メビック発のコラボレーション事例の紹介
コラボレーションはデザインとものづくりの現場、その垣根を越える
ペット用骨壷

最愛のペットとお別れしても笑顔で暮らせるものを
いなくなっても、いつも一緒。リビングに飾れて、飼っていた時と同じように、ふと目をやれば優しい気持ちになれる。やわらかなシルエットの手吹きガラスにはドライフラワーとプリザーブドフラワーがアレンジされ、ベースには温もりのある無垢の木。この「Amoflor(アモフロール)」を見て、ペットの骨壷だと思う人はいないだろう。アモフロールを企画したのは株式会社chit-ettoのアベチカさん。メーカー勤務を経て、独立後はグラフィックやウェブデザインを中心に手がけてきた。ペット関連の会社に在籍経験もあり、今も2匹の犬と暮らす。かねてからペットにかかわるものづくりをしたいという想いがあり、ペット関係の知り合いとの会話から、出てきたのが骨壷だった。
現在、火葬後は遺骨を自宅に持ち帰る人が増えるいっぽう、ペットロスに苦しむ人も少なくない。また骨壷は火葬サービスのパッケージに組まれており、選択肢はないに等しい。「最愛の家族を失ったときの悲しみは耐え難いもの。喪失感やつらさを思い出すものではなく、暮らしにさりげなくとけこみ、笑顔になれたら」。そんな供養のカタチをつくりたかった。「遺骨を入れるだけでなく、最後の儀式として自分でひと手間加えることで、心の整理をしたり感謝の気持ちを伝えたりできる、そういうものができたらと思って」
さっそくプロダクトデザイナーであるBreath.Designの鈴木康祐さんにデザインを依頼。ちなみにアベさんと鈴木さん、現在はご夫婦。ともにペットと家族としてつき合い、最期に訪れる悲しみも知っているふたりだ。ブレストしていくなかで「花」を飾ることでひと手間かけて、「暮らしにとけ込む骨壷」にすることが決定する。「このテーマから、花が映えるガラスとぬくもりのある質感の木でデザインをつくりました。当初フォルムはスマートでしたが、話を重ねるうちにぼてっと膨らみのある形に変わっていきました」(鈴木さん)。
こうして花や想い出のモノと一緒にオリジナルのフラワーアレンジができ、インテリアにさりげなくとけ込むペットの骨壷、amor(愛)×flor(花)=「Amoflor(アモフロール)」のイメージは固まる。

最初はスマートなイメージ、手づくりで全工程が製作できることを前提に、生産性とデザインを両立させる設計だった。
ペットを愛する職人が愛情を込め、丁寧に手づくり
そうして形や材質が決まったが、製作を依頼できる人が見つからない。そんな頃、メビック扇町の交流会で「木の工房KAKU」の賀來寿史さんと出会った。相談してみると、賀來さん自身もクラフト的なものづくりをおこなうため、ジャンルを問わず知り合いが多く、この商品にふさわしい人を紹介してくれることになった。しかし「その状態で図面を見せたら怒られたんです(笑)」と鈴木さん。プロダクトデザイナーとして木工にも携わり、木については知っているつもりだったので驚いたという。
木工はCNC旋盤などを使えば高い精度が出せるが、この商品は大量生産ではないので木工旋盤で挽かなければならず、ガラスも最終的には吹きガラスとなり工業製品的な高度な均一性は求められない。「逆に一点物なら凄い精度も出せますが、この商品はその中間にあたる製法になるため、設計にも“逃げと優しさ”が必要だと伝えました」(賀來さん)。合理性だけではなく心を豊かにするクリエイションを生み出すには、これまでの設計者とつくり手の境界線、そのボーダーラインを超えたやり方でないとダメだというのだ。自身を「通訳のようなもの」と語る賀來さん。海外には多いデザイナーと現場の職人をつなぐモデラーとして、素材と製法のバランスを図り、難しいことを面白いととらえられる、そんな職人を紹介してくれた。
美しいガラスを生み出すのは「ガラス工房fresco」。フラワーベースは職人が2人1組の手吹きで型に吹き込み制作する「型吹き」で底の形を整えたあと、手作業で引き伸ばし全体のフォルムをつくり上げていく。

美しいガラスの口には、仕上げに色ガラスで白いリップをつけた。これも一つひとつ違った表情が楽しめる。
骨壷は吉野にある工房「アップルジャック」に依頼。木工旋盤で木材を少しずつ丁寧に削りだしていく。さらに骨壷の上に載るガラスは、空気の入れ方によって底のRが微妙に違ってくるため、それぞれのガラスに合わせて削る必要があり、熟練の技術が求められる。

繊細に削り出されたなめらかで丸みのある無垢の木。手で包み込んだときの、やさしく肌になじむようなぬくもりがある。
花は「フラワーサロンSolflor」が、ドライフラワーとプリザーブドフラワーを組み合わせたオリジナルのアレンジメントを担当。ガラスには花だけでなくペットとの日々を想い、写真を一緒に飾るなど、最期のひと手間をかけられるようになっている。

花は華やかなブーケ、ガラスに収まるミニブーケ、自由に花をつめ込む鮮やかなボトルアレンジの3種類を用意。
ペットという家族の一生に寄り添う存在でありたい
商品の完成は2018年4月。すべてを丁寧に手づくりし贅を尽くしたものだけに、どうしても原価が上がる。この価格で売れるのか、販売前にペットと暮らす人に供養に関するアンケートをとってみた。すると世帯収入には関係なく「大切な家族のためにはきちんとした供養をしてあげたい」という声があった。「結局その人がどんな風にペットと暮らしてきたかで、考えも変わるんですね。家族のように接してきた方は、最期まで手厚く供養したいと考えている。これで発売に向けての手応えも感じました」(アベさん)。基本、販売はネットで。現在は堀江の「ブリッジワークス」では手にとって見ることができ、いずれは東京や福岡の店舗での展示を考えている。また春には、難波高島屋で開催されるイベントに出展も決まった。

そこにあることで在りし日の優しい記憶が甦り、場の空気さえ変えてしまうアモフロール。これを求めていた人はきっと多いだろう。また土に還る素材だけを使用しており、庭へ埋めたり飼い主が亡くなったときには一緒に火葬して同じお墓に入ることもできる。「多くの場合、亡くなってから慌てて探す方が多いと思うので、サイトから供養の方法もいろいろ情報発信していくつもりです」(アベさん)。今後は遺骨を身につけられるアクセサリーや、元気なペットや飼い主向けの商品も企画中。これまで見過ごされがちであった介護や供養に関するものも提案して、ペットという家族との暮らしをより豊かなものにしていきたいと語った。
Amoflor(アモフロール)|インテリアにとけ込むペットの骨壷

木の工房 KAKU
木工家
賀來寿史氏
公開:2019年5月14日(火)
取材・文:町田佳子氏
*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。