好奇心と戦略を張り巡らせ、顧客も自社も「売上あげる」Web制作
クリエイティブサロン Vol.208 丸山有仁氏

企業にとってWebサイトを立ち上げる第一義は、売上を伸ばすこと。丸山有仁氏が代表を務める株式会社みやあじよは、「売上あげる、おてつだい。」をコンセプトに、目標に至る道程を戦略的に組み上げ、Webデザインとして提案する。今回のサロンでは丸山氏の遍歴と、その場面場面で発揮された戦略思考、そして未来に向けての展望が語られた。

丸山有仁氏

Web制作は、楽器修理職人になるための戦略だった

中学から吹奏楽部でユーフォニアムを演奏し、高校時代にはその道のプロをめざせるとまで評価された丸山氏。しかし「演奏よりも楽器いじりが好きだから、プロはちょっと違うな」と、修理職人の専門学校へ進学した。

卒業後は大手総合楽器店に就職したが、配属されたのは販売部。しかも扱う楽器はギター、ベースなどライトミュージックの楽器がほとんどで、自分が売りたい楽器は扱えない。修理職人としての腕を生かせないどころか、クラシック畑の人間には肩身の狭い職場だった。

改めて修理職人をめざすべく退職を決意するが、すぐに就職できるか不安があった。日本には楽器修理の技術を学べる専門学校が当時4校あり、毎年各校から80名、計300名以上の職人の卵を輩出する。ところが日本にはその全員が職に就けるほどの受け皿はない。ライバルたちと差をつけ職にありつくには、どうすればいいか。「修理が暇な時にHPをいじれる修理職人としてならいけるんじゃないか」と職業訓練校へ進み、Webデザインのスキルを学んだ。

「前職は人と接する仕事でお客さん次第の部分が大きいので、思い通りにいかないこともありました。でもWeb制作は自分がやっただけきちんと形になる。どハマりしましたね」。訓練期間の3カ月間は夜中の4時まで勉強するほど没頭し、クラスでトップクラスのスキルを身につけたという。これで修理職人になれるだろうと自信を得た一方、Web制作のおもしろさを知り、進路に迷った。Web制作へ舵を切ったきっかけは、職業訓練の企業研修で訪れた、楽天市場でレディースブランドを販売する会社。仕事ぶりを気に入られ、入社を勧められたことから就職を決めた。

ユーフォニアムを演奏する丸山氏
高校時代最後の定期演奏会での丸山氏。ユーフォニアム用のマウスピースを新旧問わずコレクションしたり、ボロボロのトランペットをオークションで落札して修理するなど、楽器いじりに傾倒していた。

数字を導き出すロジックを蓄えた前職

「丸山くんは何もしなくていい、ただ売上を上げてくれたらいいからね、と言われたのがぼくの前職の始まり。できなかったら辞めないといけないと思っていましたから、必死でいろんなことをしました」。まず着手したのはブランディング。当時はまだ小規模な店舗で、低価格の商材を扱っていた。このままでは薄利の商売から抜け出せない。そんな危機感から、コンセプトを明確にし、キャッチコピーも考案してブランディングに取り組んだ。その効果はてきめんで、すぐに売上が上がったという。

さらに手をつけたのが広告。しかし丸山氏の入社以前に楽天市場で広告を出したが、思うような結果を得られなかったという話を聞いていた。ならばと注目したのがSNS。潜在的顧客を掘り起こせる可能性を秘めているうえに、当時まだSNSに広告を出す業者はほとんどなく、ライバルが少なかった。これならいけると広告を出して間もなく、フォロワーが数万人に。月商も2倍に跳ね上がり、大きな成果をあげた。

その後は商品ラインナップの追加・変更、キャンペーンの年間スケジュールを組むなど、販売戦略を一手に担い、自社ブランドを確立。またサイト運営の自信を得てYahoo!ショッピングにも出店し、成功を収めた。ここまで積み上げてきたノウハウは自社ECサイトの開発にも生かされ、売り上げはどんどん伸びていった。こうしてECモール・自社ECサイト運営の実績を重ね、2017年に独立することとなる。

会社の価値を高めるための“超絶ホワイト”

Web制作会社みやあじよがスタートを切った舞台は、クラウドソーシングサイトのココナラ。プロとしての理念を紹介文枠ギリギリの5000字にわたって書き綴り、相場の5倍という高価格で差別化を図った結果、依頼が次々と舞い込んできた。「とはいえ安くでも受けていたので、『売上あげる、おてつだい』と言ってるのに、自社の売上が上げられてないなと。そんな現状から脱却して自社サイト経由の直請け体制を構築するため、大阪のWeb制作会社800社を調べあげました。どんなキーワードで、どんな提案書を作って、どういう商売をしてるのか。分析して作り上げたのが、現在の自社HPです」。ただHPを作るだけではなく、アーティスティックでカッコいいだけでもない。クライアントの問題解決を担うWebデザインというコンセプトを前面に打ち出した。「今では受注の9割近くが自社HPから。Web業者がWebから仕事をとれないで、お客さんに何を納品するの?という考え方です」

