目の前の挑戦に全力を出すために、進む道は自分で決める
クリエイティブサロン Vol.240 野中曉氏

「自分で決めたことをやりたいようにやる」のは簡単そうで難しく、貫くには強い意志が必要に思える。ところが、今回のクリエイティブサロンの株式会社WebisのWebエンジニア、野中曉(さとる)氏は楽観的に、ごく自然体のままでそれを貫いている。「良くも悪くも、自分で決めた道だから」と考えるに至ったきっかけや失敗談を、穏やかな口調で、しかし迷いのない明瞭なストーリーで語ってくれた。

 野中曉氏

野中氏が「休日に浮かない顔」をしている理由

「“休みが嬉しい”と思わないような仕事をする」というのが、野中氏のポリシー。そう考えるようになった最初のきっかけは、中学時代のクラブ活動だった。好きでバスケットボール部に入部するものの、部員数が多すぎてレギュラーに入れず、コートで練習するレギュラーメンバーを横目に筋トレやランニングをする日々だった。ある日、雨で部活が休みになり「よっしゃ、帰ってゲームしよう」と喜んでいると、レギュラーメンバーの友達がやってきて「練習できなくて最悪やな」と声をかけられた。ウキウキした気分は、一瞬で吹き飛んだという。「そりゃあ、練習がなくなって喜ぶヤツがスタメンに入れるわけない」。この時の気持ちが、「休みがなくてもいいくらいの仕事を選ぶ」という今のポリシーのベースを作った。

この出来事で自己肯定感が急降下。その後の学生生活は、野中氏いわく「無策」だった。高校時代は音大に進みたい、とピアノを習い始めるも半年で諦め、大学ではサークル活動に明け暮れて単位を十分に取れないまま、あっという間に4年間。4年生になって慌てて授業を詰め込んだために、就活ができずに就職浪人へ。それでも野中氏は「その時はあまり危機感がなくて、なんとかなるか、くらいの気持ちでした。バイトをして社会に出ている感を出しつつ、ダラダラとした生活を2年ほど続けていました」と楽観的だ。

プログラミングの楽しさに惹かれ、エンジニアの道へ

フリーター生活に終止符を打つきっかけとなったのが、「未経験者プログラマー募集」の求人広告。3カ月間の研修でC言語によるプログラミングを学んだ後、試験にパスすれば正社員として採用されるという好条件だった。野中氏は、「給料をもらいながら勉強ができてラッキー」という軽い気持ちで応募。そこで初めてプログラミングに触れ、一気にその楽しさに惹かれていく。

「当たり前ですが、僕が書いたコードを実行すると動く。そこに、嬉しいなあ、楽しいなあというポジティブな感情を抱きました。それに、プログラムのソースコードを見て『美しい』と感じたんです。この書き方はきれいとか、こっちのコードはイマイチとか。ソースコード自体が、一つの表現のように思えました」

プログラミングの書籍を買って、帰宅後も勉強。そんな生活を続けるうちに、コードを書くスピードも上がり、晴れて3カ月後には正社員として開発現場で働くことになった。

入社後は、機械を制御するプログラムの開発チームに派遣され、開発現場に関するさまざまな知識を学んだ。ただ、業務はオフィス系のソフトを使った資料作成がメインだったため、製品のソースコードを書く機会がほとんどないまま気づけば2年が経ち、ここで転職を決意。ゆくゆくは独立したいという気持ちがあったため、一人で1から10まで作れるWebプログラミングへと方針転換し、Web制作会社に転職することになった。

「アニソンカラオケバーせぶん」ウェブサイトキャプチャ
起業直後に制作。Webサイト以外にも名刺・チラシなど制作物をサポート。「アニソンカラオケバーせぶん

飲み会の勢いで独立し、3人体制でWebisを設立

Web制作会社では、デザインや画像の加工、ライティングと幅広い業務に携わった。この頃、デザインセンスに優れたデザイナーとやり手の営業マンに出会い、これが大きな転換点となる。3人で飲みに出かけては、冗談半分で「会社を辞めて独立しようぜ」と息巻くうちに、その勢いのまま独立を果たすことになったのだ。こうして、株式会社Webisを設立。「今まで会社で溜まっていた鬱憤を晴らし、やりたいことをやろう」と意気も盛んに、前職のノウハウを活かして、同業界をターゲットとしたWeb制作事業をスタートさせた。

