大阪とアジアをつなぎ、未来につながるクリエイティブビジネスを創造
クリエイティブサロン Vol.230 盛世匡氏

インテリアデザインから照明デザイン、アートインスタレーション、イベント企画・運営など多様なプロジェクトを手がける盛世匡氏。30歳直前に渡英し、2000年より香港に在住。現在は香港・中国・日本を行き来しながらグローバルに活動を続けている。今回のサロンでは、25年にわたる海外生活で関わったデザイン物件やコミュニティー活動の実例を通じて得た気づきや学び、大阪のクリエイティブビジネス、未来のものづくり構想などについて語った。

盛世匡氏

独立後すぐに大プロジェクトに抜擢。香港の懐の深さを実感。

東京の美大でプロダクトデザインを学んだ後、東芝ライテックに就職し、照明について学んだ盛さんは、30歳を目前にそれまで築き上げたキャリアを捨て、渡英。英国Brighton大学のインテリア・アーキテクチャ科を33歳で卒業した。その後、縁があり香港へ。ポートフォリオを持って現地の建築設計事務所を訪問し、見事採用された。「香港は人がフレンドリーでストレート。街はダイナミックで雑多、そして食がおいしい。大阪と雰囲気が近いように感じました。経済も右肩上がりでしたし、この街はおもしろい! そう思いました」

設計事務所では、スポーツブランド「ナイキ」の店舗デザインなどさまざまなプロジェクトをアジア全域で手がけた。多忙を極め、徹夜も珍しくない毎日。仕事は楽しかったがいつしか、誰のために働いているのかわからなくなり、さらにプライベートの変化などから、盛さんは独立を決意。大きな決断に不安もあったが、香港での功績が評価され、独立後すぐに中国最大手のディベロッパーからのオファーが舞い込む。住宅物件のブランディングのためのショールームを深圳につくるという大プロジェクトだった。急遽、デザインチームを立ち上げ、1200㎡の巨大集合住宅ショールームの設計を担当した。「独立したばかりの個人にこんな大きな依頼がくるのは香港や中国ならでは」と盛さん。

事務所設立5年目には、新デベロッパーブランドの2600㎡におよぶ超巨大ショールームを北京につくるブランディングプロジェクトを手がけた。ブランドの世界観を表現したアーティスティックなショールームは、照明やスモークによる幻想的な演出や、スモークに浮かび上がるプレゼンテーション、メリーゴーランドを囲む360度のシームレスなスクリーンなどエンターテイメント性に富んだ「観る」だけではなく「体験」できる空間になった。

独立後すぐに手がけた中国最大手のディベロッパーのブランディングプロジェクト

高いクリエイティビティで国内外に広がる活躍の場

その後も上海ディズニーランドのオープンに伴い、政府が交通や宿泊施設、飲食店など観光客の受け入れのための街づくりプロジェクトや「香港人の好みを知り尽くす日本人」として居酒屋の和民、イオンなどさまざまな物件を手がけ、独立してからも順調にキャリアを積み上げていった。当然「日本人だから」だけではなく、すべてはその高いクリエイティビティが評価されたからこそのオファーだ。

例えば、世界有数の人口密度の高さを誇る香港都市部ならではの極小住宅。ベッドを置いただけでスペースがなくなるほどの部屋に、テーブルやクローゼットなど生活に必要な要素をバズルのように組み込む小さな空間を有効的に使ったアイデアは、緻密な計算を重ねてデザインを生み出す盛さんならでは。また、「アート」「暮らし」「食」がテーマのアートミュージアムやギャラリーとカフェが融合したアートカフェのポップなデザインは香港の人々に受け入れられた。

盛さんは単にデザインをするだけではなく、実際に使う人や訪れる人たちとの「共感」を大切にしているという。あるカフェの店舗デザインでは、盛さんの教え子の学生やお客さんたちと一緒に、壁にコーヒー豆を使ったアート作品をつくった。「プロジェクトのはじめから参加してもらうことでその空間を大切にしてもらえる」と盛さんは話す。

