「ちゃもきん」という名にゆだねた、変化への期待
クリエイティブサロン Vol.222 ちゃもきん氏

今回のゲストスピーカーはフリーランスでデザイン制作を営む「ちゃもきん」さん。クリエイティブな仕事内容の紹介が短くなるほど、これまでの人生がコミカルなトーンで紹介され、笑いの絶えないサロンとなった。記事には書けない内容が多かったため、詳しい背景が知りたい方はご本人と親しくなってから聞いてほしい。なぜ「ちゃもきん」という親しみやすく、一度聞けば忘れない独特な名を名乗っているのかが、垣間見える回となった。

ちゃもきん氏

自意識がひとりでに膨れ上がっていった幼少期から高校卒業まで

少し年の離れた姉と兄の3人兄弟の末っ子。海沿いの四国の田舎で生まれ、保育園から中学までほぼ変わることのない20名未満の少人数クラスで育った。現在の「ちゃもきん」と言う名は、子どもの頃の「ちゃも」と言うあだ名に由来する。小学校では、周りの男子が始めたソフトボールにはしぶしぶ参加する一方、テレビで見たミュージカル映画や家族が聞いていたラジオの影響で、1人音楽の世界にのめり込むような少年だった。

「学校では、周りの冷やかしを気にして休み時間にトイレに行けず、我慢する余りに危うく盲腸の疑いでお腹を切りかけました(笑)。それもあって中学に上がると休み時間ではなく、授業が終わる少し前に『トイレに行きたいです!』と申し出て、念入りな対策を講じていました(笑)。そんな無駄に神経質なところがありました」

10年近く少人数クラスで過ごしたため、同級生たちとは仲良しだったが、近隣唯一の高校に進学すると生徒数は一気に増えた。そして地元仲間と初めてバラバラのクラスになってしまったことで、「周りの人や環境の変化に戸惑い、些細なことでも勝手に自意識過剰になっていってしまいました……」と、心境や生活に大きな変化があったと振り返る。

次第に疎遠になっていく地元仲間との関係や、ひとりでに膨れ上がる自意識の影響もあってか、高校2年の1学期からは不登校に。家族や家を訪ねてきてくれる教員に対して具体的な理由も言えず、日中は外出もできずにいると、次第に昼夜逆転の生活になっていった。自力で状況を打開するすべを見出せず、悶々とする日々を過ごしていたが、再登校への背中を押してくれたのは、地元の仲間たちだった。疎遠になっていたと思っていた仲間が家まで来てくれたことがきっかけで、まずは保健室登校から始め、徐々に通常の高校生活を送れるようになった。復学当初は腫れ物的な扱いだったが、「自分で思うほど周りは他人(ひと)のことは見ていない」という、誰かに言われた言葉を頼りに卒業までを過ごした。

コーヒー豆販売店のリーフレットとショップカード
独立後に手がけた、コーヒー豆販売店のリーフレットとショップカード。店主家族が描いた絵に、コーヒーの木と白が基調の店舗のイメージを合わせ、ボタニカルな雰囲気でまとめた。

失敗の連続から模索する、自分が望むこと

高校卒業後は、関西の芸術大学に進学した。大学進学後、初めて様々なアルバイトを経験したが、せっかくなら好きな音楽が近くにある場で働きたいと考え、求人誌で「クラブ」を探した。

「面接に行くと、入口に女性の顔写真パネルが並んでいる『ナイトクラブ』のほうでした(笑)。単なる面接のつもりが、その場で店主に『よろしく』と、即、握手の手を差し出され、それからしばらくは、夜7時から明け方まで特殊で過酷な夜の世界で過ごす日々が続きました(汗)。接客が苦手で要領も悪く、トラブルばかりで本当によく怒られました。常に人手が足りない状態でしたからなかなか辞めさせてもらえず、自動車免許取得合宿への参加を理由に、やっと円満退職できました」

大学卒業後は、恩師の紹介で印刷会社に就職。

「アルバイト期間を含め2年ぐらい働きましたが、初めての実務は何もかもが大変でした。1年目のある時、気の緩みもあって、任されていた案件の仕上がりが甘く、それまで優しかった女性の先輩から初めて『なめとったらアカンで!』とガツンと叱られました。その後、その先輩は退職され、入社2年目にして一気に増えた仕事量や変わってしまった業務環境に堪えられず、結局自分も辞めてしまいました」

印刷会社では机でPCに張り付いてることが多く、身体を動かさない時間が長かったため、退職後は、健康的に体を動かす仕事をしようとリラクゼーション系のマッサージ店でアルバイトを始める。高級デパート内にある大半が女性スタッフの店だった。

「そこでも入って2週間でポカをしてしまい、最初は優しくしてくれていた店長にデパートのバックヤードに呼び出され、もの凄い剣幕で叱られてしまいました……(汗)。仕事も想像していた健康的に体を動かす感じではなく、マッサージする側が、マッサージを受けたくなるぐらい負荷のかかるものでした。結局は、デパート建替えに伴う閉店のタイミングで辞めたんですが、在職中にお店のサービス券の制作を任され『あ、デザインってやっぱり面白い!』と再認識しました。印刷会社では受注から制作、納品、請求までを担当していましたが、もう一度デザイン分野に携われるなら、制作だけに専念できる職場で働きたいと思いました」

