メビック発のコラボレーション事例の紹介

ビジネス×クリエイティブ。異なる強みが生んだ強力タッグ。
アルミ切削によるデスクトッププランターの開発

​TOOLMARQ

金属加工に精通した商社マンとブランディングも手掛けるデザイナー

株式会社ASENSEで代表取締役を務める小林勇人さんは、元商社マン。日本のカメラメーカーが海外で部品を調達するにあたり、工場の選定、人材教育、品質や原価の管理などをサポートしてきた。2004年からは香港に駐在。2009年に独立して現地で貿易会社を設立した後、2019年に帰国。事業の拠点を国内に置くにあたり、どのようなビジネスを軸にするか改めて考えた。

「ずっと携わってきたのは、金属を加工した部品製造の分野でした。金属、なかでも扱いが難しいアルミについては知識もノウハウも人一倍備えていると自負していました。そこで、『アルミを使った何かを作ろう』というところまでは考えていました」(小林さん)

小林さんが漠然と描いていた商品イメージは、キャッシュトレーやコースターなどの店舗用品だった。カフェめぐりが好きだったこともあり、「アルミの洗練されたアイテムであれば、センスのいいカフェにマッチするのでは」と考えたのだ。これらのアイデアをベースにして小林さんは事業計画書を作成。ブラッシュアップのためのアドバイスを求めて、大阪産業創造館を訪れる。このとき、「デザイナーの力も必要」と考えていたことから、メビックを紹介してもらうことに。コーディネーターと話し合った結果、案件に関心がある少人数のクリエイターと意見交換を行うクリエイティブクラスターミーティングを開催することになった。

2023年7月に開催されたクリエイティブクラスターミーティングには8人のデザイナーが参加。小林さんのプランをめぐって意見を交わした。

後に小林さんとタッグを組むことになるアドリアカンパニーの代表・岩田浩司さんは、美容機器メーカーでプロダクトデザインや美容室などの内装デザインに携わったことを皮切りに、建築や家具デザインと多岐にわたるデザインを経験してきた。家具デザインを行っていた頃は、「売るためにはどうすればいいか?」を考えるマーケティング的な役割も担当。カタログなどプロダクトを取り巻く全般のデザインを受け持ち、ブランディングやプロモーションの知見を深めていった。

「独立したのは2004年です。雑貨や生活用品、工業用品など、様々な分野のプロダクトデザインを担当しました。加えて、カタログやホームページの制作にも携わり、『商品を世の中に届ける』という目的に向けたあらゆるデザインを行ってきました」(岩田さん)

そして2023年7月、クリエイティブクラスターミーティングに参加。小林さんと出会った。

「眠れないほどのインパクト」をもたらした提案

自身が精通する金属加工を活かした新規ビジネスとあって、小林さんには強い思い入れがあった。クリエイティブクラスターミーティングに臨むにあたっても、細部まで検討に検討を重ねた。しかしそのことが裏目に出た。

「要望が具体的過ぎたんです。ミーティングに参加したクリエイターさんからすると、『そこまで決まっているなら、自分が加わる余地はない』となってしまいました。クリエイターさんとお付き合いした経験がなかったこともあり、伝え方をわかっていませんでした」(小林さん)

思いが伝わらないもどかしい状況のなか、小林さんは思い切った決断をする。「アルミの雑貨」というテーマと提案の期日以外、要望をすべて白紙にしてしまったのだ。小林さんいわく、「あとは煮るなり焼くなり好きにしてくれたらいい」という方針転換だった。

この方針転換を、「なんて大胆で、なんて柔軟なんだ」と粋に感じながら受け止めたのが岩田さんだ。そして、「がぜん、やる気が高まった」とも。

岩田さんは、小林さんにはデザインにとどまらないビジネス全般でのサポートが重要になると考えた。サポートの第一歩目は、商品を知ってもらうことだ。知ってもらえれば売り上げも立ち、資金を得て次の商品を開発することもできる。この循環を生み出すことを視野に入れつつ、「どうすれば知ってもらえるか」を考えた。

「知ってもらうために大切なのは、ターゲットです。アルミという素材が誰に刺さるのか、そこを徹底的に考えました」(岩田さん)

