メビック発のコラボレーション事例の紹介

「信頼」から生まれた花をギフトに込めて
ギフト用紙製品のパッケージデザイン

ギフト商品「Flowers」

社運をかけたリニューアルで得た確かな信頼

「マックさんが提案してくれるデザインがいつも楽しみなんです」。そう語るのは、イトマン株式会社の大阪オフィスで商品開発に携わる中西華子さん。同社は製紙業が盛んなことから“紙の町”と呼ばれる愛媛県四国中央市に本社を構え、業務用のトイレットペーパーやペーパータオルなどを製造している製紙メーカー。また、マックとはデザイン制作会社である株式会社マックのことだ。

今回紹介するのは、イトマン×マックのコラボで生み出されたギフト商品「Flowers」なのだが、実はこれが最初のコラボではない。本題に入る前に、両社の出会いや初コラボの経緯を簡単に説明しよう。

2020年、環境意識や効率化などのニーズの変化に応えるため、イトマンは売上の8割を占める主力ブランドのリニューアルを決定。⾼品質な定番「itoman」、コストバリューに優れる「ittoco」の2つを刷新することになった。パッケージデザインにも新風を吹き込みたいと考え、2020年12月初旬、メビックの「企業によるクリエイター募集プレゼンテーション」へ登壇。リニューアルの意図や、“空間を美しくするために、業務用商品のパッケージにもこだわりたい”という、デザインへの考え⽅をクリエイターに訴えた。

後日、14社から届いた提案の中から選ばれたのがマックの案。「デザインのモチーフは⼆つの円。イトマンが⼤切にしている、⼈とのつながりやもてなしの気持ちを表しています」と話すアートディレクターの時本知広さん。「itoman」のパッケージには、柔らかなフォルムの円と細い線で描かれた円を配置して、空間を邪魔しない上質感を。「ittoco」のパッケージは、⽔彩と⾊鉛筆で描かれた円が⽔⾯に浮かぶようなデザインで、⾝近なブランドであることを表現した。

2021年4⽉1⽇、リニューアルを発表。取引先からの評価も高く、社運をかけたリニューアルは成功を収めることができた。この件でイトマンから厚い信頼を得ていたマック。今回の「Flowers」のパッケージを担当するクリエイターとして、白羽の矢が立ったという訳だ。

「itoman(左)」と「ittoco(右)」
マックが手掛けた新パッケージ。左が「itoman」、右が「ittoco」。どちらもトイレットペーパーだけではなく、ティッシュペーパー、ペーパータオルなど、幅広い商品を⼿掛けた。

新ギフトで狙う、大人の女性と穴のない商品展開

イトマンの商売はBtoB。「Flowers」はギフト商品ではあるが、一般的なギフトとは異なり、企業が消費者に送るギフト。いわゆる販促品にあたる。「手に取る消費者層は40代以上の女性がメイン。分かりやすいデザインを好む傾向があり、おしゃれ過ぎると逆に響かない。そこで、デザインのモチーフに花を使うことにしました」と中西さん。狙いは、花を飾るような感覚でリビングに置いてもらえる商品。手間のかかる生花を飾る代わりに、美しい花を気軽に楽しめることをコンセプトの軸とした。

花を選んだ理由には、他にもいくつかの理由がある。イトマンでは以前に「花の写真」をパッケージに用いた商品がヒットした実績があった。「写真表現はお客様の心をつかむんだなと。今回も花の写真を使いながら、より花の繊細さを表現したパッケージにしたいと考えました」。また、先述のリニューアルと「Flowers」の間に、マックは中西さんの依頼でコンペ形式のデザイン案件に参加。惜しくも採用に至らなかったが、社内で好評な案があった。「花の写真を使ったデザインがとても素晴らしくて、いつか商品に活かしたいと思っていたんです」

さらに、営業的な狙いもある。これまで春夏秋冬の4期に分けてギフト商品を作っていたが、季節の境目になると売る商品が無くなる問題があった。例えば6月。春ギフトには遅く、夏ギフトには早い。秋はハロウィンのギフトを作っていたが、ターゲット層にマッチしないうえ、冬ギフトでは時期尚早といった具合だ。そこで、「Flowers」は「春夏」と「秋冬」の2シーズンのラインナップとし、年間を通じて穴のないギフトとして企画された。

