メビック発のコラボレーション事例の紹介

コラボレーションはあなたの理想を越える
玄米入りパンのショップデザイン

ベーカリー外観

日常的に玄米を食べてほしい、そんな思いが生み出したお店

京阪・香里園の駅前でひときわ目立つ、イエローの外観。「バードベーカリー」は、米の卸売業を行う「幸福米穀株式会社」のパートナーズ契約店だ。国産玄米を独自の技術で加工し、小麦粉に練り込んだ生地を使用。小麦粉のみのパンと比較すると、お米本来のモチモチ感が味わえるのが特長である。

「玄米入りの生地を使ったベーカリーが我々のビジネスモデルです。玄米食がなかなか続かない方でも、パンなら炊く手間や調理の手間なく、毎日手軽に食べられますよね。調理生地、ゴマ生地など、10種類以上の生地を開発しており、毎朝チルドの状態で店舗にお届けしています。米粉パンはすぐ固くなると思っている方も多いのですが、当社の生地は高い保水率を保つよう工夫していますので、翌日に食べてもおいしいというお声も多いんですよ。そして、玄米を丸ごと使っているため、もちろん胚芽部分の栄養価もそのままです」(幸福米穀・山吉さん)

今回、オーナーとなったのは、鶏の卸や加工、および「金のとりから」などのFCチェーンを展開する株式会社シマナカだった。幸福米穀とシマナカの代表がもともと知人だったことが縁となり、初のベーカリー事業へ乗り出すことになったのである。

塩パン
開店当時から大人気という塩パン。モチモチの生地は翌日もおいしく、軽く焼き直すことで香ばしさが広がる。

クリエイターと組むことで、よりデザイン性の高い店づくりを

もともとバルがあった好立地の物件をベーカリーにすることが決定し、幸福米穀は、「株式会社日本演出」に店舗づくりを依頼した。昨年、別のオーナーが京都の城陽市で開業したFCベーカリーが非常にスタイリッシュだったことに感銘を受け、そのプロデュースを手がけていたのが日本演出だったからである。
というのも、日本演出は什器や建築資材を新規オープンの店舗に提供するだけでなく、クリエイターと組むことで、よりデザイン性の高い店づくりをめざしていた。同社とおつきあいのあるクリエイターに、メビック扇町のコーディネーターをしている岡貴美さんがいたことから、彼女の橋渡しで、2017年、メビック扇町の「企業によるクリエイター募集プレゼンテーション」に参加、店舗デザインのパートナーになってくれるデザイナーを募集したこともあったとか。以降、10名以上のクリエイターと会ったが、最終的にピンときたのは、メビック扇町を通じて出会った、アッシュデザインの山中広幸さんだった。

店舗デザインイメージ図
山中さんが提案した、イラストによる店舗デザインイメージ。ベーカリーらしい、素朴な温かさが伝わってくる。

「実は『バードベーカリー』の前に、別のパン屋さんのプレゼンでも山中さんにお願いしたんです。そのときは残念ながら結果に結びつかなかったのですが、センスがよくて、我々の立場やオーナーさんのことも考えてくれて、とてもやりやすかったので次につながれば……という思いがありました。バードベーカリーは個人的にも、オープン当時よりどんどん良い店になっていると感じています。明るくて、活気があって。なかなか我々だけではアイデアが生まれないので、今回の成功には夢が実現したという感慨がありました」(日本演出・上野さん)

「山中さんは弊社の提唱する『UXvMD』(顧客体験価値を高める空間づくりとVMDをかけ合わせた造語)に共感して頂けて、お客様のことはもちろんですが、スタッフの方々の働きやすさや、SNS等での話題性にいたるまで、多角的に検討してくださるのがとてもありがたかったです。ここ以外にも数件のベーカリー案件をお手伝い頂いたのですが、ご自身でパン屋さんをめぐって研究したり、パン教室へ参加されたり、施工担当者とも積極的にコンタクトを取り、価格と機能性を兼ね備えたデザインの提案を一緒に考えてくださる点は他のデザイナーさんにはないものを感じました。これからもチームとして一緒に仕事をしていきたいですね」(日本演出・西井さん)

