メビック発のコラボレーション事例の紹介

工業製品のチラシを、社内手作りからプロとの共同制作へ。
商品紹介チラシのデザインリニューアル

チラシ
5年間で作り上げた製品チラシのラインアップ。いまでは営業支援ツールとして欠かせない存在に。

出逢いは、メビック扇町での交流会。

皆さんは「玉掛け作業」というものをご存知だろうか? 工場や工事現場などでの吊り具を用いた荷掛けや荷外し作業をこう呼ぶのだが、その作業で使う「シャックル」「フック」などの用具を製造販売する大洋製器工業株式会社が、これから紹介するコラボレーション事例の片方の主役だ。もう一方の主役は、クリエイティブスタジオ グライド。大阪市西区のデザイン事務所で、企業や店舗などのクリエイティブツールの企画制作を手掛ける。両者が出逢ったのは、2012年。メビック扇町で開催された「企業によるクリエイター募集プレゼンテーション」に大洋製器工業株式会社営業本部・本部長の岡室俊之さんと営業本部・MK室の廣本展之さんは、自社製品のデザインを依頼できるデザイナーを求めて登壇した。
「プレゼン後の交流会ではたくさんの方が名刺交換に訪れてくださったので、対応に追われて会場に用意された軽食も食べられないほどでしたね」と岡室さんは当時を振り返る。グライド代表の小久保あきとさんは、その時に名刺交換した中のひとりだ。

シャックルとフック
厳しい安全管理が求められる玉掛けの現場で、プロのニーズに応える「シャックル」と「フック」

この人と仕事を! 決め手は、話しやすさ。

元々、玉掛け用具は安全性が重視されるため、新製品は敬遠される傾向がある。新製品に替えた時のリスクが高いためだ。また、積極的に製品をPRしなくても買ってもらえる時代だったので、チラシはそれ程必要ではなかった。だから、今回、小久保さんにデザインを依頼するようになるまでは、社内で作ったチラシや印刷会社に作ってもらったものを使用していた。
「ただ、展示会などで並べていると、なぜか気持ち悪く感じましたね。ロゴの配置がチラシによってバラバラで、社名も英文字を使ったり漢字を使ったりしていて。統一感が無く、その時の気分で作っている感覚でした」と岡室さんは語る。
プレゼン後に7~8社が来社した時はまだチラシを作るタイミングではなかったが、その後、社内のあるプロジェクトでチラシについて担当者が悩んでいることが判明。「プロに依頼しよう!」ということになり、グライドに連絡が入った。二人が小久保さんを選んだ一番の理由は「話しやすさ」だという。
「業界用語をバンバン使ってくるタイプではなかったことが大きいですね。こちら側の言葉に合わせてくれるし、わからないことがあっても気軽に聞けるのが、ありがたかったですね」(岡室さん)
小久保さんがその言葉を受けて続けた。「自分の中でも業界の偏った用語を使うことには違和感がありましたね。大洋製器工業さんの仕事がしたいと思ったのは、まだプロの手が入っておらず、改善の余地があったからです。すでにチラシで情報発信されていましたし、クリエイティブに対する活用法を探っている会社だったので、いい関係になれそうだと思いました」
実は廣本さんと小久保さんには、野球・プロレス観戦という共通の趣味があった。この趣味の話で盛り上がって互いの距離が近くになり、話しやすさが加速したのだろう。「打合せでは野球の話が8割、仕事が2割ですね」という小久保さんの話も、まんざら冗談ではなさそうだ。

展示会
チラシのデザインは、一年間で何度も出展する展示会のポスターパネルにも使用している。

それぞれの成長、それぞれの手応え。

提案されたラフを受け取った瞬間に「あっ、自分たちが使ってきたものとは全然違う!」と岡室さんも廣本さんも手応えを実感した。
「以前はチラシをワードで自作していましたが、それを禁止して使うチラシを揃えました。チラシは自分たち自身で使うこともありますが、我々のお客様である卸売り会社の方がユーザーさんに説明する際に使っていただくものでもあります。素人っぽさが無くなったので、お客様もユーザーさんに持って行きやすくなったと思います」(岡室さん)
「デザイナーの方と仕事をすることは、色の使い方や矢印の選び方などの面で自分自身の勉強になりますね。最近は電車の中吊や駅貼りポスター、街の掲示物なども意識して見るようになりました」(廣本さん)
「この業界や製品について知らないことばかりでしたが、チラシをひとつ作ればその製品について調べるので、自ずと知識が身につきます。話しやすいクライアントなので、打合せの段階で話をどんどん詰めていけるのもありがたいですね」(小久保さん)

チラシ
右:それまで使っていたチラシは、ロゴの扱いがバラバラ。伝えたい情報も整理できていない状態。
左:訴求したいことに優先順位をつけてロゴの扱いも統一。デザイナー作のチラシは注目度抜群。

企業とクリエイターに示す、進むべき道。

ここに紹介した事例は、チラシ制作を依頼する側とされる側という極めて普通のビジネスマッチングだ。そのチラシも、法人相手のビジネス、いわゆるBtoBのものなので、奇をてらった表現ではなく届けたい情報を整理してわかりやすく伝えることが求められる。コラボレーションの主体同士の組み合せが目新しかったり、生まれたものが世間の話題となったり、というものでもない。しかしながら、クリエイティブの力を取り入れてビジネスを発展させたい企業と、その発展に貢献したいと願うクリエイターとが互いの努力で理想的な関係を築き上げたという点で、皆さんに知っていただきたい好事例といえるはず。クリエイティブの活用を検討する企業にとっても、また新しいつながりを求めるクリエイターにとっても、きっと心強い道しるべとなるだろう。

プロジェクトメンバー

グライド

小久保あきと氏

http://www.gride.biz/

大洋製器工業株式会社

岡室俊之氏

廣本展之氏

http://www.taiyoseiki.co.jp/

公開:2017年5月18日(木)
取材・文:中島公次氏(有限会社中島事務所

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。