メビック発のコラボレーション事例の紹介

型を打ち破り心に寄り添う情報発信で人を動かし、社会を動かしていく
SNSを活用した地域魅力発信プロジェクト

地域への想いに呼応するように人がつながり大きな力へ

コロナ禍の社会変化に対応した新しいライフスタイルとして、 鉄道と各種サービスを組み合わせた「鉄道のある暮らし」を展開するJR西日本グループ。2021年6月、西日本エリアのさらなる活性化・交流拡大を推進する新組織「地域共生部」を設立した。初期メンバーの一人である山内菜都海さんには、チャレンジしたいひとつの試みがあった。それは、「“JRらしくない”まったく新しい手法や表現で情報発信をする」というものだ。

実は山内さん、地域活性化への並々ならぬ想いがあり、オンラインによる「第二のふるさとを探す旅」の主催など、普段から個人として意欲的に活動する“熱い人”だ。2022年、JR西日本とジオリブ研究所とのコラボプロジェクトとして、一般市民からアンバサダーを募り日本海3県(富山県・福井県・鳥取県)の魅力発信活動を行う支援事業を始動させるのを機に、「オフィシャルな硬いイメージではなく、生活者の心に響く親しみある表現で共感を集める訴求にしたい」と考えた。そこで、新たなクリエイターとの出会いを求めて、以前より親交のあったメビックに相談。より広い範囲でクリエイター募集を行うため、メビックのメーリングリストを活用することに。表現したい世界観・ビジョンの可視化・言語化、コンセプトビジュアルの作成、Webサイトの構築、SNS展開のアドバイスと幅広い業務依頼を告知し、地域への想いを共有し、ゼロから創り上げていくための“仲間”を募った。

その募集に素早く動いたのが、デザイナー・安村厚子さんだ。かねてより地方に関わる仕事に関心が高く、仕事仲間であり地方創生に関わる企画制作を数多く手掛けているコピーライター・山中貴裕さんに声をかけた。自らの主戦場とも言える地方の仕事であることはもちろん、プロジェクトの内容に魅力を感じた山中さんは即賛同。さらに、ソーシャルメディアの運用支援・コンサルに取り組むコミュニケーションプランナーであり、工場見学を通して日本各地のものづくりを紹介する「しゃかいか!」の編集長・加藤洋さんへとつなげた。地域活性化に燃える一人の企業人の呼びかけに応えるように人の想いがつながっていき、言葉の表現・デザイン・SNS戦略全域をカバーする新たなクリエイティブ・チームが誕生した。

新たなライフスタイルの提案につながるさまざまな取り組みで、西日本の各エリアの魅力創出をめざすJR西日本。

新たな知識や価値観に触れることで視野や表現力、創造力が広がっていく

応募は個人・企業合わせ24組あり、うち8組と面談。最終的に安村さん・山中さん・加藤さんの合同チームを選定した理由は、「レスポンスの早さから感じる熱量」だと山内さんは言う。「コピーだけ、デザインだけ、Webだけというように、単一スキルの応募が多いなかで、各専門分野のプロが集まりコンソーシアムで臨んできたのは唯一このチームだけ。何より地域活動への造詣が深く、詳しく語らなくとも背景の文脈が伝わることが心強いと感じましたね」。さらに、本プロジェクトはその後、観光庁が実施する「第2のふるさとプロジェクト」モデル実証事業への採択も決まり、チームへの期待感はますます高まったと話す。

まず取り組んだのは、アンバサダー募集に向けたWebページの立ち上げだ。観光庁の採択からオープンまでのわずか3週間で、ネーミングとロゴデザイン、Webデザインのためのイラスト制作やコピーライティングと、やるべきことは山ほどあった。そんなタイトなスケジュールを支えたのが、普段から膨大な情報を取り扱う加藤さんが活用するオンラインホワイトボードツール「Miro」。ひとつのアイデアや制作物をもとに関係者全員が一斉に意見を出し合い討論し、集約していくことで、圧倒的なスピード感で実現できたとメンバーたちは声を揃える。「特によかったのは、クリエイターたちの感性や価値観に触れられたこと。やりとりを通して、自分の視野が広がっていくのを感じました」と山内さん。また、本プロジェクトのコラボパートナーであるジオリブ研究所所長の巽好幸さんと岡田一雄プロデューサーが繰り出す地質学の豊かな見識と新しい角度からの地域資源の見方が、言葉やデザインに広がりを与えてくれたと安村さんと山中さんは振り返る。

