雑誌目線でのWebコンテンツ
木下 由紀彦氏:(株)フィーメール事業本部

木下氏

「コンテンツ作りを大切にしたい」というフィーメールの木下さんは、雑誌編集者として活躍されていました。その10年に及ぶ経験が今のサイト作りにも活かされ、見た目はもちろん中身にこだわったウェブサイトを手がけておられます。

発端は売り込みに来た営業マンとの出会い

大阪オフィス

東京に本社を置くフィーメールですが、中津にある大阪オフィスの1階はなぜか店舗仕様。2階、3階のオフィスも、デスクや書棚はすべて厨房の調理台です。コンピュータが載ってなければ飲食店の厨房と見まがいそうな設えで、ちょっと不思議なインテリアです。

木下氏

東西を往き来しながら大阪オフィスを統括する木下さんは、関西の某出版社で10年間、編集を手がけられていました。その後、新天地を求めて大手レジャー産業の会社へ転職。広報宣伝部に在籍し、前職で培った情報発信力でマスコミや媒体にアプローチしつつ、イベント企画なども手がけられていました。そんななか、のちに一緒に仕事をすることになる坂田さんが、人材派遣の営業にやってきたことで更なる転機が訪れます。

大手企業の社内ベンチャーに乗って

木下氏

現在フィーメールの社長を務める坂田さんは、木下さんと出会った当時、在籍していたパソナに社内ベンチャーとして女性向けサイトのビジネスモデルを提案中でした。その企画が通った2000年6月、パソナからの資本金3000万を元に、働く女性のためのサイト「Fe-MAIL」が立ち上がります。

一方、坂田さんと意気投合した木下さんは、職を辞してフィーメールに女性サイト「Fe-MAIL」の編集長として加わります。「社員第一号が僕でした」と、営業を担当する坂田さんはじめ派遣スタッフと4人で新規事業をスタート。以来、9年目の今では編集を中心に大阪で12人、Webメインの東京本社にはディレクターやプロデューサーら20人を抱えるまでになりました。

急成長したなりの悩みは…

事務所風景

ところが人数が増えると、4人でスタートした当時とは違ってきます。社員が10人を越えると就業規則を整備しなければならず、働く人の意識もルールに則った会社員的なものに変わり、「創業当時はみんながんばって当然、忙しければ徹夜も当然でしたが、人数が増えてくるとそんな暗黙の了解はなくなっていきますよね」。会社として入社してくる社員たちが増え、組織としてのあり方が問われるようになり、クリエイティブと会社運営の悩みを抱えることに。

「急に大きくなったのでいろいろ戸惑いました。スタッフが共通の意識を持つためには教育も必要です」。本来自分で作るのが好きという木下さん、事業本部長としての悩みもいろいろです。

カフェの経営に手を出し失敗!

オフィス1階入り口

創業5年目を迎えた2005年。ワコールやシャープといった関西の大手クライアントに恵まれ、事業が軌道に乗った頃「関西にいるなりの土着的なことがやりたい」と、温めていた夢を実行に移します。それは「クリエイターが集まり、コミュニケーションがとれるサロンを作る」というカフェ運営の夢でした。元はプレス工場だったという雑居ビルへオフィスを移し、その1階でカフェを始めます。

ところが、フィーメールには飲食店の経験やサービス業のノウハウはありません。日常のクリエイティブ業務との兼務は難しく、木下さんほか社員が調理や接客をするわけにもいかず、カフェ専門のスタッフを雇って「人任せ」の運営をはじめました。

しかし、そうなると当初描いていた「クリエイターが集うサロン」とはどんどん乖離し、人件費などカフェ運営のための経営の数字を追うように。ますます「これって、サロン?」な状態になり、やむなく2年で撤退。「もう、カフェはコリゴリです。本当に苦労の24ヶ月でした」と、それが今では物置状態の1階店舗仕様の理由なのでした。「カフェ経営に踏み込みすぎました。でもギャラリーやイベントは今後も仕掛けていきたいですね。」

思わず読んでしまう「雑誌のような」コンテンツ

雑誌

カフェの苦労を経験しつつも、フィーメールは本業では順風満帆に成長を続けています。システムやプログラム上では「ありえない経験も一通りしましたよ」と笑う木下さんですが、何より、形や仕組みがウリのウェブサイトとは違い、コンテンツである中身の濃さがフィーメールの特徴であり、強みです。木下さんをはじめ編集経験者らが旬の情報を集めて提供する、そんな、雑誌作りと変わらない、面白くて読み応えのあるサイト作りが受け入れられ、いろんな業種のWebコンテンツを手がけておられます。

木下さんは「インターネットは雑誌とテレビの中間のようなもの。Webをリアルなイベントにつなげたり、クリエイティブで企業のブランディングをお手伝いしていきたい」と、フィーメールがデジタルとアナログを融合させるキーになるヴィジョンを描いておられます。

公開日:2008年11月04日(火)
取材・文:真柴 マキ氏
取材班:廣瀬 圭治氏