ところが、売上が思うように上がらない。前職と商圏が重なっていたため、思いきった営業活動ができないこともその要因の一つだった。設立から約1年半、「これまでのノウハウを捨てて、別業界の案件を扱いたい」と考える野中氏と「同じ業界で引き続き頑張りたい」という2人とで意見が分かれ、とうとう袂を分かつことになった。

以降はしばらくの間、個人事業主や会社員としてWeb制作を行うことになるが、「自分の思うやり方で仕事をしたい」と思い立ち、2019年に株式会社Webisを再始動させる。

「株式会社にしたのは、個人事業主より重みがあると考えたから。自分はこの会社でやっていくぞ、というちょっとした決意表明です」

「酒楽 掬正」ウェブサイトキャプチャ
酒販売店のECサイトをリニューアル。「酒楽 掬正

周りに惑わされることなく、自分の声に率直に進む

野中氏は自身の半生を振り返り、「あまり計画性がなくて、なるようになるさ、と楽観的に生きてきました」と話す。と言っても、流れに身を任せてきたわけではない。行動の根本には必ず野中氏の「こうしたい」という気持ちがあり、その気持ちに従って進む道を選択し、目の前の挑戦に全力を出してきた。

ここで一つ、野中氏は面白いエピソードを紹介してくれた。「独立したら、会社員時代にやらされていた無駄なことは全部排除しようと決めていました。その象徴が朝礼。こういう文化が日本の生産性を下げていると思っていたんです」

独立後、朝イチからピシッと仕事をスタートさせていた野中氏だが、慣れていくうちに朝のモチベーションが安定しないことに気づく。そこで、仕事前にスティーブ・ジョブズの名スピーチ動画を観たり写経をしたりとさまざまなルーティンでモチベーションアップを試すものの、ピンと来ない。最終的に辿り着いたのが、「数値目標を読み上げる」という方法だった。皮肉なことに、朝礼そのものだ。

「会社員時代に朝礼の意味を説明されても、きっと腑に落ちなかったと思います。でも実際に目標を毎日自分の口で言って聞いていると頭に入ってくるんです。大したもんだと思いました(笑)」

やらされている時は無意味だった行為も、自分で納得して受け入れた途端、たちまち効果を発揮するものらしい。野中氏は「自分で決めるということが大事。これからも自分で良いと判断したことを頑張っていきます」と話す。

そんな野中氏が大切にしているのが、スティーブ・ジョブズのスピーチの一説。「自分の直感を信じる勇気を持つことだ。なぜなら、本当になりたいものはとうの昔にあなた自身が一番よく知っているのだから。それ以外は全て二の次でいい」

失敗談もたくさん話してくれたが、その全てを「いい経験でした」「反省しました」と素直に捉え、今を歩む野中氏。これからも自分自身の内側の声に耳を傾け、「良いも悪いも」前向きに受け入れながら最高の選択を重ねていくのだろう。

イベント風景

イベント概要

良くも悪くも「自分で決めたことだから」
クリエイティブサロン Vol.240 野中曉氏

振り返ってみると決して計画的とは言い難い今までの人生。元々プログラマーになろうと思っていなかったし、独立・起業も自分一人なら躊躇したと思います。なるようになるさと楽観的に生きてきた結果の現在ですが、そんな中で今一番大切だと感じていることは「自分で決めたことだから」という考え。いろいろありながらも何とか10期の節目をむかえ、その間にあった失敗談などからこの考え方に至った経緯を楽しんで聞いてもらえるように話をしたいと思っています。

開催日:

野中曉氏(のなか さとる)

株式会社Webis
Webエンジニア

1982年生まれ。甲南大学法学部卒業後、文系・未経験ながらプログラマーとして就職し、制御系システム開発に従事する。その後Web業界に転身し約3年Webコーディング、プログラミングの経験を経て2012年に独立、株式会社Webisを設立する。共に起業した仲間との別れ、法人を休業し個人として活動するなどの紆余曲折を経ながらも、現在では法人を再開しWeb制作を主にオンラインスクールや専門学校での講師も行っている。

https://webis.co.jp/

公開:
取材・文:山本佳弥氏

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。