ふざけたことを大真面目に考える。
花岡 洋一氏・山根 淳氏:(株)人間

この業界、変わった社名がけっこうありますが、この「株式会社人間」にはびっくり。そりゃ確かに人---間なんだろうけれど…事務所で電話を受けたとき「はい人間です!」って出るのだろうか?なんていらんことまで考えてしまう社名だ(笑)。
その活動もまた規格外れ!ネットで空前絶後、抱腹絶倒のボケコンテンツを次々に発表し、リクルート主催の「1-Click Award」で最優秀賞、アートイベントでは大阪芸術大学賞、Lマガジン賞をダブル受賞。クリエイターというよりアートユニットなのかな?とも思いながら、京町堀のオフィスをお訪ねした。

花岡氏

山根氏

「株式会社人間」はWEB制作会社!

株式会社人間は2010年11月に設立された本当の「株式会社」。事業内容は「自社サービス運営、Webサイト・アプリの企画、制作、プロモーション全般」となっている。ここだけ見れば普通のWEB制作会社。しかしオフィスには、電子ドラムや道路工事の柵などが置かれ、椅子もひとつひとつ形がちがうこだわりよう。会社というよりまるでアーティストのアトリエみたい(もちろんデスクもPCもちゃんとある)。代表取締役の花岡洋一さんと山根淳さんは、元もと別々のWEB制作会社で仕事をしながら、土日を利用してお二人でアート活動をしていたという。

「合体アート コンゴウ君」でダブル受賞!

お二人の「(アートユニット)人間」としての活動歴は10年以上になるという。たとえば関西最大のアートイベント「アートストリーム2007」に出展した「合体アート コンゴウ君」。出展者にはブーステントがわりふられ、ほとんどの作家さんはそこに絵を持ってきて掛けていた。しかしお二人は、そんなフォーマットにはとらわれない。
「ブーステントそのものをロボットの頭にしたんです。そして左右の目から「ゴミ」を入れると、それが合体してアート作品になって口から出てくる、というパフォーマンスをやりました」。なるほど、ゴミを合体させるロボットだから「コンゴウ(混合)君」というわけだ。しかしその実態は「ぼくたちがブーステントの中に入って、ゴミ同士を手作業で接着し、塗装して口から出している、というわけで、横に大きな窓を作って、中の様子も見せたんです」。この作品は「大阪芸術大学賞」と「Lマガジン賞」をダブル受賞!


合体アート コンゴウくん

呆れるほど手間がかかったコノハナクエスト


コノハナクエスト

もうひとつお二人の作品をご紹介しよう。2008年の体感型インタラクティブ作品「コノハナクエスト」。「此花区の民家の内部に、初期のドラクエみたいなドット絵の部屋を作ったんです。壁面にドラクエの画面が映し出されていて、お客さんが入ってくると、画面にもキャラが登場し、お客さんの動作をトレースします」そ、それってどんな意味があるの?「つまり人間の動作をドラクエで記録する、ということで」。「ドラクエで記録する???」なんだか聞けば聞くほど頭が混乱する。
この作品の設営と運営は大変だった。「民家の内装を傷めないように、内部に壁を作り直したんですよ。そこにA3でカラープリントしたドット絵を、ずーっと並べて貼って…」どうしてA3?普通は大判出力とかしませんか?「予算がなかったからですよ!A3のプリンターしか使えなかったから、何百枚を貼り合わせたんです」お客さんの動きもセンサーではなく、隠しカメラで人間が見て、PCのキーボードでキャラを操作したそうだ。

奇想天外なWEBサービスを次々にリリース!

さらにWEBサービスでも「人間」の快進撃は続く。
鼻毛が出ていることを相手にさりげなく知らせる「鼻毛通知代理サービス チョロリ」は、株式会社ZIZOさんとの共同制作。面と向かって指摘しにくい「鼻毛」をメールで代行して通知してくれるサービスだが、リリース後数ヶ月で、指摘された「鼻毛」は何と13万本を超えた。
また「めざますテレビ」は「寝室をライブカメラで公開されている人」を起こすサービス。閲覧者がサイトでクリックすると、「めざます」希望者の携帯が鳴り、目が覚める、起こされてしまうというしくみ。起こす側にはいたずら的な楽しみを与えつつ、起こされる側も助かる、という不思議なサービスだ。
さらには企業とのコラボレーションもある。大阪の家具製作メーカー、RootsFactoryさんと共同開発した「スイス」は、驚くなかれ、「ス」の形をした「イス」である。着想はただの駄洒落にしか思えないが、現物を見せていただくと、おかしな説得力があり、何だか欲しくなってしまうから困ったものだ。

ふざけたことを大真面目にやる!

