台湾のデザイナーが世界と取り組むサステナブルなものづくり
クリエイティブサロン Vol.281 韓世国(ランス・ハン)氏

台湾デザイン界を牽引するプロダクトデザイナーの韓世国(ランス・ハン)さんを迎えたクリエイティブサロンVol.281。世界中のクリエイターと協業し、日本とのつながりも深いランスさんだが、新型コロナウイルス感染症の影響で実に4年ぶりの来日となった。
今回のテーマは2017年からランスさんが世界中のデザイナーや企業、政府と共に取り組んでいるサステナブルなものづくり。
誰もが他人事ではない課題を、クリエイターの切り口で語る。

韓世国(ランス・ハン)氏

サステナブルなデザインとは何かを考える

大学を卒業後、グラフィックデザイナーとして就職したランスさん。その後、プロダクトに転向し、台北市でデザイン会社「DOT design」を設立した。現在は会社運営をしながら自身もデザイン業務を行うだけではなく、台湾工業デザイン協会の理事や台湾国際学生デザインコンペティションやゴールデンピン・デザイン賞を始めとするさまざまなコンペティションの審査員、さらに大学で教鞭をとるなど若手の育成・業界の発展に尽力している。

SDGsへの関心が高まり、持続可能な社会づくりが注目される昨今、ものづくりに携わるデザイナーとして今、ランスさんが取り組んでいるのは、サステナブルな製品開発とそのための国際的なネットワークの構築だ。

サロンではまず、サーキュラーエコノミーを推進する国際的な代表機関であるエレン・マッカーサー財団と米国のデザイン会社IDEOが共同で作成した「サーキュラーエコノミーを実践するためのデザイン・ガイドブック」を引用し、サステナブルデザインを考えるための6項目をランスさんが解説。

その項目とは、(1)脱物質化(2)リサイクルのための材料選定(3)製品のサービス化(4)リサイクルを考慮した設計(5)モジュール設計(6)製品寿命の延長。

「環境にやさしい製品とはなにかと考えた時、材料がまず思い浮かびますが、材料が一番大切なわけではありません。材料の他、流通、価格も考慮しなければなりませんが、重要なのは“デザインから考える”ということです」と、ランスさんは言う。

たとえば、一脚5キロの椅子だとすると、サステナブルの観点ではこれを4キロにすることから始まる。日本全国に5万脚流通していれば、それだけで5万キロの節約だ。「それを考えるのがデザイナーの仕事」であり、ランスさんのサステナブルデザインの根底になっている。

re-ing Tabouret cannelé
焼き菓子のカヌレを模したデザイン。回収した大型玩具、通常のリサイクル材料、海洋廃プラスチックを利用し、全体の50%がリサイクル材料で製造されているが、100%リサイクル可能。

企業、政府、消費者。それぞれの取り組み

台湾では「企業」「政府」「消費者」が一体となってサステナブルな社会づくりに取り組んでいる。政府と上場企業が率先してサステナブルな製品開発を行っており、同じ考えを持つデザイナーたちにとっての活躍の場にもなっている。サステナブル社会の形成における企業の役割は大きい。

またここ数年、台湾政府はサステナブルの観点から材料の選定や製造方法を採用することを推奨している。Dot Designは桃園市とコラボレーションで旧正月に33万個のランタンを製作し、70%の脱炭素に成功。「大都市である大阪もこのようなチャンスは多いはずなので、互いに事例を共有していきたい」と、ランスさん。

さらに台湾では一般の人々もサステナブルやエコへの関心が高く、一人ひとりができることに取り組んでいる。台湾のみならず世界中の国や企業、そして個人が参加し、SDGsに向けての動きは大きくなってきていることは誰もが感じているだろう。

しかし、その取り組みや製品が本当にサステナブルやエコなのかといった判断は難しい。例えば価格と利便性、どちらを優先することが正解なのか。企業や政府は消費者の認知や支持を得たいだけかもしれない。さまざまな考えがある中で、ランスさんは、あくまでデザインの観点からサステナブルを提唱する。なぜならデザインは良心や理想を伴う作業だから、だと。

