メビック発のコラボレーション事例の紹介

「色覚多様性」への理解を深める短編アニメーション
フシギの色の国のアリスちゃん

フシギの色の国のアリスちゃんDVD

色の見え方には人それぞれに違いがある

「色覚多様性」という言葉をご存知だろうか。私たちは普段、視神経を通して取り込んだ光の3原色(赤・緑・青)の情報を基に、脳で色を知覚している。その色の見え方「色覚」が、一般の人と異なる特性を持つ人がいる。「色覚少数派」とよばれる人たちだ。それは生まれつきの特性で、それぞれが取り込む光の3原色の情報量の違いによるもの。大阪市中央区に拠点を持つNPO法人True Colors(トゥルー・カラーズ)は、その「色覚多様性」への理解を促進し、色覚少数派の人がより暮らしやすい社会をつくることを使命に活動している団体だ。
「日本には男性の約20人に1人、女性の約500人に1人の割合で、色覚少数派の方がいらっしゃいます。全体でおよそ300万人。これは決して少ない数ではありませんが、社会であまり認知されていないという現状があります。私たちは見え方の違いについての社会的理解を深めるために、補正レンズ・体験レンズを利用して学校や企業、行政機関などで研修会やイベントなどを行っています」と語るのは、True Colors理事長・高橋紀子氏。少数派の子どもたちが補正レンズを通して見た色に感激する姿、両親が体験レンズによってわが子が見る色の世界を知って涙する姿を、目の当たりにしてきた。色覚多様性についての認識をより高めたい。そう考えた高橋氏は、それを分かりやすく伝えるための短編アニメーションを作ることを考えた。そこで思い浮かんだのが、CA-RIN WORKS代表でアートディレクター・イラストレーターのカツミ氏。以前、メビック扇町を訪れて出会ったクリエイターの一人で、自身も色覚少数派であると話してくれた。
「私自身はそれを個性だととらえてきました。イラストレーターも色の使い方は人それぞれ。その人の持ち味ですから」と語るカツミ氏。落ち着いた色合いに明るいアクセントカラー、そしてどことなくやさしさを感じさせるフォルム。カツミ氏の描くイラストは独特の世界観を持つ。20代の頃、絵の具の色とそのチューブに書かれた色の名前を視覚的に覚えて訓練をしたというカツミ氏。少数派と多数派の両者の色の見え方を理解しながらこれまで制作してきた。

見え方を確認する様子

4人のクリエイターの協働によるアニメーション制作

True Colorsには、研修会などで使用するツールとして、幼児から小学生に向けた絵本があった。そこで今回のアニメーションは、中学生をメインターゲットに。制作にあたってまずカツミ氏が声をかけたのが、シナリオ制作も得意とするコピーライターで37+c代表・大西崇督氏と、映像クリエイター・内之倉彰氏。ともにメビック扇町での活動を通して知り合った仲だ。
「3人で話し合う中で、“不思議の国のアリス”をキャラクターとして展開する案が出ました。多くの人から親しまれている物語なので、中学生にも受け入れられやすいのではないか、また、 “色の見え方の不思議さ”、つまり“多様な見え方”というテーマとぴったりあてはまるのではないかと考えたのです。そこで、アリスをメインキャラクターに設定し、色覚多様性について初めて知る子どもたちに向けて物語を組み立てていきました」と大西氏。授業などで利用されることを想定し、中学生が最後まで楽しんで理解できるよう心がけた。
「細かいしかけや工夫がいっぱい盛り込まれたシナリオを書く大西さん、打ち合わせの場でさらさらとペンを走らせてキャラクターを描くカツミさん、お二人の仕事ぶりを見て刺激を受けました」と話す内之倉氏。「私の担当する映像の部分もアニメーションの大切な要素。内容理解の妨げにならないように、かつ画面が退屈にならないように気を配りました。普段から投稿動画などを見慣れている中学生は、興味が持てるかどうかの判断がとてもシビアですから」と語る。教科書のすみっこに落書きしたパラパラまんがのように、ぎこちなさに親しみを感じられるような動きをイメージ。10代の心をつかむことを意識した。
キャラクターは、子どもたちに人気のあるテレビアニメなどを参考にして制作したというカツミ氏。
「幼児に親しまれるスタンダードな愛らしさというよりは、ちょっと個性的で印象に残るかわいらしさを意識して描きました。内之倉さんによる画面の動きと大西さんによるストーリによって、キャラクターの存在がより際立ちました」。
さらに、声によってアニメーションの世界観を形づくったのは、声優でナレーターのムラカミケイコ氏。大西氏がラジオCMなどで仕事を共にし、信頼を置く仲間の一人だ。
「たとえば声の高さや話すスピード、語尾の切り方などでキャラクターの印象はとても変わります。アリスがお姉さんっぽい雰囲気なのか、無邪気な子どもっぽい感じなのか、それともナレーションのような落ち着いた話し方なのか、台本を何度も読んで自分の中でイメージを作り、それをみなさんと共有していきました。声のイメージはアニメーション全体の雰囲気を左右しますから」とムラカミ氏。声の高さや読み方を変えて数パターンを収録。相談しながらイメージを固めていった。

