メビック発のコラボレーション事例の紹介

企業を未来へつなぐ、“ホンモノ”のリブランディング
給食会社のリブランディング動画とWebサイト制作

介護食への挑戦とリブランディング

大阪府八尾市で学校などへの給食事業を展開する株式会社からここカンパニー。約70年前、食事処として創業し、後に「松ちゃん給食」と改名して給食事業へ進出。そんな同社が現在の社名へ変わったのは2024年6月のこと。

学校給食と聞くと安定した経営のイメージを持つが実情は違う。夏休みや冬休みの期間は工場が稼働せず、少子高齢化の時代においては先細りも明らか。そこで、家業を継いで三代目社長となった小林雅代さんが目を付けたのが「介護食」だった。「これから需要が見込めるし、製造のリソースもノウハウもある。けれど、社名が『松ちゃん給食』だと給食に縛られてしまう。今後めざすのは食品製造会社なんです」

そんな相談を小林さんから受けていたのが、ブランディングを得意とする株式会社キャリアンヌの三品香さんだ。「食を通して未来をどう作るか、体と心をどう健康にしていくか。彼女との対話を重ねるなかで、従業員と一緒に創り上げていきたい会社のイメージが拡がっていきました」と言い、一大リブランディングを計画。社名変更を手はじめに、CI・VIを一新するほか、新規事業としてスタートする介護食のWebサイトも立ち上げることにした。

新社名の開発は小林さんと三品さんがマンツーマンで対話を重ね、「からここカンパニー」に決定。公式サイトのリニューアルは同社で既に繋がりのあるクリエイターにお願いすることになったが、動画コンテンツが社会に受け入れられている現在、会社紹介に動画が必要と考えていた三品さん。動画制作には「システマチックに制作するクリエイターよりも、伸びやかに楽しく表現できるクリエイターのほうがマッチする」と考え、新たなクリエイターを探すことに。

そこで思い浮かんだのが、メビックを通じて面識のあった合同会社ホームランオフィスのロックオン柳田さん。Web制作と動画ディレクションを得意とし、さらにラッパーという肩書も持つ個性派だ。2024年4月中旬、三品さんから柳田さんへ打診。自身もクリエイティブディレクションを務める三品さんだが、今回は「船頭は二人もいらない」と、柳田さんにクリエイティブディレクションを全面的に委ね、三品さんは小林さんとクリエイターを繋ぐ役割に徹した。

元メビックのコーディネーターでもあった柳田さんは、早速メビックの繋がりで制作チームを編成。映像制作には、コーディネーター仲間だった合同会社シネジアの吉村昌哉さん、スチール撮影には、メビック主催の「この街のクリエイター博覧会2024」の会場撮影を担当していた株式会社KP Lifeの藏屋憲治さん。両名に声をかけ、この布陣で動画コンテンツと介護食のWebサイトの制作が動き出した。

「介護食サイト」キャプチャ
完成した介護食のWebサイトは、商品である「粒入りムース介護食」の特長が分かりやすく説明されている。

動画を通じて企業のリアルをさらけ出す

「働いている人の顔を見れば、楽しい会社かどうか分かる。そこで、クリエイティブコンセプトをさらけ出すにしました」と柳田さん。繕わないリアルな姿を伝えることをテーマに据えた。まずは動画の制作から。三品さんが設計した企業コミュニケーション戦略に沿って、企業PRコンテンツとして「企業紹介」と「トップインタビュー」、求職者向けコンテンツとして「トップメッセージ」の3本の動画が作られることになった。

撮影風景
工場がメインに稼働するのは午前3時から6時。そのため午前1時に集合して動画撮影が行われた。

「工場の調理風景をキレイに撮るだけなら簡単なんです。けれど、今回のコンセプトを考えるとそれではダメ」と語るのは、シネジアのスタッフであり、撮影も担当した嶋田真己さん。淡々と調理風景を流す動画にはしたくないと、事前に柳田さんと打ち合わせていた。

そこで用意したのが14mm広角レンズ。このレンズで撮影することで、調理風景をダイナミックに表現した。その他にも「スローから早回し、そしてスローへと、速度に変化を付けた編集で躍動感を出したいと考えていました」と言い、仕上がりを想定して撮影するなどアイデアを盛り込んだ。工場の撮影後は、スタジオに移動して「トップインタビュー」と「トップメッセージ」を撮影。丸一日をかけて撮影が行われた。

動画編集においても柳田さんのセンスが光る。「見る人のモチベーションを維持するにはリズム感が大切。少しでも違和感があったら調整をお願いしました」。嶋田さんはコンマ数秒単位の調整を繰り返しながら、映像を作り込んでいった。

完成した「企業紹介」動画は、分かりやすい映像と印象的な画角、スタッフの笑顔と真剣な表情、スローと早回しなど、多彩なカットがリズミカルに連続。あっという間に3分弱の動画を見終わってしまう。「トップメッセージ」は、小林さんの真っすぐな言葉で、仕事の大変さと創意工夫の楽しさを伝える映像に。そして、特筆すべきなのが「トップインタビュー」のワンシーン。インタビュアーから社長を引き継ぐ時の想いについて聞かれた小林さんが、涙を湛えながら「世界が変わった」と答えるシーンは、家業を継ぐまでの迷いや大きな覚悟など、一人の人間としてのリアルな姿が映し出されていた。

