グラフィックデザインを中心に多ジャンルのコラボ事業も積極展開
高山 理氏:(有)TTDESIGN

TTDESIGNロゴ

大阪市北区黒崎町。JRの高架沿い、路面1階に事務所を構える(有)TTDESIGN。入り口全てがガラス張りになっており、一見するとショップかカフェかと見紛うようなオシャレなオフィスだ。グラフィックデザインを中心に、ブランディングやイベント企画、異業種とのコラボ事業など、幅広い活動を展開している。2005年にメビック扇町のインキュベーションオフィスに入所以来、飛躍的な発展を遂げた成長企業に、これまでの軌跡と成功の秘訣をおうかがいした。

メビック扇町に入所して、人生が変わった

「今だから言いますけど、メビック扇町に入所する前は、デザインという仕事を辞めようかなとも思っていたんです」と、飄々と語り始める高山さん。社員9名を擁するデザイン会社社長という現状とは、とても結びつかない言葉だ。
「数社のデザイン会社勤務を経て個人事業として独立しましたが、事務所と家を往復して、ひたすら仕事に追われる毎日。仕事先で会う人以外とは誰ともしゃべらない。閉鎖的な環境でこの先、仕事として続けていけるのだろうかと限界を感じていました」

2005年11月、メビック扇町のインキュベーションオフィスへ入居。これが転機となった。
「他の入所企業さんのお話を聞いて『すごい人がいっぱいいる!』と衝撃を受けました。それからは、メビック扇町の内外関わらず、様々な人と積極的に交流して人脈を広げていきました」
おのずと仕事も順調に増えていく流れの中で、2006年4月に有限会社として法人を設立。
「きっかけは有限会社法の廃止。今後は有限会社をつくれなくなる。ということは後々、有限会社というだけである程度の歴史を感じてもらえるんじゃないかという狙いがありました。ギリギリのすべり込みでちょっと無理をしましたが、この時に法人化することが今の会社組織につながったと思います」

メビック扇町に入る前と後では、どんなことが変わったのだろうか。
「個人で入所して卒業時には法人になっていたこともあり、事業を続けていくこと、会社経営という意識を持つようになったのが大きな変化ですね。メビック扇町に入るまでは正直そこまで考えてなかった。教えてくれる人もいなかったですし、周りの環境もずいぶん違いましたから」

現在の高山さんは、経営者とクリエイターの2足のわらじを絶妙のバランスで履きこなしているように見える。
「経営者とクリエイターの両立は難しい。どっちかに集中しないといけないと言われることもありますが…。そういう人もいるし、そうじゃない人もいる、人それぞれなんじゃないかと。私はどちらかというと、経営戦略などを考えることは嫌いではないので経営者向きかも知れませんね。ですがデザインの仕事は今でもガッチリしています。案外両立できるんじゃないかと」

新規事業を立ち上げ、会社の規模も拡大


レイアウトを一新した合併後のオフィス

メビック扇町では2年間を過ごし、2007年に卒業。北区同心町に事務所を構える。道行く人から中がのぞけるガラス張りの路面オフィスだ。これには強いこだわりがあったという。
「デザイン事務所が路面にある必要ないじゃないかってよく言われるんですけど、昔からの夢で。事務所の一角を、カフェやギャラリーにして人が集まるサロン的な場所にしたいっていうのがあったんですよ。そのつもりで路面物件を借りたんですけど、当初の予定より社員が増えることになって、そのスペースはなくなってしまいました。最終的にはそれでも手狭になったんで、さらに広い場所を探して、2011年3月に現在の北区黒崎町に移転してきました」

オフィスの移転とともに、新たな事業もスタートさせた。
「移転して間もなく、元の事務所があった場所に『Barうけてん』をオープンして夢を実現しました。残念ながら、店長を任せた知人と経営方針が合わなくなって今は休店していますが、場所はそのまま借り続けて復活の道を模索しています。先日、私が理事を務める『関西デジタルコンテンツ事業協同組合』の新会員歓迎会で店を使ったのですが、やっぱり楽しかったんですよね。必ず近いうちに再オープンさせたいと思っています」

2012年6月には、同業他社と合併し事業規模をさらに拡大、社員数もほぼ倍になった。
「うちのメイン事業と全く同ジャンルの競合他社さんだったんです。合併先の社長さんとは仕事でよく顔を合わせていて、飲みに行って情報交換をしたりしていたのですが、ある時、引退を念頭に事業継承を考えているというお話があって。一緒になれば固定費が半分にできますし、ジャンルが同じなので仕事の流れもスムーズにいけるだろうということで話がまとまりました。今のところ大きな混乱もないですし、うまくいっていると思います。またしても、当初の予定より社員が増えることになってスペースがなくなりかけていることをのぞけば…」

この合併、クライアント側からも好意的に受け止められているという。
「うちは、デザイン力は高いが、オペレーション的な分量がなかなかこなせなかった。合併先は、オペレーションがすごく得意で、正確で量もこなせる。お互いに持っていた真逆の強みを融合することができたので、今後はより盤石の体制で信頼感をアップしていけると思います」

人との交流から、新しい仕事を生み出す

高山さんの幅広い人脈を元に、さまざまな業種とのコラボレーションを積極的に仕掛けていくのもTTDESIGNの得意とするところ。美しい蝶の標本とTTDESIGNで役員も務めるイラストレーター『ツボタユキコ』のモードなイラストを組み合わせたインテリアアート『Collection B』や、アナログな活版印刷技術をデジタルなWebサイトで販売する『活版名刺ドットコム』など、その事例は多岐にわたる。
「こういったプロジェクトで大切なのは、常に主体性を持って参加すること。いっちょかみで、『こんなイベントやりました』というだけでは、ダメ。そこで終わってしまう。最近は、信頼をおける限られたメンバーと、商いとしてしっかりと成り立つことを意識して取り組むようにしています。そして、そのプロ集団の一員に自分がなっているという今の状況を誇らしく思っています」


「チョウとイラストの新しいカタチ」を提案する『Collection B』の作品

シンプルな信念と、未来への想い

メイン事業を着実に拡大させつつ、多方面な展開も充実させているTTDESIGN。成功の秘訣はどこにあるのだろうか。
「仕事が来たら断らない。基本的にはどんな仕事でも請ける。そして、相手の期待値を超えるものを仕上げる。それをずっと続けて来ただけです。言われたことをやるだけの仕事では他と替わりがききますが、それ以上のことを返してあげると、うちにしかできない仕事になる。そのために必要となるのが、『相手が何を欲しているのかを素早く正確に汲み取る力』だと思います。それができれば、ゴールに向かって最短距離を最小の労力で進むことができ、回り道で使わなかった分の労力で付加価値の高い仕事をすることができるはずだと信じています」

最後に、TTDESIGNの未来についておうかがいした。
「いい会社にして、いい人材が長く働けるようにしたいですね。この業界って、いわゆる3Kというか、基本的に待遇が悪いじゃないですか。そこをなんとかしたいなと思っています。一例として、今回の合併です。合併する事で家賃や光熱費などの固定費を抑え、利益をスタッフに還元する。また、人材が増えることで負担を分散させ残業を減らす。それでスタッフに満足してもらって、いい仕事をしてもらう。そんないい環境ができるのが理想です。そういう風に考えられるようになったのが私自身の一番の成長かもしれませんね」

公開日:2012年07月31日(火)
取材・文:C.W.S 清家 麻衣子氏