メビック発のコラボレーション事例の紹介
情熱を込めた虹色の彩り、世界へ届け。
筆記用紙のプロモーション動画制作
世界へ届けるために動画の力でプロモーション
すらすらと走るペンが描く美しい文字。誰もが一度は万年筆に憧れたことがあるだろう。「さまざまなインクが普及する中で、色を調合してオリジナルインクを楽しむ方が増えています。そんなニーズに応えるために、発色がよく、濃淡を鮮やかに表現できる紙として『イロフル』が開発されました」と語るのは、SAKAEテクニカルペーパー株式会社の鈴木亨さん。同社には「トモエリバーFP」という筆記用紙がある。20ヵ国以上へ輸出されており、世界中の万年筆ユーザーやカリグラファーが愛用している定番だ。もう一つの筆記用紙の選択肢として生まれた「イロフル」も、世界へ届けたい思いがあった。
「イロフルの世界観や特徴を伝えるには動画が最適だと考えました」と、動画によるプロモーションを行うことに。その動画制作を依頼されたのが昌栄印刷株式会社の田渕健一さん。SAKAEテクニカルペーパーのWebサイトやカタログ制作、商品開発に携わってきた人物だ。「鈴木さんからのオーダーは大きく2つ。海外の愛好家へ伝わるように日本語の説明を入れないこと。インクが染み込む様子、発色や濃淡を徹底的に表現してほしいということでした」。言葉を使わず、ペンとインクと紙だけの表現。難題に挑むために外部クリエイターとタッグを組む必要があった。
司令塔として田渕さんが白羽の矢を立てたのが、ウゴモーションの小野直人さん。「2018年に田渕さんが登壇したメビックの『企業によるクリエイター募集プレゼンテーション』が出会い。協業して動画を制作したことがあり、今回も声を掛けていただきました」。撮影担当のカメラマンには、小野さんが信頼を寄せるビレッジピクスの村尾純弥さんを起用。ちなみに、小野さんと村尾さんはメビックの「独立クリエイターのためのプロデュース力アップ講座」で出会った仲だという。
残るは映像で文字を書いてもらうカリグラファー。10数人の候補者にコンタクトしていくが難航。ようやく決まったのがBoudoir(ブドワール)の備魚円香さんだ。「お引き受けした後に、SAKAEテクニカルペーパーさんのお仕事だと知りました。昔からトモエリバーFPを愛用しているので驚きました!」。嬉しい偶然も起こりながら、2022年3月初旬に制作チームが固まった。

限られた時間のなかで最大の成果を
撮影に向けて動き出したが、予算的に撮影に使えるのは1日のみ。効率的に撮影するために入念な準備が行われた。撮影担当の村尾さんは「撮影カットが具体的に分からないと段取りよく撮れない。小野さんにカット表を作るようお願いしました」と言い、小野さんは撮影内容をまとめたカット表を作成。どんなペンで、どんな文字を、どんな色で、どんな画角で、どんな順番で撮影するかなど詳細に記載した。

一方、備魚さんは「打ち合わせで小野さんとお会いする前に、いろんなペンやインクで書いたサンプルを事前にお送りしました」と言う。受け取った小野さんは「丁寧に書かれたサンプルを見て感動。打ち合わせもスムーズに進みました」と振り返る。話し合いのなかで課題になったのがインクの色数。万年筆はインク交換に時間がかかるため色変更は現実的ではない。万年筆を2本用意して2色使えることになったが、イロフルの魅力を伝えるにはまだ足りない。色数を増やし、映像に変化をつけるために、ガラスペンやスクエアニブなど、複数のペンを用いることになった。また、普段だと真っすぐに書くためにガイド線を引くが、今回の撮影では使わないことに。備魚さんはその理由について「画面内に余計な情報があると、インクの染み込みや発色に目がいかなくなるので」と、見せたいものを際立たせるための配慮だと語る。
「もう一つ配慮しなければいけない点があって、それは備魚さんの集中力」と小野さん。文字を書くには高い集中力が必要で、丸一日の撮影となると途中で集中力が切れる可能性もある。そのため、長文はできるだけ控え、短い文字を書く方向に。撮る側と書く側との意見を取り入れながら撮影プランを詰めていった。

右:備魚さんが送ったサンプル。さまざまなペンや書体、インクを使って丁寧に書かれている。
クリエイターのアイデアと技術を一つに
万全の準備のうえで挑んだ撮影当日。「ここまでアップで撮るのは初めてでした」と笑う村尾さん。超クローズアップを実現するために、接写用レンズに特別なリングを取り付けることで、よりペン先に寄れるように。さらに、カメラの設定によってクローズアップ。さらにさらに、編集時に画面をトリミングしてペン先に寄れるよう4K画質で撮影。3段重ねの対策で撮影に挑んだ。
とはいえ、被写体は小指の先ほどしかないペン先。カメラをつっこまないとペン先に寄れない。「セッティング完了後に備魚さんに入ってもらうんですが、三脚の中で書いてもらうような状態でした」と村尾さん。備魚さんも「普段とは体勢が違ううえ、映る範囲が狭いので油断すると画角からはみ出してしまうんです」と、文字を書く難易度も格段に高かったという。撮影は10時からスタートし、終わったのが21時。長丁場の撮影ではあったが、事前準備が功を奏し無事に終えることができた。
撮影した映像は小野さんによる編集作業へ。「5分程度の映像にしてほしいとリクエストされましたが、動画としては長い。ストーリーや説明もない動画なので、最後まで見てもらうには工夫が必要」。そこで取り入れたのが、3~5秒の短いカットを連続させる手法だ。「動きから動きへ連続して切り替えることで、見る人を引き込むように編集しました」。編集と合わせて音楽選びや入念な色調整を行い、クリエイターの技術とアイデアが注ぎ込まれた動画が完成した。

情熱を込めた映像が見る人の心を彩る
「イロフルの世界観や魅力を具現化してくれました。社内だけでは作れなかった映像に大変満足しています」と、完成した動画を見た鈴木さんは絶賛。田渕さんも「大満足です! クライアントのニーズにきっちり応えられたと思います」と声を弾ませる。動画の反響については、「国内外からの引き合いが増え、お客様から自社のWebサイトで動画を連携したいとリクエストされたり。動画を一過性のできごとで終わらせず、継続した販売効果につなげていきたいです」と、鈴木さんはこれからの展開を見据えている。
各クリエイターが全力で取り組んだプロジェクト。ではあるのだが、全会一致のMVPとして挙げられたのが備魚さんだ。「カリグラフィーに対する真摯な想いがそのまま映像になっていて、備魚さん無しでは、ここまでの仕上りにはなりませんでした」と鈴木さんは評価。小野さんも「備魚さんは紙とインクとペンを心から愛している。その情熱が伝わって、100点ではなく、120点、150点と、より高いクオリティをめざそうと思いました」と言い、好循環を生む渦の中心に備魚さんがいたという。
「書くこととインク選びを私に任せてもらいました。その分、後のことはお願いします!という感じで(笑)。イロフルを知ってもらうための動画ですが、見た人に『こんな世界があるんだ』と思ってもらえれば嬉しいです」と備魚さんは笑う。一枚の紙から始まったコラボレーションが生み出したもの。それは、情熱が人に染み込み、心を彩る美しいクリエイション。動画を見た世界中の人々の心も、虹色のワクワクで満たしてくれるだろう。

公開:2022年8月4日(木)
取材・文:眞田健吾氏(STUDIO amu)
*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。