メビック発のコラボレーション事例の紹介

耕作放棄地を利用した オーナー制ワイン農園活性化
ワイン農園のプロジェクト名称・ロゴ

OKUNARY

出会い
110年の歴史を持つぶどう農家がクリエイターを大募集

大阪府柏原市。かつてこの地は、町のあちこちでぶどうがたわわに実る一大生産地であった。しかし、特産品であるデラウェアの需要減によって市場価格が大幅に下落。土作り、枝葉の剪定、袋かけ……と一年間苦労して育てても収入が伴わず、後継者の不足から農家数はこの30年間で約3分の1にまで落ちこんでいる。
そんな中、明治36年創業、四代にわたってぶどう農家を営む「葡萄のカネオク」の奥野成樹さんは、「歴史あるぶどう作りを次の世代に継承したい」と、生食用のぶどう作りと並行して、耕作放棄地を利用したワイン用のぶどう作りを考案。オーナー制を導入し、クラウドファンディングによって出資者を募った。さらに農園改革を進める上でクリエイターの力が必要だと考え、メビック扇町主催「企業によるクリエイター募集プレゼンテーション」で協力を呼びかけた。
そこで出会ったのが、果物や野菜のブランディングを得意とする根~みんぐだ。このチームは野菜ソムリエ上級プロの野口知恵さん、コピーライターのシキタリエさん、デザイン事務所A.V.E PLANNINGによって構成。「奥野さんの計画に私たちのコンセプトが合致すると確信しました」と主宰者の野口さんが語るように、ブランディングによって農作物の魅力を発信し生産農家をサポートすることを目的としている。これまでもトマト農家から依頼を受け、商品の認知度UPに取り組んできた。
プレゼン以降、奥野さんの元にはさまざまな提案が寄せられていたが、「根~みんぐのコンセプトを語る野口さんの言葉に熱意を感じ、この人たちに任せてみようと思いました」と決意を語る。

ぶどうの状態を確認する様子
現在オクナリーはオーナーによって植樹されたばかり。これから丹精込めてぶどうを育て4年後のワイン完成をめざす。

制作のはじまり
伝統と革新、相反する二大要素を軸に制作スタート

プロジェクトのスタートに際し、まず根~みんぐはメンバー全員で柏原市にある農園を訪問。そして、ぶどうの樹が茂る風景を前に、奥野さんの再興に対する熱い思いを約2時間かけてじっくりとヒアリングした。「これまで何人ものクリエイターさんとお話しする機会がありましたが、ここまで熱心に聞いていただいたのは初めてです。私の思いを全てお伝えすることができました」と奥野さん。
それを受け、「初代であるひいおじい様がまとめられたぶどう栽培の著書や当時のカネオクのラベルを見せていただき、伝統を受け継ぐ大切さを実感しました。今一瞬のことではなく、奥野さんのお子さん、お孫さんの代までずっと使ってもらえるものを作りたいと思いました」とシキタさん。
依頼者、受注者、全員の思いが一つになった瞬間だ。

完成までのプロセス
やりとりを重ね手をかけた分だけ愛着あるロゴに

ただ、制作にあたり難点となったのは“伝統の継承”と“新顧客となる若い世代の獲得”というこの二大テーマをひと言でどう表現するかという点。根~みんぐでは多業種のメンバー構成を活かしてそれぞれの視点でネーミング案を考え、全員で意見を出し合いながら推敲を重ねた。
こうして誕生したのが、「オクナリー」という名前。明治以降受け継がれる屋号の「カネオク」と、これから始まるワイン作りを彷彿させる「ワイナリー」の二つが一語にギュッと凝縮されている。
さらに、このネーミングを元にロゴ制作がスタートすると、「一つひとつのパーツに意味を持たせたい」との奥野さんの意見を取り入れ、何度も提案、修正を繰り返し、丁寧に思いを形にしていった。「ぶどうの房をワイングラスの形にする」「オーナー一人ひとりをぶどうの粒に表現する」などのアイデアはその過程で生まれたと言う。ようやく完成したロゴは、カネオクの屋号の一部である「曲尺」を引継ぎ、シンプルでありながらも印象に残りやすいデザイン。起点となる「●」からぶどうの房へとつながり、奥野さんが作ったぶどうがワインとなりオーナーたちへ届けられる様子を表現している。「とにかく奥野さんの熱い思いに応えたい一心でした」と振り返るA.V.E PLANNINGのデザイナー川瀬亘さんと、大西由華子さん。奥野さんも「何度も話し合い修正いただきましたが、皆さんにお付き合いいただいたおかげで本当に愛着のあるものが出来ました」と晴れやかな表情を浮かべる。

ステッカー
今でも魅力が色あせない明治時代のステッカー。デザイナー川瀬氏は手帳に入れ大切に持ち歩いているそう。

これからのこと
メンバー全員が見守る中で迎えたお披露目の瞬間

「オクナリー」のネーミングとロゴは今年1月、若手農業者が経営強化プランを競う「おおさかNo-1(のうワン)グランプリ」にて、前年度のグランプリ獲得者の1年後の活動報告としてお披露目された。会場となった松下IMPホールには、根~みんぐも駆けつけたそう。「舞台のスクリーンにロゴが映し出された時は、思わず感動しました!」と、A.V.E PLANNINGの福田美樹さんが語るように、メンバーにとっても思い入れの強いロゴになっている。このロゴは現在フラッグに活用され、早くもオクナリーの記念撮影では必需品に。他にも、制作中のホームページなどあらゆるシーンで活躍する予定だ。
依頼主である奥野さんを含め、全てのメンバーが確かな熱量を感じながら取り組んだ今回のクリエイティブワーク。時間をかけじっくり味わいを増すワインのように、50年後、100年後、年月を重ねさらにその意味合いを深めていくことだろう。

プレゼンの様子
「おおさかNo-1(のうワン)グランプリ」にて、1年間の歩みを語る奥野さん。その姿に会場から熱い視線が注がれた。

葡萄のカネオク

オーナー
奥野成樹氏

http://budou-o.com/

Promenade

野菜ソムリエ上級プロ
野口知恵氏

https://ameblo.jp/chienowa831

Pavlova

コピーライター
シキタリエ氏

株式会社A.V.E PLANNING

営業企画ディレクター
福田美樹氏

デザイナー
川瀬亘氏

デザイナー
大西由華子氏

http://www.avegang.jp/

公開:2018年4月26日(木)
取材・文:竹田亮子氏

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。