メビック発のコラボレーション事例の紹介
戦いの舞台はハロウィン。製紙メーカー×クリエイターの挑戦
ハロウィン向け商品のパッケージデザイン
ハロウィン商戦を勝ち抜くために、クリエイターの力を。
「Trick or Treat!」といえばハロウィン。子どもたちが魔女やお化けに仮装してお菓子をおねだりしたり、ジャック・オー・ランタンを飾るなどする欧米の民間行事だが、ここ数年、日本でも大きな盛り上がりを見せている。10月末に街を歩くと仮装した若者があふれ、ハロウィングッズの販売やイベント開催など、その流行を肌で感じられるようになった。日本記念日協会の調べによると、2016年の市場規模は約1345億円と推計され、バレンタイン市場を上回ったそうだ。
そうなると、企業がハロウィン商戦に力を入れるのも当然で、愛媛県四国中央市に本拠地を置く製紙メーカー、イトマン株式会社もその戦いに挑む一社だ。「ハロウィンはトップのクリスマスに次ぐ二番目に大きな商戦。絶対に外せないイベントです」と切り出したのは、同社・商品開発室の上野志歩さん。
昨年の商戦にはティッシュやトイレットペーパーを投入。今年も同アイテムの新商品を販売する計画だったが、その企画について会社から一つのオーダーがあったという。「昨年と同じことをしないで欲しいという要望でした。これまでにない商品を作るには、新たなクリエイターに会わなければと思ったんです」と、同じ商品開発室で本企画の主担当を務めた児島沙織さんは当時を振り返る。出会いを求めて東奔西走するなかで、2016年末にメビック扇町の存在を知った。早速相談を持ち掛けたところ、年明けに開催される「企業によるクリエイター募集プレゼンテーション」に参加して協力者を募ることになる。
「出会いたかったのは、パッケージのイラストをお願いできるイラストレーター。また、個人で活動されている方をメインに募集しました。会社の制約に縛られず、自由な表現をできる方でないと、今までにないモノを作れないと考えたからです」と児島さん。熱のこもったプレゼンを披露した後の交流会では20名以上と名刺交換。後日その中から検討を行い、イメージに合うクリエイターに声を掛けた。
スタンダード&大人っぽい。新たなイメージをパッケージに。
想定していたイメージは「スタンダード」と「大人っぽい」の2タイプ。それぞれのイメージに沿ったパッケージをクリエイターが制作し、各種アイテムを展開していくプランだ。
まず、「スタンダード」を担当することになったのが、イラストレーターとして活躍するサトウノリコ*さん。見る人を楽しくさせるような、ユーモラスなイラストを得意とする。「作品を拝見したときに率直に売れるなと (笑)。スタンダードなハロウィンのイメージにぴったりだと感じました。手書き調で風合いのあるイラストは、ベーシックでいながら昨年と違う表現ができるのも魅力でしたね」と児島さん。
一方の「大人っぽい」を担当することになったのが白子侑季さん。デザイナーとして商業デザインに携わりながら、アーティストとしても精力的な作品発表を行っている。「プレゼンを見て私には来ない案件だと思ってました!」という白子さん。当初は“万人受けする大人っぽさ”を考えていた児島さんだが、彼女のアート作品を見て「いい意味でクセがあり、色っぽさもある。アーティスティックな世界観に可能性を感じました。デザイナーとしても活躍されているので、商業デザインの形にまとめてくれることにも期待しました」という。
また、制作を進めるなかでイトマンとしても初めてとなる、ポケットティッシュの販売が急遽決定。そのパッケージを担当することになったのが、ダンスなどの映像制作をメインとする制作会社・ラジェンヌプロダクション。「尖ったデザインを提案するよう心がけています」と同社代表・小杉恭子さんが語る通り、「パッケージ案を見たとき、巷のハロウィンとは違うかっこいい世界観が新鮮で、社内でも好評でした。ダンス映像で培ったビジュアル感覚が生きているのでは」と、児島さんはその印象を教えてくれた。こうして、最終的に2名+1社のクリエイターとのコラボが実現することになる。
それぞれの目線で導き出したハロウィンの読み解き方。
クリエイターの個性を活かすため、デザイン提案に際してイトマンからの細かな指示は敢えて行わなかったという。ハロウィンらしい色使いや製品のデザインフォーマットなど、主要な部分のオーダー以外はクリエイターの感性に一任された。では、それぞれのクリエイターは、どんな思考でハロウィンと向き合ったのだろう?
