自立に向けた教育活動でクリエイティブな人に幸せを
クリエイティブサロン Vol.296 樫本祐輝氏

「クリエイター支援」という領域を開拓・牽引してきた、株式会社クリエイティブユニバース 代表取締役の樫本祐輝(カッシー)氏。同時にWebデザインや集客・PR、UI / UX、DX、コミュニティデザインなど、総合的なコンサルティングも提供してきた。そんな多岐にわたる活動のベースや「なぜ教育にこだわるのか」、そして思い描く未来について語った。

樫本祐輝氏

得意なことがなかった少年時代
PCと出会い、自分の武器にしようと決める

「どうやったら独立できるか?」「どうすれば次のステージに行けるのか?」。そんな悩みを抱えるクリエイターは多い。樫本祐輝氏は彼らの「駆け込み寺」として長年支援を続けてきた。いっぽうで最近の仕事として紹介されたように多方面での活躍から、「いったい何している人?」と思われているらしい。

そんな樫本氏の生い立ちから振り返る。生まれ育ったのは岡山県ののどかな地域。「家に帰ると知らない動物がいたなんてことは日常茶飯事」という環境で、幼少期は刺激に飢えていたとか。「ゲームや漫画が好きで運動や勉強は苦手、隅っこで絵を描くのが好きなタイプで自分には強みがないと感じていました」

高校進学を控えた頃、転機が訪れる。「音楽ゲームの『ダンス・ダンス・レボリューション』にドはまりし、ゲームをつくる人になりたい、そのためにプログラミングを学べる高校へ行きたいと考えるようになったんです」。実家には最新のPCがあったが、誰も使用せず埃を被っていた。これを使いこなせたら、「自分に強みがないこと」の克服につながると感じ、情報処理が学べる進路を選択。

そして高校時代にはIT才能が開花。「情報処理や簿記を学ぶうち、人生で初めて“勉強が楽しい!”と思えたんですね。独学でどんどん進めて検定も受けまくり、高3ではパソコン部の人より詳しい人になっていました」。とはいえ学校で習ったプログラミング言語はCOBOLという古いシステム作成用であり、情報もまだ少なかったのでゲームプログラマーへの道のりにはほど遠い状況だった。

「そんな時、パソコン雑誌の付録がきっかけでHTMLを知り、ペンタブで描いた絵と独学でつくったWebサイトで発信していました。それがクリエイターとしての第一歩ですね」。ここからWebデザインの道をめざして、大阪の専門学校へ進学する。

当時ハマっていたFlashを駆使した、専門学校時代の卒業制作作品。

21歳の独立から憧れのゲーム制作現場へ
マーケティング会社やNPOでの学びと、激動の20代

卒業後は当時ハマっていたFlashという技術を使いたくて制作会社へ就職するも、思っていた仕事ができず退社、しかも転職ではなく独立。それが21歳の春のこと。「高校の頃からフリーランスで在宅ワークが夢で。在籍時から外部の仕事もしていたから、いける気がしたんですよね。とにかく仕事は何でも受け、がむしゃらに働きました」。

そこに時代の追い風が吹く。樫本氏が得意とするFlashでWebサイトやゲームを制作したいという企業が増えたのだ。携帯電話用ゲームなどを制作し、ゲームプログラマーになる夢を叶え、さらに参加していたプロジェクトのゲーム会社にFlashの開発リーダーとして入社。一連の流れを経験するも、残念ながら会社が倒産してしまう。

また、iPhoneの台頭によりFlashは淘汰されつつあった。そこで「一度リセットしよう」と考え、マーケティング会社へ転職。ここで大きな数字が動く世界を知る。「クリエイターなら“いいものをつくって売れたい”という気持ちがありますが、この会社では顧客のニーズを考えた結果、売れるという方法論で成功している。自分のなかの“いいものをつくること”の定義を更新されました」

その後、かつて一緒に仕事をしたNPO法人HELLOlife(旧スマイルスタイル)で、ニートの就労支援事業にコーディネーターとして関わり、人と接する仕事を経験。世の中と一緒に創っていく、地域や社会と結びついたデザインの概念に触れていった。「このNPO法人でファシリテーションやワークショップ、イベントの運営経験を積めたことが、現在の『クリエイター祭り®︎』に繋がっています」

先のマーケティングの会社では、さまざまな数字や戦略を学んだ。ある時、それを実践すべくブログをはじめる。「その中の“フリーランス準備編”という記事がバズって。はてなブックマークの1位になり、数日で2万アクセスあったんです」。以来、相談が一気に増え、それならとフリーランスに向けたセミナーやイベントを企画・開催。3年ほどこうした活動が続く。「当時はこうしたセミナーは珍しかったので、東京から来られる方もいました」

「クリエイター祭り®︎」の記録写真
有名無名関係なく、フラットに発信できる場である「クリエイター祭り®︎」は、今年10周年を迎える。300名近いクリエイターが集結したことも。

転機となった「コミュニティ事業」
クリエイター支援のはじまり

その後、再びフリーランスとなり、Web系の仕事をこなしながら2012年から「クリエイティブな人に幸せを」を理念に活動をスタート。2013年にクリエイターの独立支援のための有料コミュニティ「招待制クリエイターギルド THE CREATIVE」を立ちあげ、以来10年以上続けている。