お二人の活動のモットーは「ふざけたことを大真面目にやる」。そのためならどんな手間暇も厭わない、というところにあるようだ。そして多くの作家やクリエーターがある種のフォーマットに収まって思考停止するところを、枠そのものを根本的に疑うところからスタートする。
「たとえばどうしてデザイナーもイラストレーターも、みんな揃いも揃って、ポストカードを作るんだろう?と思います。あの四角い中に絵を入れたら、何か出来たような気になってしまう。それは思考停止だと思うんです」確かにその通りだと思います!
「だから僕らは根本的に違うことがしたい」
「ぼくらのモットーは、反則勝ち(笑)。まともにやっても勝てないから、アーティストにも商業デザイナーにも勝てないから、コンプレックスの裏返しの部分もありますね」と謙遜されるが、そのアヴァンギャルドな姿勢は評価されるべきだろう。ご本人たちには不本意かも知れないが、聞けば聞くほどお二人は表現者として「何ともまともで真面目な人たちだなあ」としか思えない。

アートユニットから株式会社へ

しかし…アート活動なら、そのままの形で継続しても良かったのでは?
「制作会社にした方が、活動が広がるじゃないですか。別に本業があって、余暇でやるよりも、もっともっと時間とお金を使えると思うんです」「企業とタイアップして、もっと大がかりに、真面目にふざけたことをしたいんです」
というわけで「WEB制作会社」を設立。社名もやっぱり「人間」。いったいどんな仕事をしておられるのか?「普通の企業様からホームページ制作や、WEBキャンペーンの制作、といったまともなご依頼を頂きますよ」「二人とも元もとWEBが得意だから、普通に制作しています」しかしこれまでの実績から、変わったものを期待されることも多いのでは?「そうですね。でもまずは真面目な実績を見せてから、こんなのもできますよとメチャクチャな作品を見せるんです」先に信頼を勝ち取ってから、面白い方に持っていく、「人間」ならではの戦略があるようだ。

変なことを考える頭を維持する

さてここで私がちょっと個人的に聞きたかった質問を。企画とは「変なことを考える」のが基本ではないかと思う。言い換えれば常識や先入観や前例にとらわれずに、思考の柔軟性を維持しないといけない、これはけっこう難しいのでは?「それはそうです。だから常にネットなどから情報をとり続けること、展覧会とか、こまめに行くこと。いつも面白いものはないか、探し続けています」「あとはひたすらミーティングですね」山根さんの方はお酒が大好きというが「ミーティングのときは一滴も飲みません」。お酒を飲んでの与太話、ではなく、あくまで真面目にストイックに「ふざけたこと」を追求している。

メッセージは「ポストカードやめろ!」(できれば)

花岡氏と山根氏

最後に読者の皆さんに何かメッセージは?とお尋ねすると「まずはポストカードやめろ!」とあくまでストロングな回答(笑)。そのこだわりは立派です。すべての前提を疑うところから、クリエイティブがはじまるのだから。
次に一転して「我々に予算を!」と切々とアピール。会社として儲けたいというよりも、予算があればもっと型破りなことができるからと。「不安定を承知で独立・起業したわけですから、だからこそ面白いことをやらなきゃ意味がありません」と口を揃える。
そして「WEBの制作が多いわけですが、リアルなものにも強く惹かれます」元もとアートユニットとして数々のインスタレーションをやってきたお二人なだけに、今後はWEBの範疇を超えた、奇想天外な都市空間の仕掛けづくりやキャンペーン展開など、さまざまな可能性が開けているように感じられた。

公開日:2011年08月04日(木)
取材・文:上間企画制作室 上間 明彦氏
取材班:株式会社明成孝橋美術 孝橋 悦達氏、株式会社キョウツウデザイン 堀 智久氏