チームで挑め。映像制作はクリエイティブの総力戦。
クリエイティブサロン Vol.234 小野直人氏

26歳フリーターから闘病生活へ。冒頭から壮絶な人生ドラマを歯切れ良く、屈託なく語るのは、アニメーション動画制作を手がけるウゴモーションの小野直人氏。映像クリエイターになるまでの快進撃や映像制作にかける真っ直ぐな想い、クリエイターの未来について、笑いを交えながらありのままに語ってくれた。

小野直人氏

ネットサーフィン歴3ヶ月でいきなり3DCGの世界へ

4年をかけて病気を乗り越え、牛丼店のアルバイトとして人生を再スタートさせた小野氏。貯めたお金でMacを購入してインターネットに触れること3ヶ月、突然「3DCGを学びたい」と思い立ち、クリエイターを育成する専門スクールに入学する。当時、33歳。

「学費のローン契約をしてから気づいたのが、これが脱落者多数の難関コースだということ。そこに、3ヶ月ネットサーフィンしただけのおじさんが入学したんですよ。最初の授業で先生に『コピーアンドペーストって何ですか』と質問したら、教室中が凍りつきました(笑)」

授業の内容はさっぱり分からない。しかし、深夜はアルバイト、朝に帰宅して午後から学校へ行き夜までパソコンルームで勉強、という生活を続けていたある日、突然ひらめきが降りてきた。「俺、3DCGの概念分かったわ」。その瞬間に、それまでの授業の内容が一気に理解できたという。

卒業制作は学科の代表作品に選ばれ、卒業後はプロボノ*1で松竹芸能のイベントの映像制作に関わることができた。「イベントは大成功。打ち上げの席で芸人さんたちが楽しそうにお酒を飲みながら『あの時のあの映像、良かったな』と喋っているのを聞いた時に、めちゃくちゃ幸せな気持ちになりました。その時、これはいい仕事だな、この道に進もう、と決めたんです」

何年経っても色褪せない、営業力抜群の自己PR動画

プロボノで成功を収めた後、デジタルサイネージの販売会社で映像制作・編集の仕事を経験。わずか3年で独立し、ウゴモーションを立ち上げた。顧客ゼロ、仕事ゼロからのスタートだったが、メビックのイベントや講座への参加でクリエイターや企業との繋がりが生まれ、徐々に仕事が増えていく。この時大活躍したのが、名刺交換の際に必ず見せているというモーショングラフィックスだ。

「ベン図」や「マトリックス図」など22種類のインフォグラフィックが多彩なモーションを伴って次々と現れ、見る人の目を奪う。

「一つひとつのアニメーションはシンプルですが、それを同時に出し、三次元的に配置してカメラワークを入れることで、かっこよく複雑に見えるように計算して作っています」

かっこいい。気持ちいい。これを観てそんな感想を持った人は、まんまと小野氏の策略にかかっているというわけだ。

レイヤーの数は1000以上、制作期間は3〜4ヶ月と相当な労力を要したが、その甲斐あって、この動画一つでモーショングラフィックスとは何か、ウゴモーションがどれほどの技術力を持っているのかを一撃で分からせることができ、確実に仕事の受注へとつながった。

いい動画を作るためならぶつかることも厭わない

プロの映像クリエイターとして本格的に活動を始めたのは37歳の頃。しかし、その芽はずっと以前からじっくりと育っていた。子どもの頃から映画好き、本を読むのも音楽も好き。人を楽しませるあらゆるコンテンツが大好き。今でも毎日本を読むし、一つのことを勉強し始めればのめり込む。

岡山から大阪に出て通い始めた映像の専門学校では、東京2020オリンピックの公式記録映画の監督を務めた河瀬直美氏の授業を受け、河瀬氏に「小野くんが言ってることは正しい。でも授業をめちゃくちゃにしてるよ」と叱られた。というのも、学生がお互いの作品を評論する授業で、真剣さに欠ける作品に対しては片っ端からこき下ろしていたから。真っ直ぐで、人とぶつかることも厭わない。映像制作にかける情熱は、当時からすでに醸成されていたようだ。