「トップインタビュー」動画。言葉や語り口調から小林さんの真っすぐな人柄が伝わってくる。

三者三様の情熱を注いだスチール撮影

介護食のWebサイト制作も映像と同時進行。柳田さんがディレクションに加えてWebサイトの構築、藏屋さんがスチール撮影、三品さんがフードスタイリングを担当。三品さんが同社の工場から持ってきた介護食のほか、野菜や食器などスタイリングに必要なものを準備して撮影現場へ運び込んだ。しかし撮影当時、介護食はまだ商品開発の途中。パウチされているものや保存袋に入ったもの、冷凍されているものなどバラバラで、一筋縄では撮影できない状態だった。

「凍っていたら撮影できないし、汁がにじんでも良くない。しかも、ペースト状なので適当に盛り付けると食品に見えなくて」と、スタイリングの苦労を語る三品さん。また、柳田さんもクリエイティブディレクターとして、構図や色の配置などにこだわりもある。

藏屋さんも「今目の前にあるものを最高の状態に仕上げようという、二人の情熱をバシバシ感じた」と言いつつも、フォトグラファーとしてその気持ちに応えていく。「介護食なので安全安心な雰囲気は大事。まずは素材を的確に撮影した後に、もう少しエモく撮りましょうか?」と、ライティングを工夫し、温かみや愛情を感じられる雰囲気を演出する。こうして細部にまで三人のこだわりが注ぎ込まれた結果、3時間の予定だった撮影は8時間にも及んだという。

完成したWebサイトのトップには、藏屋さんの写真を大きくレイアウト。色とりどりの介護食の後ろにたくさんの野菜たち。一つひとつの介護食を紹介する写真も、食感を演出する粒状の食材の質感を表現。美しく整いながらも、特徴を引き出した写真が並んでいる。

撮影風景
長時間に及んだスチール撮影。仕上がった写真の数々は三人のクリエイター魂の結晶だ。

人の心と企業文化を変えるクリエイターの力

6月1日の社名変更と公式サイトのリニューアルに伴って、動画と介護食のWebサイトを公開。その反響は大きなものだった。

「これまで求人を出しても応募がなかった栄養士を採用できたんです」と小林さん。立て続けに営業事務の求人にも応募があったという。これは動画を通じて、からここカンパニーのリアルな空気や小林さんの人柄が伝わった結果。「社員も動画を喜んでくれています。子どもに見せたり、『なんか私らかっこいいやん』って声をもらったり」と、働くことに対する社員の気持ちも高まったという。

「一連のリブランディングを経て、新しいことに挑戦しよう”という前向きな意識が社内に広まりました。加えて、今期のスローガンは『ワクワク行動しよう。その経験から学ぼう』に決めました。行動の結果が失敗でも、その経験に価値がある。一人ひとりがワクワクすることを飽きるまでやって欲しい」と小林さん。クリエイティブによって、数字では表せない大きな変化が生まれていた。

三品さんは今回のプロジェクトを振り返って「改めてクリエイターの力の大事さ、粘り強さ、創造する大切さを感じました。人間味を表現できる柳田さんにクリエイティブディレクターをしていただいて本当によかったです」と高く評価。その言葉を受けて柳田さんは「三品さんとご一緒させていただいて、経営者の考えの先の先まで見ているんだなと勉強になりました」と、学びがあったという。嶋田さんは「撮影も編集もすごく楽しめましたし、他の企業じゃできないような映像を作らせてもらいました」と充実感をにじませる。続いて藏屋さんも「二人の背中で動かされたというか、絶妙なリズムで踊らされたって感じですかね(笑)。学ぶことが多い仕事でした」と語る。

リブランディングの事例は数多くあれど、働く人の想いや企業文化などの本質まで変化させる事例は、どれくらいあるのだろうか?「去年の6月1日よりも、今の方が自分たちに染み込んでいるというか。これから会社がより良くなるための彩りが加わった気がします」と小林さん。その一握りの成功例がここにある。

からここカンパニーの公式サイトに掲げられたビジョン世界中が、最高の笑顔で、ごちそうさま。健やかな笑顔に満ちた食卓をあらゆる人が囲める世界って、なんて素敵なんだろう。未来の風景は、今ここから、描かれていく。

集合写真
左から藏屋氏、柳田氏、小林氏、三品氏、嶋田氏

株式会社からここカンパニー

代表取締役社長
小林雅代氏

https://karacoco-company.jp/

株式会社キャリアンヌ

ブランドプロデューサー
三品香氏

https://carrianne.co.jp/

合同会社ホームランオフィス

Webクリエイター / ビジネスラッパー
ロックオン柳田氏

https://homerun-office.jp/

株式会社KP Life

フォトグラファー / ディレクター
藏屋憲治氏

https://kp-life-official.skr.jp/wp/

合同会社Cinergia

アートディレクター / エディター
嶋田真己氏

https://cinergia.co.jp/

公開:2025年3月4日(火)
取材・文:眞田健吾氏(STUDIO amu

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。