多様な人が共存・協働できる社会であるために

こうして仕上がったのが、アニメーション動画『フシギの色の国のアリスちゃん』だ。二つのキャラクター “アリス”と“うさぎのレッグ”が、色の見え方のフシギについて、解説やクイズを通して丁寧に伝えてくれる。色の見え方は性別や人種によって異なること、色覚には多数派と少数派があり社会で共存していること、少数派には独特の見え方があること。約12分のアニメーションは、時にコミカルな要素も交えながら、視聴者を飽きさせることなく展開する。中学生はもちろん、幅広い年齢層に受け入れられる作品に仕上がった。
「この仕事にかかわることで、色覚多様性について初めてきちんと認識した」と内之倉氏。「当事者である私自身も気づくことがたくさんあった」とカツミ氏。「色の感じ方には人それぞれに微妙な違いがあることを知った」と大西氏。「人はみんなありのままの姿でいいんだよというメッセージを込めた」とムラカミ氏。この案件を通して、それぞれに考えることや感じることがあったと話す4人のクリエイターに、高橋氏はこう語る。
「私がこのアニメーションを通して伝えたいのは、まさにそのことなのです。ものごとに対する感じ方や考え方は人それぞれ。たとえば味覚や触覚など、五感も一人ひとり違います。私たちの活動は、色にも多様な感じ方があり、それを認め合おうという提案なのです」

フシギの色の国のアリスちゃん

携帯電話やパソコンの画面、電光掲示板や案内表示など、以前は単色で表示されていた身のまわりのさまざまなものが、技術の進歩によってどんどんカラー化されていく現代。便利になっているようで、実は色覚少数派の人たちにとっては不便を感じる場面も多いのかもしれない。
「日本ではこれまで、色覚少数派の方への配慮が少なく、道路標識など公共物でさえもカラーバリアフリー化されてきませんでした。しかし少数派の人たちには、識別しにくい色の組み合わせがあったり、色の中のわずかな違いに敏感であったりと、多数派と見え方が異なります。そのために、信号の色が判断しにくい、黒板に書かれたチョークの文字の色の違いが分かりにくい、肉や魚の鮮度が見極めにくいなど、日常生活において困ることがあります。それをより多くの人に知っていただき、多様な人が生きやすい世の中のあり方を考える一つのきっかけにしたいと考えているのです」

年齢や性別、人種や国籍、宗教や信条、障がいや性的指向、さらには生き方や考え方など、多様な特性や価値観を持つ人たちが、今後ますます共存・協働するであろうこれからの社会。私たちは誰もが、ある一面で多数派でありながら、ある一面では少数派にもなりうる。アニメーションの最後に、アリスはこう問いかける。「みんながそれぞれの見え方を受けとめられる社会ってどう思う?」それは、多数派と少数派という両側面を常に持ちうる私たちすべてが、お互いに認め合い、受けとめ合える社会。一人ひとりの個性が、その人らしい色に輝く社会だ。

プロジェクトメンバー

NPO法人True Colors(トゥルー・カラーズ)

理事長
高橋紀子氏

http://www.truecolors.jp/

37+c

代表
大西崇督氏

http://37plus-c.com/

CA-RIN WORKS

代表
カツミ氏

http://ca-rin.com/

ムラカミケイコ氏

公開:2017年12月28日(木)
取材・文:岩村彩氏(株式会社ランデザイン

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。