人とは違った視点を大切に
次田 彰雄氏:つぎた事務所

次田氏
取材はメビック扇町にて。
「建物の中がこんな風になっているとは…
知りませんでした(笑)」

コピーライターの次田彰雄さんが、天神橋筋六丁目駅近くに移ってきたのは2008年9月。つい最近のことだ。自身の結婚をきっかけに、新しい住まいと仕事場を求めての移転。北区に集まるクリエイターのネットワークを求めてやってきたのかと思いきや、

「北区にやってきたのは、現在仕事をしているクライアントの近くだったから。こちらに来るまで、メビック扇町についても、この街のクリエイター活動についても知らなかったんですよ」

2003年に独立して以来、コピーライターとして独自の道を地道に歩んできた次田さんは、常にマイペース。そんな次田さんに現在にいたるまでの経緯と現在の仕事についてお話をうかがった。

かけ出しのころはコピーライター半分、営業半分。それが今、役立っています

次田さんがコピーライターの職業を知ったのは高校生の時。「コピーライター」という言葉の響きと、都会での学生生活に夢を抱き、高校卒業とともに三重県から大阪へ。ビジネスの専門学校でコピーライターになるために学んだ。

「大阪に出てきたかったんです。『都会での一人暮らし』に対する憧れですよね。大学受験に失敗し、高校卒業後の進路についてどうしようかと考えていたとき、学校案内の雑誌を見ていたら偶然、『コピーライター』という言葉を見つけたんです。ん? なんだかかっこいいぞって。地元の友人が大阪にあるビジネスの専門学校に行くと聞いて、だったら僕は同じところでコピーライターになる勉強をしようと…。ほとんど何も知らずに憧れだけでコピーライターをめざしたのですが、勉強しているうちにおもしろさに気づいたんです。真剣にコピーライターになりたいと思いました」

専門学校卒業と同時に大阪のデザイン事務所に就職。そこで多くを学んだという。

「就職したのはバブルの頃。コピーライターにしてもデザイナーにしても、即戦力が求められているという時代ではなかったんです。いい時代でしたよね。会社に育ててもらいました。仕事はコピーライターの仕事半分、営業の仕事半分という感じだったんですが、それが今になってよかったと思えます。取材から記事制作といったライティングのスキルから、値段交渉のような営業スキルまで身につけさせてもらったので…」

数多いクリエイターの中でも、クリエイティブの仕事だけに専念し、営業のような仕事はしたくないというタイプの人もいる。しかし次田さんはどうやら違うようだ。

「僕は基本的に自分の制作とその周辺のことで必要なことなら何でも経験しようと思っていました。そこで値段の交渉が必要ならしますし、人付き合い的な営業が必要ならします。フリーになって役に立っているのは、コピーライティングのスキルよりも、むしろそういう部分から学んだことかもしれません」

人とは違う視点から物ごとを見るんです

次田さんの現在の仕事は、定期刊行物からウェブサイト、リーフレットや雑誌広告のコピーワークなど、多岐にわたる。仕事の上では商品やサービスなどの伝えるべき内容を、「分かりやすく、正しく」伝わるようなコピーを作ることを常に心がけている。

「何だか偶然コピーライターになったような僕ですが、若いころは雰囲気を感じさせるような『かっこいいキャッチコピー』を書きたいと思っていました。広告賞に出ているような…。でも実際に経験してきた仕事は、ほとんどが『分かりやすさ』を求められるコピーだったんですね。以前はそんな仕事に不満を持っていたこともあるのですが、仕事を重ねるにつれて地味なコピーの中にも難しさや奥深さがあると気づきました。この仕事を長くやっていますが、毎回のように悩んだり考え込んだりしますよ。自分が納得できていないものを、人に見せたり活字にしたりはできませんから。今は自分に合った仕事をきちんとして、それに合った対価をいただくことが自分のコピーライターとしての役割だと思っています」

初対面とは思えないほど自然体で、ざっくばらんに語る次田さん。自身については、恥ずかしそうにしながらもこんな風に話してくれた。

「僕自身の性格? そうですね、何ごとも人とはちょっと違う視点から物を見ようとするところがあると思います。一つの物ごとについて、一般的にこんな風に言われているけど本当にそうなのかなと考えてみたり、人から言われたことをもう一度自分で考え直してみたり…。クリエイターとして、そういう部分は大切でしょうね。それが何らかの形で仕事に生きているのではないか、生かしたいなと考えています」

人や物ごとについて主観的・客観的な立場から文章を創り上げるコピーライターにとって、視点を変えて人や物を見ることができる力は大きな強みだろう。そんな次田さんがコピーライターになったのは、単なる『偶然』ではないはずだ。

取材風景
「取材することはあっても、取材されるのは初めて」と照れながら話す次田さん

求められる文章について、あらゆる側面から考えるのがプロの仕事

「文章って基本的に誰でも書けますよね。じゃあコピーライターって何してるのっていうと、素人が30分で書く文章を何時間もかけて書いている。全体の大きな流れから細かな言葉の選び方まで、読みやすく分かりやすく考えて書くのがまず仕事の基本です。その上で媒体の内容や規模、対象となる読み手に応じて文章を作る。同じ取材に行っても、媒体に応じてフォーカスする話題も考えなくてはいけません。あらゆる側面から文章について考えるのがプロの仕事です」

仕事の上では、考え込みすぎて思うように書き進めなかったり、書いてみてもちょっと違うと悩んだりすることもあるという。

「きちんと約束の納期を守って仕事を終える。そしてクライアントに喜んでいただく。どんな仕事も同じでしょうが、その達成感が一番の喜びですね。それから仕事の中で人の生き方や考え方に触れられること、これもコピーライターのおもしろさだと思っています。そこから学ぶことも多いですから」

結婚、事務所の移転。今までとは違った生活スタイルや、仕事のスタイルがはじまる次田さん。人生の一つの節目にあたっての抱負を聞いてみた。

「特に変わらないですよ。今まで通り、地道に誠実に仕事に取り組んでいくことです。でもせっかくこの北区に来たからには、他のクリエイターの方とコミュニケーションを図りながら、新たに仕事の幅を広げていきたいですね。いろんなジャンルの仕事をして、まだまだスキルアップしていきたいという気持ちは、いつでも変わらずあります」

取材風景
自身が手がけた仕事について語る。

公開日:2008年11月05日(水)
取材・文:株式会社ランデザイン 岩村 彩氏
取材班:株式会社ゼック・エンタープライズ  長尾 朋成氏