その後、転職活動を経て、自社媒体運営の他、スポーツ新聞などの広告制作をメインに手がける広告代理店のデザイン部門に就職できた。当初は、デザインに専念できる環境に満足していたものの、他部署との連携がぎくしゃくとしており、次第に、自分の立ち位置や役割を意識するようになった。また、経営は順風満帆ではなく、入社後、5、6年のあいだに従業員が減り、占有していた3階建て自社ビルも、ワンフロアの一画だけになるほど規模が縮小された。

「20代半ばにデザインに専念したくて入社しましたが、数年後には会社の規模縮小もあって、デザイン業務以外の社内外を含む人間関係や発生するトラブル等の対処などに追われるようになりました。そうやって目の前の業務に追われるうちに30歳が目前となり、自社の人材育成や経営・ビジネス手法、そして、広告や媒体、業界全体のあり方、今後の自分自身についても考えるようになりました。そんな時に、伊丹十三監督の映画にはまり、中でも『スーパーの女』は、仕事との向き合い方を考えたり、独立に挑戦する一押しになったように思います」

「ちゃもきん」として

そして2017年に本格的に独立・開業。音楽好き・パーティー好きなちゃもきんさんらしく、屋号「TYIF」は、当時仲間内で流行ったアーティストの曲「Last Friday Night (T.G.I.F.) 」にヒントを得たものだ。

「TYIF」は、T.G.I.F.(「Thank God It’s Friday」=「神様ありがとう、今日は金曜日!」「今日は金曜日で良かった!≒花金(はなきん)」)の「God」を「You」に変えたもの。「花金」は「仕事と遊び・オンオフ・苦楽……」のように、相対しつつも隣り合う絶妙な関係を実感する瞬間でもあり、それを大切にしたいとの想いが込められているという。そして、「ちゃもきん」という名前を使い始めたのは、神経質で失敗ばかりだった自身に変化をもたらしたいという、期待のあらわれだった。

「大胆そうで楽観的と言われるのですが、実は堅物・心配性・神経質。独立を機に、ひらがなの『ちゃもきん』から連想されるイメージで、新しく始めようと思いました(笑)」

独立後は、メビックで開催されるイベントに足しげく通うようになり、そこで知り合った代理店や同業者から依頼される仕事が多いという。ロゴ、パンフレット、シール、チラシ、DM、POPなど、印刷物全般をメインに手がける。

「独立後は、ほとんどが未経験の業種や案件で、その都度、大変ではありますが、最近で一番頑張ったのは、社内報づくりです。読者である、世代・ジェンダー・役割・立場がそれぞれ異なる従業員の方が、どんな誌面であれば興味を持って読んでくれるのか。普段は、広告宣伝に直結する一枚もののビジュアル制作が多いので、直接的な利益に繋がりにくい、読みものとしての社内報のあり方について、とても考えさせられました」

「会社員時代は、限られた時間内で、いかにビジュアル映えする制作物を量産できるかに主軸があり、コンセプトやそのあり方まで細かく検討する必要性や余裕がありませんでした。今は、全ての案件に自分の裁量で取り組めますので、悩ましく大変ではあるのですが、とても興味深く勉強になっています」

冒頭にも書いたが記事には書けない内容が多く、当日サロンに参加した人が読めばその半分も記載されていないことがわかる内容だ。これまでのクリエイティブの話というより、これまでの失敗談ばかりが披露されていたようだが、その経験をネタにみんなを楽しませながら話す姿を見て、1人パーティーのような生き方にたどり着いたのではないかと感じた。

イベント風景

イベント概要

○○の男? 2022
クリエイティブサロン Vol.222 ちゃもきん氏

気付けば、幼い頃から色んなモノを「のぞき」こんできました。その対象は、海の中にはじまり、深夜のテレビ、大人や周囲の顔色……など、その時々で興味惹かれ赴くままでした。また、何事も納得しないとなかなか先に進めないタイプで、現在30代後半となってもそれは変わりません。寧ろネットの普及に伴って益々拍車がかかっているかもしれません(汗)。20代当時、独立やクリエイティブに縁が無いと思っていた分、今もあまり語れるものはありませんが、それでも今まで「のぞき」こんできた先(影響を受けた出来事、業界、カルチャー、映画、作家、人物、日々の疑問……などなど)のお話が出来ればと思います。いろいろとっ散らかるかと思いますが、どうぞご自由にのぞきこんで頂けたら幸いです。

開催日:2022年1月21日(金)

ちゃもきん氏

TYIF
おまつりだいすきおひとりぱりぴアイノテでざいなー

大学を卒業後、近所の印刷会社に就職。その後、他業種を一度経験するも再び市内の広告代理店にて紙などをメインとした媒体広告のデザイン業務に携わる。その後、2017年前後に独立して現在で6年目に突入。喋りや私生活はお祭り状態に陥りがちも、制作に置いては「見やすく、分かりやすく、親しみやすく」を意識して取り組む。

https://www.mebic.com/cluster/tyif.html

ちゃもきん氏

公開:
取材・文:狩野哲也氏(狩野哲也事務所

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。