CURATOR Creative Cafe at M+
香港のショッピングモール内の「CURATOR Creative Cafe at K11 MUSEA」。カフェのオーナーはアートキュレーター。

社会問題に対する意識の高まり

キャリアを重ねていくうちに単に自分の仕事をこなすのではなく、社会問題に対する意識やアーティストの活躍の場を広げたいといった気持ちが芽生えてきた盛さん。

古い物件が壊され新しいビルが建ち、香港らしい景観やカルチャーが消えていくことに危機感を感じていた頃、あるアーティストとコラボプロジェクトを立ち上げた。

アーティストは20代の若い女性。飲食店などの店主に店が生まれた経緯やこれまでのヒストリーを取材し建物や店内をスケッチし記録するという彼女の活動がメディアに取り上げられ、注目を集めていた。「単純に行為でやっているスケッチではないので、熱量が生まれるんです。すごいと思いました。でもこれで食べていけるわけではないので、すごくもったいないですよね。それで僕は彼女にコンタクトを取りました」

盛さんは当時設計依頼を受けていたカフェの店舗の世界感を表現するために、彼女に珈琲文化を表現するイラストを依頼。その後、紙ではなく「場所」に行けば誰でも観ることができるアートをつくろうと説得。珈琲文化のストーリーをビジュアルで表現したイラストのアウトラインを彼女が作成し、それをプロジェクションで壁に投影。ボランティアの人たちとペイントし、壁画アートを完成させた。

Enlighting Garden / 魅光奕林
廃材となってしまうストローやペットボトルキャップと光ファイバーとを組み合わせて制作したライティングアート「Enlighting Garden/魅光奕林」

文化交流を通してクリエイターのジレンマを解決したい

盛さんがクリエイターとして大切にしているのは、「インナースペース」と「社会的価値」だ。「何をつくるにせよ、お客さまだったり、パートナーだったり、必ず相手がいます。インナースペースを大切にするのは、個人の技量や知性、創造性のキャパシティが高ければ1人+1人の出会いは単なる2人分の力量だけでなく、無限の可能性を生むことができる。それが本当に面白いんです。あとは、できるだけバイアスなく、それが“なんのための物か”という目的をしっかり理解しておくこと。ビジネスも大切ですが、結局それが社会的価値をつくることにつながると考えています」

2011年には香港にグッドデザイン賞受賞商品を取り扱う「グッドデザインストア」のオープンの際はローカルの代表として文化発信イベントの監修を手がけた。ショップでは商品を売るだけではなく、日本の文化も同時に発信できるよう、物販エリアの奥にギャラリースペースが併設されている。グッドデザイン賞を受賞した茶室「文彩庵/SHUHALLY」による若手陶芸家の茶道具や茶碗の展示、御点前の紹介やデモンストレーションを通してお茶を楽しむ企画展や、ブナを使ったハンドメイドの食器や照明などを手がける青森のメーカー「ブナコ」の職人によるワークショップなどを開催。日本の伝統、文化そしてそれらの進化も同時に伝えるイベント運営に携わった。

また香港のアーティストを京都に招き、職人工房を回ったこともある。京都の工芸品は世界的にも評価されているが、時代の流れと共にビジネスとして成り立たなくなったり、後継者不足によって廃れていくものも多い。一方、中国では生産最小ロット数が大きく、若手アーティストの表現を具現化することが難しい。それぞれのジレンマや悩みが国を跨いで解決できればと盛さんは考える。そんな取り組みの中で生まれたのが、高級帯地に使用される京都の「引箔」と呼ばれる技術と香港のメーカーがコラボしたスピーカー。引箔でしかだせない美しいメタリックアートでオブジェとしても高い評価を受けた。

香港や大阪の未来に向けてできること

国外だけではなく、香港国内でも人と人をつなぎ、新たなものを生み出していく試みとして異業種クリエイターを繋ぐプラットフォーム「United Voice」を結成した盛さん。「香港には18の区があるのですが、僕の使命はすべての街にクリエイターがいる状態にすること。これまで12区くらい巡業しました。ジャンルも世代も超えたいろいろなクリエイターを集めて、相互に交差させることが大切。アーティストとか不動産とかそれぞれの場所でいろんな取り組みをしている方たちも、きっかけさえあればどんどん繋がってシナジーが生まれるはず。業界内で完結してしまわないためにはファシリテーターが必要なんです」

