メビック発のコラボレーション事例の紹介

上質感や喜びを伝えるブランドイメージづくり
チョコレート専門店ブランディング

チョコレートのパッケージ
photo:東郷憲志(東郷憲志写真事務所)

ことのはじまり
パッケージで商品のイメージをよりよくしたい

大阪国際空港にほど近い工場地帯に佇む、贈り物の小箱のような建物。屋根の上のピンクのリボンが愛らしいチョコレート専門店・Chocolate Branch(チョコレート・ブランチ)だ。母体は工業機器の設計・製造を営む加藤工業株式会社。製品の一つ、チョコレート製造機の品質を示す目的で、敷地の一角に直営店として2011年にオープンした。シェフ・ショコラティエの時本祐司さんは、商品の製造をはじめ、店の運営を一任されている。今回のコラボレーションは、時本さんが商品パッケージについて悩んだことに始まる。

「商品そのものの味や美しさはもちろんですが、包装が商品のイメージを左右する。それを店舗や百貨店の催事などで実感してきました。パッケージをよりいいものにしたい、そう思ったことがきっかけです」

店舗外観
目印は工場の中にあるピンクのリボン。「チョコレート支社」を意味する店名は京都大学大学院の学生によるアイデア。

広がったつながり
商品の魅力とお店への愛情を活かすブランディングに

もともとマーケティングに興味があり、時間を見つけて勉強していたという時本さん。パッケージについて調べるうちに出会ったのが、貼箱の企画・製造をする村上紙器工業所代表・村上誠さんだった。

「ウェブサイトから、村上さんのパッケージや貼箱に対する情熱が伝わってきました。さらにマーケティング戦略についても理解のある方だと感じて、相談に伺いました」

一方、相談を受けた村上さんも、商品に大きな可能性を感じたという。

「チョコレート一つひとつが丁寧に作られていて美しく、繊細で深みのある味でした。職人として信念を持って作っていらっしゃることが分かりました。商品のポテンシャルはしっかりとあるので、まずはその魅力がもっと伝わるようなパッケージを作りたいと思ったのです」

ところがパッケージリニューアルから始まった二人の話は、ブランディングデザインへと広がっていった。
「村上さんと話すうちに、パッケージだけでなく店舗に統一したイメージが必要だと感じたのです。そこでブランディング構築についても相談しました」と時本さん。
「商品は上質のスイーツで、ニーズは幅広くあるはず。顧客につなぐための手段の一つとして、商品にストーリー性とビジュアルの統一感を持たせるようなブランディング計画が有効ではないかとご提案しました」と村上さん。
そこで声をかけたのがDIVA Creative代表・末川牧子さんだった。村上さんと末川さんの出会いは、数年前にメビック扇町が主催したセミナー。クリエイターと広い人脈を持つ村上さんは、この案件には女性的なデザインとイラストを得意とする末川さんがぴったりだと感じたという。そこで二人は、店舗を訪問。
「時本さんのショコラティエとしての技術はもちろん、素材や製法、店内ディスプレイや従業員への心遣いなど、お店への深い愛情を感じました。さらに関係者みなさんから熱い想いを聞き、ぜひ力になりたいと感じました」と語る末川さん。こうして、村上さんと末川さん、そして時本さんによるChocolate Branchのブランディング計画が始まった。

ウェブサイト
今回のブランディングでリニューアルされたサイトには、誕生ストーリーや商品へのこだわりがたっぷりと紹介されている。

完成までのプロセス
お店に関わるみんなの想いや願いを一つの形に

まず村上さんと末川さんは、時本さんをはじめ、関係者から店舗への想いを丁寧に聞き取った。
「みなさんがお店を愛され、望みや願いを持たれていることが分かりました。私の役割は、何か新しいものを創るというよりは、その想いを一つの形に表現することだと感じたのです」と語る末川さんは、顧客像・ペルソナの設定を提案。浮かび上がったのは、毎日を丁寧に暮らす、家族も自分自身も大切にする、流行に惑わされず確かな眼を持つ、という芯のある女性像だった。そこから生まれたのがメインキャラクター『艶ガール』。そしてシンプルなロゴと、色と大きさの異なる4種の貼箱パッケージだ。
「チョコレートとは、その一粒が時間や空間に『艶』を与えるもの。『艶ガール』という言葉にそんな想いを込めました。貼箱には質感と発色のいい紙を使用し、4種とも外面・中面を異なる色で制作。さらに表面はロゴとキャラクターを2色の箔押で加工しました。インパクトと上質感のあるパッケージになりましたね」と語る村上さんに頷く末川さん。

「シンプルなロゴは、日々実直に素材に向き合う時本さんやスタッフのみなさんを、キャラクターは遊び心や楽しさを表現しました。さらに色とりどりのパッケージは、店舗に関わる方々のたくさんの想いの表れでもあります」

チョコレートのパッケージ
無数にある品種、産地から選んだカカオから造られたチョコレート。一粒一粒が宝石のように美しい。

つながりから得たもの
店舗と商品に大きな自信と可能性をもたらした

2018年2月。バレンタインデーに向けたスイーツ商戦に、Chocolate Branchは新しいパッケージで挑んだ。街にあふれる華やかな包装箱。その中でも商品の品質の高さが十分に伝わるパッケージだと自負があったと語る時本さん。さらに今回を機にウェブサイトもリニューアル。Chocolate Branchの世界観がいっぱいのサイトだ。

「今回のブランディングによって一つの道筋が生まれ、私たち造り手の現場にも商品にも、大きな自信と可能性をもたらしてくれました。これらの成果物と経験を活かして、さらに挑戦をしたいですね」

箱を一つ手に取って開くと、内側にコンセプトワード「喜びのお福分け」という言葉が。美しく並ぶチョコレートと洗練されたパッケージから、心艶めくひとときがあふれ出した。

プロジェクトメンバー

Chocolate Branch(チョコレート・ブランチ)

ショコラティエ
時本祐司氏

http://www.chocolate-branch.com/

村上紙器工業所

代表
村上誠氏

https://www.hakoya.biz/

DIVA Creative(ディーバ・クリエイティブ)

デザイナー
末川牧子氏

公開:2018年5月8日(火)
取材・文:岩村彩氏(株式会社ランデザイン

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。