岩田さんがたどり着いたのが、Macユーザーだ。iPhoneやiMacなどのメタリックでスタイリッシュな装いは、アルミに通じるものがある。岩田さんは、Macのある日常、Macのある机の上にどんなアルミ製品があれば溶け込むか、Macユーザーの心を満たすかを突き詰めた。そこからたどり着いたのが、「Macを愛してやまない20~40代男子に向けた雑貨」というコンセプトだった。

Macユーザーの嗜好や価値観に寄り添い、Mac製品が置かれた机や空間にマッチするデザインを追求した。

この提案を目にした小林さんは、「眠れないほどのインパクトを受けた」と言う。Mac製品に用いられている金属加工の難易度の高さを知っているがゆえに、「そこを攻めたか」と思うと同時に、「これならいける」とも感じたのだ。小林さんは岩田さんの提案の採用を決定。2人のコラボがスタートした。

コラボが決定後、2人は2週間に1度のペースでミーティングの場を設けた。1回の時間は3時間以上。「会う回数以上に濃い時間を過ごした」と2人は振り返る。商品は当初はステーショナリーを考えていたが、採算面から軌道を修正。アイデアが浮かんでは岩田さんが商品イメージを描き起こし、小林さんが原価計算をするという過程を繰り返していった。

「通常なら外注先に見積もりを依頼してから原価や販売価格を計算するのに、小林さんはすぐに自分で計算できてしまうんです。商品開発がスピードアップすることはもちろんですが、間に人を介さない分、思いが薄まらないという効果もありました」(岩田さん)

こうしてたどり着いたのが、机に置けるサイズの寸胴型のプランターだ。Macユーザーに向けたアルミの商品というコンセプトは揺るがすことなく、市場性や採算性を十分に加味した商品が出来上がった。小林さんも、「得意分野のまったく違う2人が、お互いの得意分野を持ち寄ることができた。いいコラボでした」と振り返る。

展示会で大反響を得る。ブランドを共に育てる間柄に

新商品は、2024年10月に千葉県・幕張メッセで開催された「国際ガーデン&アウトドアEXPO(GARDEX)」で披露された。それに先駆けて岩田さんは、商品のブランド名であるTOOLMARQのロゴマークをデザイン。ホームページ、カタログ、商品パッケージも制作した。出展にあたってはブースのデザインも岩田さんが担当。「ブランドの世界観をぶれさせないことにこだわった」というデザインは、Macユーザーが好む空間を忠実に表現。小林さんいわく、「お客さんが飛んできた」というほどの好評を博した。

展示ブース
造園やアウトドアのブースが多数を占めた展示会においてTOOLMARQのブースは異彩を放ち、大きな注目を集めた。

「どんなに優れた商品でも、機能はすぐにまねられてしまいます。しかし感覚的な価値はしっかりした世界観やコンセプトを構築しているので非常にまねされにくいものになります。Macユーザーの価値観に寄り添い、機能的価値と感覚的価値の比率をうまく調整できることが私たちの強みです」(岩田さん)

展示会を経て、小林さんと岩田さんは4社と販売契約を獲得するに至った。有名ホームセンターもブースに足を運んでくれ、今後のビジネスチャンスに期待が膨らんでいるという。

2人は現在の関係を、「友だちのようなもの。何でも言いたいことを言い合う」「ブランドを一緒に育て、ファンを増やすパートナー」と表現する。商品は、新たなデザインをラインナップに加えることになっている。ヒーターや水切れお知らせ機能など、USBケーブルを通じて電源を供給することで、様々な機能の追加が可能になる。これも、「Macが置かれたデスク」を発想の起点にしているからこそだ。

「事業を立ち上げたころは、『どうなるだろう』という不安ばかりでした。ところが今は、やりたいことが無限に浮かんでくるんです。こんなに幸せなことはありません。この幸せこそ、コラボによる最高の成果です」。小林さんはそう言って笑い、話を締めくくった。

左から小林勇人氏、岩田浩司氏

株式会社ASENSE

代表取締役
小林勇人氏

https://www.toolmarq.com/

アドリアカンパニー

代表 / プロダクトデザイナー / ブランドディレクター
岩田浩司氏

https://www.adoria.biz/

公開:2025年2月20日(木)
取材・文:松本守永氏(ウィルベリーズ

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。