最大のミッションは四季の花を集めること

「最初に相談を受けたのが2021年末頃で、年明けから本格始動。中西さんからは、花の写真を使うことと、花言葉を入れたいと要望をいただきました」と時本さん。そこで、以前のリニューアル案件でもタッグを組んだマックのデザイナー・⾕垣穂咲菜さんと共に制作にあたった。「1月末頃にアイデアを持ち寄ってブレスト。6、7案程度の簡単なデザインラフを提案しました」と谷垣さん。小花柄やパターン図案、タイポグラフィなど、さまざまなアイデアが提案された。受け取った中西さんは、「どれも使いたいデザインばかりで、選びがいがありました。会議では経営陣も喜んでいましたし、社長も『ギフトって感じがしていいね!』と大好評でした」と語る。検討の結果、花の写真をグリッド状にレイアウトする案で進めることに決まった。

いざ本制作となるのだが、実は大きなハードルがあった。それが花の撮影。「予算があまり多くはなかったので、『春夏』と『秋冬』の2つをまとめて撮影。デザインも一度に行うことにして、年間予算から撮影費を捻出しました」と時本さん。さらに、一度で全ての花を撮影するということは、撮影日に春夏秋冬の花を用意する必要があるということ。撮影日は3月2日。花集めに奔走した。「中西さんから入れたい花&花言葉のリストをもらい、こちらでもリサーチ。花屋に足を運びながら、撮影日に準備できる花を詰めていきました」

撮影当日。スタジオには約20種もの花が用意された。「小さな花はまとめて撮影したり、大きな花は一輪で撮影したり。なにをどう撮るか、実物を見ながら現場で考えていきました」と時本さん。「春夏」と「秋冬」で花のバックの色を変えるため、背景となるバック紙を複数準備。春夏はピンク系、秋冬はブルー系の背景で撮り分けていった。

左:スタジオに持ち込まれた色とりどりの花たち。中には、中西さんが知人から分けてもらった花も。
右:撮影風景。花の個性を引き出すために撮影する角度にもこだわった。

質の高い仕事のベースにある「信頼」というつながり

「どんな花が撮影できるか未確定な部分もあったので、どの花を、どうレイアウトするかは、写真を撮ってから考えようと」と笑う谷垣さん。撮影された写真をもとに、花の色や大きさ、花言葉の組み合わせなどを考慮しながらレイアウト。花の配置や花言葉のフォントが違う数パターンを制作して提案した。デザインを受け取った中西さんは、「スケジュールがタイトなのに、こんなに多く提案いただけるとは思っていませんでした!」と感動。さらに、中西さんからも提案があったという。「切り離すタイプの取り出し口だと、撮影した花や伝えたい花言葉が切れてしまうのでもったいない。切れ目から引き出すタイプを採用しました」。4月初旬にデザインが完成。サンプル制作を経て、互いのアイデアを盛り込んだ商品ができ上がった。

7月1日、「Flowers」の販売開始。自社ECサイトのほか、カタログ通販、問屋などを通じて、続々と消費者のもとへ届いている。「写真を使ったデザインは、お客様からもキレイだと好評。営業担当も季節の境目に売る商品ができたと喜んでいます」と中西さんが語る通り、評判は上々のようだ。

完成した「秋冬」パッケージは、トイレットペーパーとボックスティッシュの2種類に展開。「乙女のしとやかさ」「清純な心」「上品」など、それぞれの花の花言葉が添えられている。

今回のコラボを振り返って谷垣さんは「普段の仕事では人物撮影が多く、花が主役の撮影は初めて。デザインも花と花言葉だけのシンプルな要素でしたし、イトマンさんでしかできない表現ができて新鮮でした」。続いて時本さんは、「イトマンさんの仕事は、互いの想いをキャッチボールしながらできるから、とてもスムーズ。今後も、もっと関わっていけたらと思っています」と、充実した表情を見せる。

「タイトなスケジュールだったのに、お二人は確実な仕事をしてくれました。それに、私だけではなく、会議で他の社員にも伝わる仕事をしてくれるのが素晴らしい。『Flowers』は今期だけの予定でしたが、シリーズ化することも検討されています。ブランドとして大きく育てていけたら」と、中西さんは今後の展開に可能性を感じている。白いマーガレットの花言葉をご存知だろうか? 答えは「信頼」。コラボレーションが育んだ信頼という花が、絶えることなく、咲き続けることを願いたい。その先に、どんな景色が広がっていくのだろうか。

集合写真
左より中西華子氏、時本知広氏。イラストでの登場が⾕垣穂咲菜氏。

イトマン株式会社

デザイン推進部 商品開発グループ係
中西華子氏

https://e-itoman.jp/

株式会社マック

アートディレクター
時本知広氏

デザイナー / イラストレーター
谷垣穂咲菜氏

https://www.maq.co.jp/

公開:2022年10月28日(金)
取材・文:眞田健吾氏(STUDIO amu

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。