プロになった今、その情熱の温度はますます上がっている。例えば、2021年に製作した痴漢防止の啓発動画「学生に知ってほしい痴漢の真実」。友人であり、一般社団法人痴漢抑止活動センターの代表理事を務める松永弥生氏からの依頼で制作したアニメーション動画だ。メビックで培ったネットワークを活用し、グラフィックデザイナーの増喜尊子氏も加わった3人のチームで制作が始まったのだが、松永さんの強い想いと小野さんの“正直さ”がぶつかることも多々あったという。

「センシティブなテーマなだけに、言葉選び、手法、表現の全てにおいて毎回議論が紛糾しました。大の大人がわあわあ言って、涙を流すくらい真剣に戦ってできた動画です。おかげで胸を張れるものができたし、公開後には観た人から感謝の言葉をもらえた。40代のうちに一つでも世のため人のためになるものを作れて、本当によかったと思っています」

動画公開後はNHKのニュース番組でも紹介され、多くの反響を得た。動画をきっかけに、現在松永さんの活動はさらに広がっている。

仕事の目的は、クライアントを成功へ導くこと

小野氏いわく、「映像制作は、音楽やデザイン、モーションとありとあらゆるクリエイティブの総力戦」。コンセプトメイクからナレーション原稿の制作、グラフィックデザイン、動画編集まで一人でこなす小野氏だが、目下の課題は、企画力や発想力、デザイン力などをさらに磨くこと。そのために、多くのクリエイターとつながること。メビックのコーディネーターに就任したり、デザインの専門学校の講師を引き受けたりと、新たな挑戦にも踏み出している。

「仕事って、クライアントを成功させ、世の中の人たちを幸せにするのが本来の目的だと思うんです。そのためには、案件を納品してはい終わり、ではダメで。企画からプロジェクトを構築して、動画やWebやSNSなどを組み合わせ、展開させる総合力が必要です。そうなると、ウゴモーションだけでは到底不可能なわけですよ。でも複数のクリエイターの想像力や知識、経験を融合すればきっと実現できると思います」

最近では、撮影やカリグラフィーを専門とするクリエイターとチームを組んで制作したSAKAEテクニカルペーパーの紙ブランド「paper paper」のプロモーション動画が、メビックのコラボ事例でも近々紹介される。クライアントからの評価も高く、今後世界20カ国の代理店でプロモーションに使われるという。

「クリエイターが力を合わせていいものを作れば大阪の企業も喜んでくれるし、大阪の企業が成功すれば、それを聞きつけて全国から『じゃあ大阪に仕事を発注しよう』と依頼が来る可能性だってあります。大阪のクリエイティブを広げる、そのためのエンジンを自分たちで作ってやろうと思っています」

イベント風景

イベント概要

30代でフリーターから映像クリエイターに。映像クリエイターの仕事と今と未来?
クリエイティブサロン Vol.234 小野直人氏

子どもの頃から、映画、TV、音楽、本、ゲームが大好きでした。30代前半まで人生が思うようにならず、フリーター生活をしていたのですが、人生初Macを購入したことで、人生を変えようと決意しました。そこから、専門学校で3DCGを学び、就職して映像制作の仕事をするようになり、クリエイターとして独立するも仕事を獲得できずと、悪戦苦闘の日々が続きました。クリエイティブサロンでは、フリーターから映像クリエイターとして仕事が繋がるようになるまでを話したいと考えています。また、印象深い映像制作のエピソードや、映像クリエイターとしての今と未来についても話すことができたらと思っています。

開催日:

小野直人氏(おの なおと)

ウゴモーション
映像クリエイター

岡山県生まれ、47歳。30代前半、牛丼屋でアルバイトしていた時代に、人生初のパソコン(Mac)を購入。3ヶ月後、なにを思ったのか、3DCGを学びたいと専門学校に入学。完全なるパソコン初心者だったので、3DCGを理解するのに悪戦苦闘するも、なんとか卒業。デジタルサイネージを販売している会社に入って、動画編集、アニメーション制作の仕事をするように。30代後半で独立するも、なかなか仕事を獲得できず、藁にもすがる思いでメビックのイベントやセミナーに参加するようになって、人脈が広がり、仕事が繋がるようになり、現在にいたる。

http://ugomotion.com/

小野直人氏

公開:
取材・文:山本佳弥氏

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。