人との関わり方ってすごく重大ですよね。
チャンキー松本氏:青空亭

イラストの制作だけにとどまらず、作詞作曲ボーカル、舞台上でのパフォーマンスなど活動の幅が広がり続けるチャンキー松本さん。

「香川で過ごした幼稚園の頃のことがうっすらと記憶に残っているんですが、先生か誰かの似顔絵を描いて、友だちたちがそれを描く様子を見守っているんですよ。それが絵を描くことで誰かに喜んでもらうことの原点じゃないかな」。

イラストレーターになるべく、関西にやってきたチャンキーさんが歩んだ道とは?

チャンキー松本氏

「面白いんだけど」と断られる日々だった。

高校、専門学校とデザインを学び、卒業後、大阪のゲーム会社に就職。「カラオケに行ったりして、遊んでばかりいましたね」。

同僚は面白い人たちばかりだったが、ゲームには関心がなかった。次の勤め先はデザイン事務所。デザインのバイトしながら四畳半の家でコツコツと絵を描いていた。「何かの本で読んだんです。成功するなら1日3時間は打ち込まないといけない。それを鵜呑みにしていました(笑)」。

チャンキー松本氏

その頃、奥様のいぬんこさんに出会うことになる。「当時、彼女はすでにイラストレーターとして活躍していました。彼女について行ってお仕事をいただくこともありましたね(笑)。いろいろな会社に営業に行ったのですが、『うーん、なんか使いにくいなあ』という反応。それはそうでしょうね。自分の描きたいものばっかり持っていきましたもん」。

そうこうする中、1つだけ手応えのある場所があった。それがマンスリーよしもと。吉本興業の芸人さんたちが多数登場する雑誌だ。「2、3年、表紙を担当させていただきました。それもありがたかったですね。ちょっとは食べるようになったのは30ぐらいからですね。その頃からやっと仕事が入るようになったかな」。

29歳で、いぬんこさんと結婚。ふたりで青空亭という屋号をつくった。

パフォーマンスが営業活動につながった。

奥さんの影響で歌う活動をはじめた。

「昔のカラオケが好きだったんです。今みたいにボックスでボタンを押したら自動的に曲が流れるタイプではなくて、番号をお知らせして、まったく知らない人の前で歌うタイプ。人前で歌うことが好きやったんですよ。チョケていろんなことをするのが好きなんです。お客さんの反応がダイレクトでしょう? 絵よりも早いですよね(笑)。とにかく何かしないといけないし、結果を出さないといけない。その反射神経を問われる感じはイラストの仕事ではなかなかできないから緊張するけど面白いな、と思ったんです」。

舞台に立つたびに新しいつながりができてきた。音楽のつながりではバンド、モダンチョキチョキズの歌詞を描いたり、33というユニットを組んでCDを発売したり。面白がる人が増えだした。
「扇町ミュージアムスクエアとか舞台があったのが大きかったですね」。何かしてくれる人、という役割をチャンキーさんは求められるようになった。ラジオやテレビにも出演するようになった。30歳ぐらいから展覧会を毎年のように開催した。

自分の活動に関する告知は、一軒一軒街のショップを廻って自分の手でチラシを置いてもらうことにこだわっている。何より人と話をするのが好きなのだ。

取材風景

勢力的に活動しながらも、絵に関しては考えるところがあった。
「創作する力は自分で耕して掘り起こしていかなあかん。30代後半から40歳になる手前まで追求したんです。自分の感情をコントロールできなくなる状態があるんですよ。そういう状態に行ってしまうの危険やなと思いました。シュタイナー(ドイツの教育思想家)を勉強している人に出会い、その後、僕は植物に出会うんですけど、それでテーマをぐるっとかえて、見えるものを描こうと思ったんです。内ばかりに向かうのではなく、外とのバランスをとろうとしたんです。そういうことをやらなあかん人間なんでしょうね。自分が考えていることよりも、人の話を聞くほうが豊かになれると思うんです」。そういうチャンキーさんは話しながらも何やらメモをしている。あとで日記にまとめるのだそうだ。

ひとつの道具との出会い。

30代後半からは、ひとつのはさみに出会ったことで似顔絵切り絵をはじめた。

「試しに奥さんの顔の輪郭を切ってみたら似てたんです。それでいろんな舞台でパフォーマンスしました。やっぱり何度もやると完成度があがるんですよね」。

仕事道具

1日に40人ものお客さんの似顔絵を切る。年配の方からは「遺影にしたい」と言われた。お子さん連れのお母さんからは姉にそっくりだと、ぽろぽろ涙を流された。人と3分間向き合うこと、その時間に大きな意味があるとチャンキーさんは語る。

「人との関わり方ってすごく重大じゃないですかね。クリエイトしている人に大事なんじゃないかな。今しかできないこと、この時間だからこそできること。そういうものを僕らは求めているでしょうね」。

みんなと芸で、関わりたい。

「ライブしたり、絵を描いたり、僕はみんなと芸で関わっているんです。完成を目指さない考え方なんだと思います。中華料理じゃないですけど、みんなでいっぱいの種類を食べてる感じ。隙間があるってことですかね。隙間やユルさが人の心を癒したりするわけじゃないですか。クリエイターってそういう隙間の散らばったところで耕したり、面白いところを見つけていったりする感じじゃないですかね」。

チャンキー松本氏

最近は森林や田植えなど、自然に関心がある。

「僕は終わりそうで終わらない感じの場所と呼んでいるんです。田舎でも商店街でも、もう終わるんちゃうかな、という場所を見つけてきて、そこをどうすれば面白くなるのか。すぐに結果が出ないことにどう喜びを見つけていくのか。そういうことが僕らクリエイターの仕事じゃないのかな、と思うんですよ」。

公開日:2009年07月15日(水)
取材・文:狩野哲也事務所 狩野 哲也氏
取材班:つくり図案屋 藤井 保氏、株式会社ショートカプチーノ 中 直照氏