にしていても、モノがカタチになるまで携わった経験のないクリエイターは多い。特にファブリックやペン、がま口などのデザインは多くの参加者が苦戦した。「グラフィックデザイナーとして20年以上活動していますが、初めてガーゼハンカチのデザインをして、普段の印刷物との違いに驚きました。紙だと当たり前にでる色が飛んだり、デザインが切れてしまったり。まず織りの仕組みを理解することが大変でした」と、振り返るのは2018年開催のVol.2と翌年のVol.3に参加したマウントグラフィックスの溝手真一郎さんと高木知佳さん。「全てテンプレートを作成して、デザインの載せ方も全部指定して、気をつけるポイントをお伝えしているのですが、それでもデータの調整はかなり必要になります。私と森﨑さん二人ではあまりにも大変だったので、データ作成講座を開いて、その場で入稿データを仕上げてもらったりしました」(岡さん)
自分のデザインを自分の手で販売するという他ではできない経験。
参加クリエイターはデザイナーやイラストレーター、フォトグラファーなど多岐にわたり出展動機もそれぞれだ。「これまで、クライアントの依頼に答える形でしかデザインをやってこなかったので、“マウントグラフィックスらしさ”を確立しないと、たくさんあるデザイン事務所の中で埋もれてしまうという危機感がありましたし、言われ仕事ばかりではクリエイティブの筋力も衰えてしまう。何かしなきゃと悩んでいるときにメビックのメーリングリストでCreator’s Showcaseの告知を見て参加を決めました」(溝手さん)。継続的に参加しているクリエイターがいる一方で、説明会に参加しながらもなかなか出展に踏み切れず、Vol.3にして初参加を果たしたのはイラストレーターのハピネス☆ヒジオカさん。「僕はずっと商業ベースで活動しているので、クライアントの依頼の他はイラストを販売するくらいしか経験がなかったんです。それで説明会に行ったんですけど、なかなか勇気が出なくて」
Creator’s Showcaseは告知からデータ入稿までの時間が短く、当然費用もかかる。さらに店頭に立って接客をしなければならないのも苦手な人にとっては断念するのに十分な理由になる。そして、一番の壁が「売れなかったらどうしよう」という不安。イラストレーターとして長年、第一線で活躍しているヒジオカさんですら参加を決めた後も、ずっと不安を口にしていたという。
デザインから消費者の手に渡るまですべてに関われるから楽しい。
昨年の秋にCreator’s Showcase Vol.3が開催された。会場となったのは阪神梅田本店。Vol.1、Vol.2を経てイベント自体が浸透してきたこと、また会場が百貨店ということもあり、それまでで最多となる37組(WS含む)の参加者が集まった。テーマは「ステーショナリー」。クリエイターたちがデザインしたノートやボールペン、パスケースなどのアイテムを購入しに多くの人が訪れ、大盛況となった。
ヒジオカさんがデザインしたノートも数日で完売。不安は杞憂に終わった。マウントグラフィックスからは溝手さんがイラストを、高木さんが色付けを担当したキーケース等を出品し、それを見た他の参加デザイナーが溝手さんにイラストの仕事を依頼。このようにクリエイター同士の交流が生まれることもCreator’s Showcaseの魅力だ。また、デザインからモノづくり、搬入、売り場づくり、販売まですべてのプロセスに関わることができるため、自分が作ったものが売り場に並び、それを誰かが手にとって購入する姿を見るのはとても楽しくいい経験になったと参加者は口を揃える。Creator’s Showcaseの次回開催は未定だが、これまでの経験を糧にしてブラッシュアップをしながら再出発を図るという。クリエイターの「作りたい」という欲求を叶えてくれるCreator’s Showcase。今後の活動を楽しみにしたい。
公開:2020年4月24日(金)
取材・文:和谷尚美氏(N.Plus)
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