そして、2022年5月17日、「地域ものがたるアンバサダー ~美食地質学×第2のふるさとを巡る旅~」が正式にリリースされ、いよいよアンバサダー募集が開始。2週間という極めて短い期間に、予想を遙かに超える100名以上の一般応募が集まった。「応募フォームでは意欲や想いを重視したかったので自由記述を中心にしたのですが、多くの方がそこにものすごいボリュームの言葉を書き込んでくださって、その想いの深さや熱量に圧倒されるほど。このプロジェクトの確かな成功を確信した瞬間でした」と笑顔を見せる山内さんだ。

ミーティングはオンラインアプリ「Miro」で。各人の付箋コメントで全体の意見を把握し、より良いカタチに落とし込んでいく。

単なる「制作」を超えて人の心や社会を動かす奔流を生み出す

最終的に選ばれたのは、富山県、福井県、鳥取県の3地域でそれぞれ7名の合計21名。7名のアンバサダーはひとつのチームとなり、6月~11月の6ヶ月間、月に一度担当県を訪れ、地域側の水先案内人たちと交流しながら地域のさまざまな魅力を発見していく。また、毎月1回各地でジオリブ公開講座を開き、その地域固有のジオストーリーやそのなかで生まれた食文化を学び、地域のブランディングやコンテンツ開発へとつなげていった。

それら半年間の活動やアンバサダーたちの旅の軌跡は、noteやYouTubeをはじめFacebookやTwitter、Instagramなど、多彩なSNS展開で地域の魅力を広く全国へと発信。アンバサダー一人ひとりの熱い想いが地域の人々の想いと混じり合い、大きな流れとなってすこしずつ社会を動かしていく。「その変化に関われたことはクリエイターとしても嬉しくて、このプロジェクトが社会に与えるインパクトや、その先には日本の未来を変えていけるかもしれないという期待感を感じられたことが、とても大きな成果でしたね」と加藤さん。安村さんも山中さんもその想いに共感しながら、「いろんな人と出会い触れあうことで、自分のなかにも新しい視点や価値観が生まれた気がします」と嬉しそうに話す。

それぞれの地域で活動し、交流を深めた、各県担当のアンバサダーやジオリブ研究所の巽さん、プロジェクトのメンバーたち。

一方、先頭を切って走る山内さんをはじめ、クリエイターチームを陰日向で支えたのがJR西日本コミュニケーションズの安田孝史さんだ。観光庁に提出する膨大な報告書の作成や補助金の申請など、煩雑な業務をサポートし、メンバーたちがのびのびと行動できる環境を整えていった。そんな安田さんもまた「今回、山内さん自らクリエイターを選定するという思い切った挑戦のお陰で、新たなクリエイターの方々と出会えたことがとても新鮮でした。自分自身の業務における可能性も広がったように感じます」と、プロジェクトを振り返った。

それぞれのなかに新しい経験と発見を得て、プロとして、クリエイターとして、新たな視点や価値観が拓けたチーム一同。その“進化”を糧にプロジェクトは次のステップに進み、また新たな企画制作がスタートしていく模様だ。

集合写真
左より、安田孝史氏、山内菜都海氏、山中貴裕氏、加藤洋氏、安村厚子氏

西日本旅客鉄道株式会社 地域まちづくり本部 地域共生部

山内菜都海氏

https://www.westjr.co.jp/company/action/region/

株式会社JR西日本 コミュニケーションズ

安田孝史氏

https://www.jcomm.co.jp/

スタジオ ユーピー / 株式会社SANYO-CYP

アートディレクター / プランナー
安村厚子氏

https://www.sanyo-cyp.com/studioup-top

うたみな

コピーライター
山中貴裕氏

http://www.utamina.com/

しゃかいか! / 株式会社TAM

編集長 / コミュニケーションプランナー
加藤洋氏

https://www.shakaika.jp/
https://www.tam-tam.co.jp/

公開:2023年4月10日(月)
取材・文:山下満子氏

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。