鳥の巣を思わせる風合いの木など
自然素材にこだわった内装に

山中さんはオーナー企業のシマナカが鶏を扱う会社だったことから、「バードベーカリー」というコンセプトを考え、そこからデザインイメージを広げていった。「金のとりから」のイメージキャラクター、ひよこに着想を得たイエローを店舗のキーカラーに決定。駅近物件ならではの交通量や人通りの多さはもちろん、京阪電車内からもよく見える立地であることから、目立つ店舗であることを考慮したという。そのため、ファサードのデザインには特にこだわり、何屋さんかという業態がひと目でわかることや、入店のしやすさにも配慮。構想が固まると、写真やCGではなくイラストで提案を行った。

「手描きにする理由は、温かな雰囲気が伝わるのと、スピード感ですね。僕がデザインを考えながら描くので、お話を伺ってから間を置かずにご提案できます。CGだと弊社の場合、外注することになりますので、そのぶん日数がかかるんです。工事中もお家賃はかかってきますので、オーナー様にとっては、スピーディにプランが固まったほうが予算的にも助かりますよね。
内装については、パンのぬくもりであったり、健康志向というところを表現するため、人工のものではなくできるだけ本物の自然素材を使うようにしました。お客様の手がふれるところやカウンターには、風合いが鳥の巣のように見える、OSB合板を採用。ほかにも、パンを陳列する棚は素朴な風合いのロープで吊り下げるなど、バードベーカリーというコンセプトに絡めた素材選びには気を使いました」(アッシュデザイン・山中さん)

店内風景
焼きたてのパンと調和するよう、内装には木材やロープなど、自然素材の「本物」を使うことにこだわった。

特別ではないけれど手軽で美味。地元で愛される定番店をめざして

また、ベーカリー開業においては、オーブンや厨房機器など多くの設備投資をすることになるので、資金回収についても見越しておく必要がある。そのためバードベーカリーでも、内装はできるだけコストダウンしつつ、お客様にひとつでも多くのパンを手に取ってもらえる仕掛けを盛り込んでいくことに。まず、パンの陳列棚の段数を通常店舗より増やすことで、たくさんの種類を置けるようにした。なおかつ、棚を垂直に取り付けるのではなくやや斜めにすることで、商品を見やすく手に取りやすくするとともに、お客様に少しでも広い空間と感じてもらえるよう配慮。そういった細かな工夫の積み重ねにより、限られた空間の有効活用と、売上げ向上の両方をめざした。

「駅近ということで、仕事帰りに立ち寄って明日の朝のパンを買うという人が多いんです。ランチタイムと夕方、1日に2回、ピークがくる感じですね。日常的に食べていただくものなので、選ぶ楽しさを味わっていただきたく、バーガーサンドも入れると常時70種類は並べるようにしています。新作も随時、入れるようにして。価格も150円前後のパンが大半で、日常食として買いやすい価格設定に抑えています。開店当時から、頭抜けて売れ続けているのは塩パンですね。あとは玄米食パンが最近はよく出ています。生地のおいしさがストレートに伝わる、シンプルなパンが結局飽きがこず、リピーターになっていただいているのかな、と思います」(シマナカ・阿部さん)

2018年6月のオープンから1周年を待たずに、早くも地元の定番店となりつつあるバードベーカリー。めざすのは、「身体に良い玄米が入ったパン」というよりは、地元で親しまれる、「おいしいから毎日食べたいパン」だ。決して特別ではないけれど、いつものホッとする味として、これからも愛され続けていくことだろう。

プロジェクトメンバー

BirdBakery(株式会社シマナカ フードサービス事業部)

阿部剛士氏

http://birdbakery.jp/

幸福米穀株式会社

リテール事業部
山吉貴行氏

http://www.e-komeya.co.jp/

株式会社日本演出 西日本支社

上野靖氏

西井由布子氏

https://www.enshutsu.com/

アッシュデザインオフィス

インテリアデザイナー / プロデューサー
山中広幸氏

http://achedesign.com/

公開:2019年5月21日(火)
取材・文:野崎泉氏(underson

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。