旅や人の暮らしをテーマに「ずっと絵を描いて過ごせたらいいな」
日比野 尚子氏:オカダデザイン

クスッと笑ってしまうような親しみのあるイラスト。それでいてどことなく異国情緒漂うオシャレさもあって。本や雑誌の挿絵などで活躍するイラストレーターの日比野尚子氏。デザイナーとしてメビックで過ごした3年間、ひょんなことからメビック職員として働いた2年半。その後のイラストレーターとしての再スタート。これまでの全てを伺った。

広告デザイナーからイラストレーターへ転身

日比野氏

日比野氏は山口県で育った。絵を描くのが大好きで、布団の中にまで絵の具を持ち込み、寝具を水浸しにして親に怒られるような子ども時代。とは言え、「絵が好きで念願のイラストレーターに」というわけでなはく(小学校の卒業アルバムには確かにイラストレーターになりたいと書いてあったが記憶にない)、将来の仕事を意識しはじめた高校時代は「広告の企画をする人」になりたかったと言う。
「ある日、おもしろい新聞広告を見つけて。こんなの作る仕事がしたい、と父に言ったら、そりゃ広告屋だと言われて。新聞広告の企画をする人になろう、と決めたんです」。高校卒業後は地元山口を離れ、大阪の学校で広告デザインを学んだ。
広告プロダクションで約10年デザイナーとして働いた後、起業してメビック扇町に入所したのもデザイナーとしてだった。「メビック時代はとにかく働きました。毎日が本当に忙しくて」。しかし、約3年が経った頃、「やり尽した感」が彼女を襲う。「やるだけやって、立ち止まってしまったんです。そもそもなぜ自分が起業したかということを考えていました。クライアントとじっくり向き合って仕事がしたい、という想いで起業したのに、いつのまにかクライアントに合格点をもらうことが目標になっていた。せっかく起業したのに、結局、会社員時代と同じだったんです」。
日比野氏は、次のあてのないままメビックのスタッフに「デザイナーを休む」と宣言。「では、メビックの職員として働いては」と、図らずしてメビックで働くこととなった。「メビックの職員としての2年半は楽しかったですよ。その間に入所企業からイラストを頼まれたり、メビックが出す媒体に描いたりもしていました」。イラストなら自分がやりたいことに近づけるのではーーーーー。日比野氏は、イラストレーターとして再スタートを決めた。

難しいことも、楽しく分かりやすく伝えるイラスト

美術館のこども向けガイド

今年でイラストレーターとして独立して5年目になる。しゃべる家電、旅先で出会った雑貨…どんな無機質なモノでも、日比野氏の手にかかればたちまち人格がそなわってしまう。「難しい話しを分かりやすく、身近に感じられるように」、というときに登場することもしばしば。「子ども向けのイラストを描くことも多いですが、最近では難しい内容の本を一般の人に親しみやすくするための挿絵や、家電のことを女性に伝えるためのイラストなどという仕事も多いですね」。
今手掛けている仕事の代表作は、「美術館のこども向けガイド」。子どもたちが美術に親しみ、作品と仲良くなるためのツールだ。「もともと、文化や風習、暮らしなど人が創り出すものに興味があるので自分にとっても興味深い仕事です。敷居が高いと思われがちな美術を子どもたちに身近に感じて楽しんでもらえれば」。

夢は、離島のガイドブックを作る仕事

「離島が好き」と言う。「これまでも口に出したら実現することが多かったので言いますが」と前置きをした上で、「島を巡ってイラストで紹介するガイドブックを作るのが夢」と語ってくれた。
日本の島は2000から3000もあるそうだ。島の本を見て想像を巡らすのが好き。寝る前のベッドの中で、地図を見ながら頭の中で旅のルートを考える。そんな時間がたまらない。実際に、瀬戸内海の島や礼文島などを訪れ、自分で島ガイドを作り、知り合いのカフェで発表したりすることも。「子どもの頃、よく家族で山口県の角島に行っていたんです。小さな島で‘海がしけたら帰れない’とか、ドキドキワクワクの体験。そんな幼少時代の記憶が島を求めているのかも」。

もっと上手になりたい。ずっと描き続けたい

「仕事の報酬が仕事」という考えで仕事をしているという。イラストレーターは山ほどいるのに自分に仕事を頼んでくれる。その期待に応えたい。もっと上手になりたい、と思う。最近、版画を習っている。「自分の絵が版画っぽいと言われることが多いので、本当の版画を学んでみようと。イラストに活かせればと思っています」。
最後に、将来の夢を伺うと「いつまでも絵を描き続けることができたらいいな」と日比野氏。「いっぱい絵を描いて、みんなに‘見たよ’って言われたい。できれば興味のある分野、島や地域、人をテーマに描けたらうれしいですね」。

作品
撮影:辻村耕司

公開日:2012年07月31日(火)
取材・文:わかはら 真理子氏