自分から発信するものをつくっていきたい
岡田 ゆうや氏:カーソル

地下鉄中津駅から徒歩5分。小さなビルの一室は、いつも遅い時間まで明かりがついている。この場所に、関西の人気雑誌のデザインを量産するクリエイターが集結しています。集団名はカーソル。代表の岡田さんにお話をお聞きしました。

岡田氏

工業高校で機械の溶接やCADを学んだという岡田さん。「当時からイラストレーターになりたかったんです。高校を卒業して、会社に行きながら専門学校に通っていました」。

豊中にある印刷会社で、スーパーマーケットのチラシをつくる日々。「つくりたいものじゃなくて、専門学校の卒業半年前に辞めさせてもらいました。やってなかったことをやろうと思って洋服屋で働いたこともありました」。

専門学校を卒業する頃、バブルがはじけた就職難の真っ只中、なんとか印刷会社に就職することになる。「そこは大手家電メーカーの取扱説明書をつくるのが主な仕事で、それにまつわるいろんな仕事がやってきました。レトルトパッケージのデザインだったり、ありとあらゆるグラフィックデザインを経験させていただきました。そこでつちかったものが一番大きいですね」

クライアントと対峙する毎日がやってきた。そこで、会社としての自分を意識したという。「もうね、お前がする仕事やからお前が聞いてこいって言われるんです。そうすると、言いたいことを直接言われるじゃないですか、凹むことが多くて、いろいろ勉強させてもらいました」

結果を出せない自分が悔しかった。

「『もう一回つくってこい』と言われたときに、『なぜなんですか』ということを突っ込めなかったんです。そこのやりとりが自分の中でできていないことが悔しくて。結果を出せない自分に悔しかったんです。

先輩は一人おられたんですけど忙しい方だったので、自分で何もかも勉強させてもらいました。そうやって何でもやらせてくれる会社の方針が、僕を成長させてくれたんだと思います」

転機がおとずれる。

岡田氏

「26歳のときに結婚を決めたと同時に、『このままじゃいかんな』、やっぱり雑誌がしたいなと思ったんです。グラフィックデザイナーの黒田武志さんと知り合った年でもありました。

黒田さんに作品を見てもらいました。それから黒田さんといっしょに事務所をやっているみやあきさんがsalida関西版のADをやるときに、一緒にみやあきさんと仕事をやるようになって。3年間働いていた会社の社長が良い方で、辞めて4、5年の間、会社に机を貸してもらって、以前の仕事をやりつつ、フリーの仕事を自宅でやっていました。

なんとか食いつないでいって、ちょこちょこ黒田さんたちとお会いしていくうちに、関西で勢いのある若手クリエイターの輪が広がっていきました。そこで当時、世界一団の座長だったウォーリー木下さんにも出会いました」

憧れの仕事に携わることができた。

岡田氏

「やっぱりエルマガジンの仕事ができるようになったのがうれしかったですね。デザイナーとしてクレジットに表記されたときは飛び上がりたくなるぐらい喜びました。東京で活躍中のデザイナーさんにも、エルマガジンのデザインを楽しみにしていると聞いたときにもがんばった甲斐があったな、と心底思いました。特集記事をみやあきさんひとりじゃかかえきれなくなったと同時に、いっしょに事務所を立ち上げました。カーソルは6年目になります。名前ばかりの代表です。自分が中心になったときにどうなるんだろう、自信がない中でもやってみたいというのが一番でした。仕事をしつつ、事務所をつくっていかないといけないのがたいへんでした」

自分から発信するものをつくっていきたい

「イラストというものをどこか引っかかっていて、Tシャツ屋さんのキャラクターをつくっています。ほかにも絵本をつくろうかな、という構想があるんですけどもストーリーの部分はウォーリー木下さんにお願いしています。それで個展をしたことがないのでやってみようかなと思っています。

いつの間にかお金を気にしながら日々生きてきて、たまに挿絵を描いていたんでけども、やっぱり自信がなかったんです。最近になって自信なんか別にいらんのかな、やりたいもんやっていったほうが自分らしい、楽しいんじゃないかと思うんです。

Tシャツ

自分から発信するものをつくっていきたいなと思っています。仕事以外で広がってきていたのに、そういうことをおろそかに最近しているような気がしていて。年を追うごとに、そういうのって減っていくじゃないですか。

自分から動いていって楽しい場をつくっていけたらなと、今年の2008年8月にエジンバラに行って、なお強く思ったんです。ウォーリー木下さんを含めて、13人の音響、照明、役者など、その分野のエキスパートの人たちが集まって、一個の舞台をつくるというプロセスを、自分もスタッフとしてイチから見てきました。ほんとに楽しかったし、しんどかったし、発信しようというエネルギーを目の当たんです。そのときの達成感って、それってなんやろなーと思ったときに、自分の思っていることをカタチにして周りを巻き込んでいって結果を出すというプロセスが大事だなと思ったんです。

最も影響を受けているのはデザイナーの黒田さんです。直接の師匠じゃないんですけど、半年に一回は飲みに行かせてもらっていて、お会いする度に黒田さんは新しいことにチャレンジしているんですよね。その黒田さんを見てきたのに自分は何もしてなかった、と反省中です」。

カーソルの意味はランナー。クリエイターとしてずっと走り続けるための岡田さんの挑戦が、はじまりつつあるようです。

公開日:2008年11月04日(火)
取材・文:狩野哲也事務所 狩野 哲也氏
取材班: 真柴 マキ氏