最後に盛さんは3つの「未来的創造思考」に基づいた今後の構想について語った。1つめは「メイド・イン・ジャパン」構想。日本の有名メーカーブランドは世界中で認知されているが、その技術を支える中小企業自体はまったく知られていない。彼らの持つ技術は素晴らしいが、海外に売り込む力が十分ではないと盛さんは考える。技術をブランディングし発信していくことで、大手企業に頼らない、新たな「メイド・イン・ジャパン」ブランドの仕組みをつくることが必要だという。

2つめは「デザイン+クラフト」。日本人が持つクラフト技術は非常に高いが、必要なのは継承とその先のマーケットだと盛さんは話す。日本人だけの感覚ではなく、海外デザイナーとも共作することで、新しい視点を得ることが出来るはず。別の形で継承させるなど視野を広げて考える必要があるという。

そして、最後は「食+コミュニティー」。「どんな人でもなにかしらの才能がある」と盛さん。違うのはそれをプロのレベルまで引き上げるかどうかだという。たとえば食。主婦は食のプロではないが、少しのレベルアップでそれは職能になり得る。日替わりキッチンなどテストできる場をつくれば、何かしらのビジネスモデルができるのではないかと考えている。「いろんな人を職人化できれば、多様性とそこに集うコミュニティーの中に新しい価値が生まれる。それを日本でぜひやっていきたい、絶対にできると僕は思っています」

盛さんのそんな力強い言葉でサロンは幕を閉じた。

イベント風景

イベント概要

大阪とアジア諸国とつくる共感、共業活動を通して、これからの大阪のクリエイティブなビジネスを創造する
クリエイティブサロン Vol.230 盛 世匡氏

アジアネットワーク作りはこれからの大阪のクリエイティブビジネス、モノづくりには欠かせないと思います。アジア諸国のそれぞれ異なる文化背景や価値観から生まれる多様性を理解しつつ、多元的な価値を取り入れ、潜在的可能性を見出し具現化していく。感性享受から生まれるシナジーは大阪のモノづくり文化をより魅力にしていくのだと思います。これまでの25年にわたる海外生活で得た、多様な方たちとの共業の経験から得た気付きと学びを、関わらせていただいたデザイン物件やコミュニティー活動の実例を通じて、これからのアジアングローバルな大阪のクリエイティブビジネス、モノづくり構想について聴講される皆さんと共に考えていければと思います。

開催日:2022年6月02日(木)

盛 世匡氏(もり せいき)

Studio ARRT設計事務所代表(香港) / 株式会社アルテ・アバン 設計部代表(大阪)

1968年大阪生まれ。多摩美術大学プロダクトデザイン科、英国Brighton大学インテリア・アーキテクチャ科卒業。2000年より香港在住。香港現地建築設計事務所に7年間所属した後、2007年Studio ARRTを設立。香港、中国、日本にて、インテリアデザイン、アートインスタレーション、イベント企画・運営に携わる。近年ではデザイナーの枠を超えたクリエイターを支援するコミュニティープラットフォーム/United Voiceの設立、デザイン・工芸文化支援/MOD allianceなど、幅広い多様なプロジェクトを立ち上げ、日本の創造的デザイン、もの作り文化を伝える活動に携わる。2021年より(株)アルテ・アバンに所属。大阪を拠点に設計活動、アジアを繋ぐクリエイターサポート活動に取り組む。

United Voiceクリエーターズコミュニティー発起人
JCD(日本商環境デザイン協会)正会員
HKIDA(香港インテリアデザイン協会)正会員
Good Design Award香港 / 中国地区審査運営代表
英国Birmingham City University及び英国MiddleSex大学非常勤講師(香港分校)

https://www.facebook.com/studioarrt/

盛氏

公開:2022年7月14日(木)
取材・文:和谷尚美氏(N.Plus

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。