こちらでは経営戦略とデザイン思考を融合させ、それに自身の経験を加えて伝えていく。「クリエイターのコミュニティは数多あれど、一人ひとりの顔やスキルを把握し、30名以上のメンバーの統制を取ってまとめているのはうちの強みだと思っています」。

クリエイター支援にあたって心がけていることがある。「スキルを上げるのは当然。そのうえで各人の個性や世界観を引き出しつつ、交渉やプレゼンテーション、ファシリテーションに営業という部分の掛け算ができると、他の人にはない強みになると思うので、むしろそちらに力を入れて教えています。こうして多くのフリーターや未経験者を、クリエイターとして独り立ちするまで育成している。これは自慢していいのかなと」

2015年からはグループワークで経験値を積む機会も設けた。そこから生まれたのが「クリエイター祭り®︎」だ。「お酒が飲めず話すのも不得手だった僕は、従来の交流会が苦手でした。だから参加者同士がちゃんとつながれる、今までとは違った交流会を企画しました」

ここでは過去に参加した者が「一歩先行く先輩トーク」として登壇し、身近な悩みをいかに現状打破をしたかをスピーチする。また「Mac派 or Win派」「独立したい or チームで働きたい」といったアンケートをスマホで集計して、自分の立ち位置が分かるコーナーやジャンル別に相談会を用意するなど「この交流会に参加すれば、何かを持って帰れる」、そんなやさしい仕掛けが用意されている。

大阪うめきた「グラングリーン大阪」の文化装置「VS.(ヴイエス)」。開業前のティザーサイトから始まり、Webからチケットシステムまで施設のIT・DX全般を担う。

“IT ✕クリエイティブ✕コミュニティ”を強みに
よりクリエイティブな人が活躍できる社会へ

2017年には現在の会社を立ち上げ、「クリエイター支援」「UI / UXデザイン」「IT・DX顧問」の3つの軸で展開。自身が独立を支援したフリーランスとプロジェクトごとにチームを組んで活動する。「一見バラバラですが、ある時これらの事業は“未来を創る”ためにすべて必要なものだと気づきました。サービスを成功させるには多角的な視点で考慮する必要があります。“IT ✕クリエイティブ✕コミュニティ”この3つの掛け算を持つことが、今の僕の強みです」

「知らないはリスク」。これが活動の原点であり、教育に注力する理由だと語る。子どもの頃、『遊戯王』の大会に出場して地元で優勝するも、さらに上の大会では惨敗。「本来持てるはずのないカードを相手が出したんです。僕は知らなかったけど裏技として浸透してて。つまり情報ひとつで、それまでの努力が水の泡になった。これはクリエイターの世界でも言えること」。だから「教育を軽視するな」と心に刻み、情報発信を続けていく。

現在メインで動いているプロジェクトとして、安藤忠雄氏が設計監修した文化装置「VS.(ヴイエス)」をあげた。「僕は就職氷河期のすぐ後の世代で、まわりが公務員をめざすなかクリエイターになった。だから人生を懸けてやってきたけど、時代の変化からコミュニティの20代とは少し温度差がある。彼らにものをつくることの面白さや、頑張って昇りつめた先の景色を伝えていくのが今後の課題ですね」。そういう意味でも、何万人もがクリエイティブの面白さを目の当たりにできる「VS.(ヴイエス)」は、大きな刺激なるはずだという。

次なる展開として、「クリエイター祭り®︎」とは違ったセミナーやワークショップ型の交流会、あるいは関西のクリエイターやアーティストだけが使えるアプリの開発も進めている。「“クリエイティブな人に幸せを”という理念のもと、これからもクリエイティブなワクワクや、関わる人みんなが楽しめる取り組みを増やしていきたいと思っています」

イベント風景

イベント概要

人と企業の未来をデザインする! 教育から生まれるクリエイティブ
クリエイティブサロン Vol.296 樫本祐輝氏

21歳でWebデザイナーとして独立。Flashクリエイターとなり、その後ゲーム開発会社、マーケティング会社、就労支援のNPO法人などを渡り歩き、これらの経験を基に、大阪や東京でクリエイター向けの独立セミナーを開催し、有料コミュニティを立ち上げました。現在では、クリエイターが相談できる「駆け込み寺」として日々相談に応じ、クリエイターの自立に向けた教育活動を実施しています。一方で、企業とともに長期的な成長をめざし、Webデザインや集客・PR、UI / UX、DX、コミュニティデザインなど、総合的なクリエイティブコンサルティングを提供しています。また、コミュニティで育てたメンバーと共に、さらに次のステージへと挑戦し続けています。これまでの活動を通じて得た経験をありのままにお話ししたいと思います。

開催日:

樫本祐輝氏(かしもと ゆうき)

株式会社クリエイティブユニバース 代表取締役
事業戦略クリエイティブプロデューサー

1985年生まれ。岡山出身、高槻市在住。「クリエイティブな人に幸せを」を理念に2012年よりクリエイターの独立支援を始め、2017年に法人化。2013年からクリエイターの独立支援のための有料コミュニティ「招待制クリエイターギルド THE CREATIVE」、2015年から交流型イベント 「クリエイター祭り®︎」を主催。BtoBではグラングリーン大阪「VS.」のIT / DX担当、ふるさと納税xVTuber「まちスパチャ」開発。関西のさまざまな中小企業を次のステージに上げるためのIT / クリエイティブ顧問を務め、未来を創るステージアップ伴走支援を得意とする。

https://c-u.co.jp/

樫本祐輝氏

公開:
取材・文:町田佳子氏

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。