国境をも越えて、あらゆる空間に価値をーー
杉山 貴伸氏:(株)ライフサイズ


杉山氏(左)と南氏(右)

大阪の中心を流れる大川を望むビルの9階にある、モノトーンでまとめられたワンフロアのスタイリッシュな空間。ウッドデッキが敷かれたナチュラルな打ち合わせスペースの窓からは、おおらかな川の流れと公園の緑が見下ろせ、都会の喧噪から離れた心地よい時間が流れる。
株式会社ライフサイズの杉山貴伸氏は、独立したての27歳からの2年半をメビック扇町で過ごし、現在では海外進出を果たすまでに会社を成長させた。その道のりとこれからを、代表取締役の杉山貴伸氏と取締役で一級建築士の南啓史氏に伺った。

「あらゆる空間に価値を」をコンセプトに展開

株式会社ライフサイズは、大学院の同級生である杉山貴伸氏と南啓史氏を中心とした一級建築士事務所だ。「あらゆる空間に価値を」をコンセプトに、住空間、商空間、オフィス空間、展示会などのプロデュースから、ブランディング、プロダクトデザイン、パース制作まで幅広く手掛ける。
「創業時から、住宅、オフィスなどの垣根をなくして、空間全般をやって行こうと決めていました。今の時代、働き方ひとつをとっても自宅兼オフィスの‘SOHO’やカフェや公園など仕事をする場所を問わない‘ノマド’など、空間の使われ方はどんどん多様化しています。自宅がオフィスになったり、都会のカフェがオフィスになったり。そんな時代に合った空間デザインを提案するには、あらゆる空間全般を熟知している必要があったんです」。
コンセプトを実現するために、さまざまな分野の仕事を積極的に手掛けてきた。実績が増えるにつれ、クライアントへの提案もしやすく、説得力も増しているという。「年々、創業当初のコンセプトが実現していっているという感じです」。

大学院の仲間がキャリアを積んでメビックで合流

杉山氏と南氏は、すでに大学院時代から起業を意識していた。「将来は仲間数人で事業をしたいと夢を語り合っていました」。「起業するためには、まずはきちんとした会社組織でキャリアを積む必要がある」と、多くの同級生が芸術的な仕事を求めてアトリエ系設計事務所などに就職する中、あえて組織設計事務所へ就職。それぞれが組織の中で大規模なプロジェクトを経験するなどキャリアを積み、一足先に杉山氏が独立、「ライフサイズ総合計画事務所」を設立した。
「起業当時、まだ会社勤めをしていた南と一緒によくどうやったら事業を成り立たせることができるか、お酒を飲みながら‘机上の空論の会’をしていたのを思い出します。そこで出たアイデアを僕が実行するんですが、まぁ、大概失敗するんです。それでも楽しかったですね。27、8歳のスーパー貧乏な時代の話しです」。

メビックで学んだ広告的視点が強みに

その2年後、約束通り南氏が合流して、「株式会社ライフサイズ」として動き始める。
当時、メビック扇町に入所している建築事務所は珍しく、周りには広告関係のクリエイターばかり。株式会社ライフサイズの広告的視点から空間を考える仕事の仕方は、メビック時代に学んだものだ。
「僕たちの仕事は、まず徹底したヒアリングで顧客ニーズを聞き出すことから始まります。例えば展示会なら、ブランドイメージを上げたい、商品をアピールしたい、さらには商品をその場で売ってしまいたいなど、クライアントが私たちに仕事を頼むには、必ずゴール(目的)があります。だから、まずクライアントのニーズを聞き出す事が使命。それをわかりやすく翻訳し、どう空間で表現するか。空間デザインは、その目的達成のための手段なんです」と南氏。
「建築業界にどっぷりいたら、このような考え方は生まれなかったかもしれない」という。広告的視点からの空間プロデュースは、今の株式会社ライフサイズの強みになっている。

設計図面は国を越え、海外進出も実現

海外での仕事をきっかけに、ベトナムに拠点を作った。
「大手ハウスメーカーのプロジェクトを手掛けたとき、今、アジアはものすごいスピードで成長しているんだということを知りました。大手も中小もごちゃまぜで戦っている。そんな世界で自分もやってみたいと、ホーチミンに拠点を置き、ベトナムはもちろん、中国などアジア全域から仕事を受ける足がかりを作りました」。
すでに昨年、ベトナムの幼稚園「リトルキャット」のプロデュースを手掛けた。空間デザインに留まらず、幼稚園のコンセプトから仕組み作りまで提案。「日本の幼稚園の先生や、栄養士さんなどに取材をして、日本の幼稚園の教育をもとに、給食室の衛生面や栄養、制服まで提案しました。とても喜んでもらえ、現地のマスコミに‘ライフサイズは日本で最も幼稚園施設を作るにふさわしい会社である’と紹介されていたときはびっくりしましたが、嬉しかったですね」。
そこで感じたのは、「日本の高度な技術だけでなく、成熟された教育システムや文化もアジアで求められている」ということと、自分たちがこれに応えられるという確かな手ごたえ。「日本のノウハウをアジアは求めているんだと思います。僕たちは、先輩達が日本でしてきたような華やかな仕事をアジアでしていけるのでは、と考えています。今後は、海外から日本を支える時代なのかも知れません」。


ベトナムの幼稚園「リトルキャット」の企画書。
教育からシステムまでの提案が大成功を収め、社員全員で現地に招待された。

クリエイターが集まるシェアオフィスを開設

クライアントに対してさまざまな空間提案を行う中で、「自社としても空間提案をしていきたい」と、「シェアオフィスROOM1002」を開設。商品企画・プランニング、編集・制作・デザイナー・ライター・プログラマ等といった、クリエイター専用のシェアオフィスだ。
ここには、「‘働く空間’以上の価値がある」と杉山氏。「事務所を持つ際の初期投資が少ない、スキャナーやプリンター等の備品がそろっているなど物理的なメリットはもちろんですが、入居者がクリエイターに限られるため、入居者同士で情報交換できたり、仕事のコラボなども発生しやすい。どんなクリエイティブにも対応できるような空間になれば面白いですね」。

第一印象はイマドキの草食系男子だが、話しを聞けば聞くほど肉食系。頭の中で考えていることを精力的に実現させて行く杉山氏。これからの抱負を聞いてみた。
「いろいろやっているように見えて、自分の中はまだまだ。27歳で独立したときに、20年と期限を決めたんです。となると、あと13年しかない。だから正直、焦ってます。47歳までには、日本が世界に誇れるような組織を作りたい。それができたら、ゆっくり世界の遺跡をめぐって暮らしたいですね」。


「シェアオフィスROOM1002」は、フォトスタジオも備えたクリエイター専用のオフィス。開放的なカフェのような空間だ。

公開日:2012年07月31日(火)
取材・文:わかはら 真理子氏