「好き勝手やらせてもらいました(笑)。とはいえ、スタンダードなイメージを担当する役割。求められるスタンダードとはどの程度だろう? イトマン様ともじっくり打ち合わせをして決定したキーワードが、『カワイイけど、大人の部屋にも置いてもらえるような商品』。そこに自分の世界観を活かす方向で制作しました。また、ビニールパッケージの商品では、ロールの色を活かすために透明な部分を設けて、中のロールが見える提案を盛り込みました。パッケージのトータルデザインは初めてでしたが、以前にパッケージ関連会社に勤めていた経験が生きましたね」(サトウさん)
「打ち合わせで『思い切って冒険したい』と児島さんが仰ってくれて、アートを日常生活に取り入れてもらえるチャンスが来たと思いました! アート作品の世界観を魅力に感じてもらっているので、商業デザイン寄りの提案では意味がない。悩みに悩んで閃いたのが、“ポスター”というキーワード。使い終わった後も、捨てずに飾ってもらえるようにしたいと考えたからです。昔のミュージカルポスターのようなビンテージな雰囲気をイメージして、私自身を撮影した魔女を主役に、カボチャやチャンキーヒールなどのモチーフを、アート作品と同じフォトコラージュの技法で落とし込んで行きました」(白子さん)
ハロウィンといえば、賑やかなパーティーのイメージ。だからこそ、上品なイメージで逆を突こうと思いました。なので、テーマカラーもゴールド&ブラックに決定。社員全員でアイデアを出しながら、制作を担当したイラストレーター兼グラフィックデザイナーの原田がまとめていきました」(ラジェンヌプロダクション・代表 小杉さん)。「私がイメージの方向性を示し、女性スタッフの意見を参考にデザインを煮詰めました。実はゴールドのネクタイをフォトコラージュで忍ばせています。男性目線の遊び心も入れながら制作したんですよ」(同社・原田さん)
挑戦の先に見据えるギフト業界の未来。
それぞれ違う個性を持つクリエイターが手掛けた商品は、まさに三者三様の世界観。サトウさんは、ジャック・オー・ランタンやお化けが大きく描かれた、まさにハロウィンといったポップなイラスト。白子さんは、オレンジ色のワンピースを着た魔女が大人のセクシーさを感じさせる。ラジェンヌプロダクションは、ゴールド&ブラックを基調にしたフォトコラージュに、小さくカリグラフィのロゴを配した洗練されたビジュアル。クリエイターの遊び心と考え抜かれたアイデアが、パッケージというキャンバスの上に表現された。
完成した商品は一般販売されるものではなく、企業のノベルティとして配布されるBtoB商品。7月に販売が開始されたばかりだが、昨年の注文を上回る顧客が現れたり、店頭での一般販売の引き合いがあったりと反応も上々だという。上野さんは「現状は販促物としての商品ですが、今後は消費者にも届けていければ。いつかティッシュやトイレットペーパーが、かわいいギフトとして選ばれるようになるのが夢ですね」と、将来の展望を笑顔で語ってくれた。
毎年ここまで企画に力を入れ、ノベルティ商品を制作する製紙メーカーはイトマンだけだとか。また、今ではそのスタイルを真似る企業が現れ始めているとも教えてくれた。トップランナーの悩みは尽きないが、来年も、また再来年も、新たな挑戦が行われていくだろう。「Trick or Treat!」。声を上げる子どもたちが、あふれんばかりのペーパーギフトを抱えている。そんな、いつかのハロウィンを想像してみた。
デザイナー / アーティスト
白子侑季氏
公開:2017年10月4日(水)
取材・文:眞田健吾氏(STUDIO amu)
*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。