クラウドソーシングサイトの掲載ページ
クラウドソーシングサイトの掲載ページ

現在は丸山氏を含め5名体制のみやあじよ。就業時間は9時から18時まで。裁量労働制で、自宅でのリモートワークもOK。有給休暇消化率はほぼ100%なうえに、それとは別に月に1日好きな日に休める「ねこのて休暇」なる制度もある。またデザインに携わる以上、高品質な物に触れて欲しいという想いから、全社員に高級レストランでご馳走する日も設けている。さらに給与は業界平均より高めに設定と高待遇だ。「ぼくが社員なら働きたい会社。超絶ホワイトです」と自信を持って紹介するのも納得できる。これらの取り組みには、事業規模を拡大する意図も含まれている。まだまだ待遇がいいとは言えないWeb業界で、異色の高待遇を武器に優秀な人材を確保しようというのだ。「Web制作会社は人間の価値イコール会社の価値になるので、費用をかけてもいい人材を採用して手厚い待遇で迎え入れれば、自然と業績は伸びていくはずです」

アネモネロゴ
ECサイト開設に向けて立ち上げた新ブランド「Année mois(アネ・モア)」。長く愛され、経年変化を楽しみながら思い出と共に在る商品を届けるという想いを込め、フランス語の「年月」を意味する言葉から名付けられた。ロゴマークは人が長く愛してきたもの=スパイスという発想でデザイン化。実際に様々なスパイスを取り寄せて香りを確かめ、中でも女性らしい華やかな香りを感じたスターアニスとセシュアンペッパーをモチーフにしている。

好奇心ベースで取り組み、事業につなげる戦略思考

今もっとも力を注いでいるのは、ECサイト出店に向けた商品開発。「ECサイト制作の依頼もいただくのですが、以前のノウハウだけでは今の時代とズレが生じる。自社で物を売らないと完璧な提案ができないなと思って」。市場調査、製造コスト、多様に展開する商品ラインナップも戦略的に分析し、実現に向けて着々と準備を整えている。

最近では個人的にYouTubeチャンネルを開設し、動画配信を始めた。スタイルの違う複数のチャンネルを設け、反響が大きい見せ方を探っているそうだ。始めたきっかけは私的なものだが、将来的には動画編集のスタッフを雇い、Webサイト用の動画も内製できる体制を見据えている。また食い道楽が高じて、飲食店を支援するポータルサイトの立ち上げも計画中とのこと。これらを同時進行しているというのだからオーバーワークもいいところだが、本人は「新し物好きなので」と何でもない様子だ。

あくまでWebサイト制作が根底にあるが、好奇心に戦略思考という肥料を撒いて新たな展開を芽吹かせる。そこから多くの蔓が伸び、網の目のように関連しながら張り巡らされていくのだろう。そしてこれらの取り組みはロジックに裏付けられ、説得力に満ちたもの。丸山氏の話しを聞いていると、すでに成功が約束されているかのようにさえ思ってしまうほどである。戦略思考はコトを組み立て育てると同時に、人の心を動かす熱を帯びている。そう感じさせるサロンだった。

イベント風景

イベント概要

楽器修理職人をめざしたらアパレルの広報になってWeb制作会社を経営した話とこれからのこと
クリエイティブサロン Vol.208 丸山有仁氏

もともと管楽器の修理人をめざしていた人間が、Webの面白さに触れてWebマーケティングを覚え、ねこのマークのWeb制作会社を設立し、経営を進めていく中で出会った顧客との体験や社員とのコミュニケーション構築、Web制作会社だからこそこれからやりたいWeb制作以外のことなど、いろいろざっくばらんにお話をさせていただきます。

開催日:2021年8月26日(木)

丸山有仁氏(まるやま ゆうじ)

株式会社みやあじよ 代表取締役

1990年生まれの兵庫県宝塚市出身。レディースブランドのプレスとして広報や販売戦略、購買を担当。2017年に独立し「売上あげる、おてつだい。」をコンセプトにデザイン事務所みやあじよを設立。また同事務所を2018年に法人化し、大阪堺に事務所を構える。ブランディングを得意とし、依頼主のホームページを作る目的から一緒に考え、その目的を達成するためのホームページ制作を主としている。また、企業サポートセンター「D-Biz」にてITアドバイザーを務めたほか、複数の商工会議所や経営者団体にて経営者に対してWeb戦略のセミナーやアドバイスを行う。

https://myajo.net/

公開:
取材・文:東原雄亮氏(CHUYAN

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。