ランスさんは国際的な連携の重要性も感じている。台湾は廃材をアップサイクルする技術が進んでおり、その技術でつくった製品を日本やアメリカに輸出している。例えば、台湾全土のNespressoの使用済みコーヒーカプセルはすべて桃園のリサイクル工場に送られ、アルミニウム製のカプセルとコーヒーかすは専用の機械で分離される。アルミニウムを溶かして再生されたアルミニウムインゴットは、他の商品へと生まれ変わり、精錬されたアルミニウムは日本でさらに加工され、最終的には他の地域に輸出されるケースも。そのようにそれぞれの国が技術を持ち寄り、連携して進めていくことが理想であり、そのためにランスさんは現在、国際的なデザイン・ネットワークを構築するべく奔走しているという。

「SR(サステナブル&リサイクル)プラットフォーム」スクリーンショット
持続可能かつ循環型の社会への認識を高める取り組み「SR(サステナブル&リサイクル)プラットフォーム

技術とアイデアから生まれたサステナブルでユニークな製品

ここで、ランスさんがこれまでに手がけたサステナブルデザインが紹介された。サステナブルデザインに小さい頃から触れられるように開発した竹材の子供用おもちゃや、台湾の玩具図書館で回収された廃棄玩具を再生した材料で作ったスツール、さらに日本のトヨタや台湾の台塑生医科技(フォルモサ・バイオメディカル・テクノロジー)を始め、大手企業とのコラボ製品がスライドに映し出される。それらの製品はヨーロッパの展示会で賞を受けるなど高く評価されたが、プロジェクトがいつも順調に進むわけではない。

世界各地にスーパーマーケットをチェーン展開するカルフールとのコラボで開発したサステナブルを前面に出したシャンプーボトルのデザインでは、見積もっていた市場価格の2/3の数字を提示された。「正直なところ、少しがっかりしました。サステナブルな商品は適正な価格で売るべきなんです」。最終的に、市場評価と調整を経て、カルフールはランスさんが望んでいた価格で販売することを決定、さらに消費者から高い評価を得て、売れ行きも良かったことから、その収益を元によりよい材料を使って研究機関と共に新製品を開発した。

チャイナエアライン サステナブルライフベストバッグ
救命胴衣のリサイクル素材を無駄にしないことがコンセプト。廃棄される救命胴衣を再利用して作った大容量でスタイリッシュな防水バッグ。

その他、SGSの認証を受け、冷蔵庫やレンジでも使用できる竹の繊維を使った食器やパイナップルの葉の繊維や天然繊維で作った100%再生原料のエコバッグなど、アイデアと技術、そして周りを巻き込んでいく行動力でランスさんはユニークな製品を次々と生み出している。

「今後も多くのコラボレーションを通してデザインの可能性を追求していきたい」と話すランスさん。最後に集まったクリエイターたちにサステナブルラベル認証の獲得方法をレクチャーし、サロンは閉幕。ものを生み出すクリエイターたちにとって、未来のものづくりの方向性を示すサロンとなった。

イベント風景

イベント概要

台湾のサステナブル / サーキュラー・デザインの歩みとこれから
クリエイティブサロン Vol.281 韓世国(ランス・ハン)氏

台湾のサステナブル / サーキュラー・デザインのこれまでの歩みをご紹介し、今後の国際協力のあり方をみなさんとともに探りたいと思います。

1、台湾のサステナブル / サーキュラー・デザインにおける點睛設計(Dot Design)の成長、特に大量生産の実現について
2、これまでに手掛けたプロジェクトの始まりからその後の影響まで
3、国際的なコラボレーションの現在の取り組みと今後の計画について
4、企業のサステナブルな取り組みを支援し、持続可能かつ循環型の社会への認識を高める取り組み「SR(サステナブル&リサイクル)プラットフォーム」の発展と、日本とのより緊密な協力関係をめざして
5、新素材の使用経験や応用技術について

開催日:

韓世国氏(ランス・ハン)

點睛設計有限公司(DOT Design Co.,Ltd.)CEO / デザインディレクター

2003年に點睛設計有限公司(DOT Design Co.,Ltd.)設立。2011年より、オリジナルブランド「DOT Design」を展開。2015年には、デザインラボを設立し、デザインの豊かさと面白さを伝えること、食やお茶など生活に身近なものとデザインとの融合を試み、デザインの無限の可能性に挑戦している。2019年以降は、リサイクル素材を用いた製品のデザインや持続可能なデザインに注力している。Golden Pin Design Award、RedDot Design Award、iF Design Awardなど受賞歴多数。
台湾工業デザイン協会(CIDA)理事

https://www.ddoott.com/

韓世国氏(ランス・ハン)

公開:
取材・文:和谷尚美氏(N.Plus

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。