ふたりが大切にする、「待ち」にならないための仕事術
クリエイティブサロン Vol.204 ロケット・ジャック氏・滝本章雄氏

今回のゲストスピーカーはRJ Graphicsのロケット・ジャック氏(以下、ロケジャさん)とJAMWORKSの滝本章雄氏(以下、滝本さん)のおふたり。ふたりは国際アートフェア「UNKNOWN ASIA」で出会って以降、ともにさまざまなプロジェクトを仕掛けている。前半はふたりが出会う前の道筋の一部を紹介したい。後半のふたりのトークは「仕組み」や「仕掛ける」「コミュニケーション」というキーワードが何度も登場し、コラボレーションの極意が詰まったサロンとなった。

ロケット・ジャック氏と滝本章雄氏
左よりロケット・ジャック氏、 滝本章雄氏

20代は365日展覧会を企画していた。(ロケジャさん)

専門学校でグラフィックデザインやイラストレーションを学んだというロケジャさん。いくつかのデザイン事務所で働き、転機が訪れたのは20代前半。

「学生時代のひとつ上の先輩、上田バロンくんが個展を開催しているのを見て、自分もやろうと思って、大阪のミナミのギャラリーでイラストレーションのグループショーに参加しました。そこでいろいろ意見を出していたら、そのギャラリーから『ディレクションしてみたら?』と声をかけてもらったんです」 (ロケジャさん)

国際的に活躍しているアーティストとの交流もあるギャラリーでの企画職だった。ある時、若手作家を応援している某アーティストから「東京で開催するイベントに大阪のアーティストを連れてこられないだろうか?」と相談を受けたという。

「当時は若さと意欲が満ち溢れていたので、『やります!』と快諾し、アーティストをバスに乗せ、作品をトラックに積んで東京までのバスツアーを行ったりしました」(ロケジャさん)

しかし自分だけでは処理できない壁に阻まれ、同時に人間関係に疲れたこともあって30代を前に活動を停止、派遣社員としてデザイン業務を行う日々を10年近く続けたという。

場をつくり続け、ずっと実験を仕掛けてきた。(滝本さん)

一方、滝本さんは高校でデザインや美術を学び、大学では油絵コースに在籍しつつ、音楽やアート、映像に触れ、卒業後はコマーシャルギャラリーなどのいくつかの仕事に関わり26歳で独立。「広報物やCDジャケットのデザインをする中で、アーティストのアートワークを扱うなら現場でコミュニケーションが取れるスペースを運営していたほうがいい」という思いから、2009年に大阪・難波にアーティストやミュージシャンのための空間、artyard studioを設立。ここで作家と何かを生み出す仕事の魅力にハマったという。

そしてartyard studioでの活動を見た大阪・天満橋にあるOMMビルの関係者から「うちのスペースでも何かしてほしい」と声がかかった。OMMは展示ホールとオフィスが集まる巨大なビルで、担当するスペースは飲食店フロアでもあったため、ライブなど音を出すパフォーマンスは難しい。そのため、アート部門を展開した。名称はART Lab OMM/PLANT。場をどうシェアするか、コトが起こる話づくりを意識し、コロナ以前はパーティーを開催してコミュニケーションができる場をつくった。

また、滝本さんはギャラリーの運営と並行して、グラフィックデザインの仕事から、母校である成安造形大学の非常勤講師、ミュージックビデオの監督など、幅広く仕事を広げていった。FM802の音楽フェス「RADIO CRAZY」の会場・インテックス大阪に吊り下げられる大きなバナーの制作現場でのディレクションも2014年から担当しているという。その流れでUNKNOWN ASIAの映像制作にも関わった。

イベント風景
大阪・天満橋「ART Lab OMM/PLANT」

ロケジャさんの過去を知り、滝本さんは業界に戻るよう誘った。

「UNKNOWN ASIAの会場で知り合ったロケジャさんのギャラリスト時代の話を聴いて、この業界に戻ってきてほしいなあと思ってひたすら口説いたんです」(滝本さん)

その言葉を受けて「ひたすら断り続けていました」とロケジャさんは笑う。ロケジャさんは20代の頃にどれだけ辛い思いをしたかをじっくりと語り、滝本さんは「じゃあその部分は僕がクリアします」と返答した。 ロケジャさんを誘い続ける滝本さんにはこんな思いがあった。

「ディレクションに特化した人材は少ない。自分が関わる仕事で言うと例えばミュージックビデオの場合、監督が一台のカメラを回しているわけではなく、複数人のカメラマンが撮影した素材を編集してひとつの作品となるようなチーム戦が多かったんです。そうなると現場で動く各役割をわかっている人材が貴重です。『できるのにやらないのはアカンで』という思いがありました」(滝本さん)

「ディレクション人材の不足については、自分が20代の頃に出会ったアーティストさんやギャラリストの方々も似たようなことをおっしゃっていましたね」(ロケジャさん)

「『まずは試しに一度一緒にやってみよう!』と誘いました。それこそ実験ですね。その時期は丁度、企業の新規事業の広報ディレクションとデザイン制作を長期契約で請け負っていたタイミングだったので、ロケジャさんと仕事をシェアできる部分があった。これをきっかけに彼と時間を共有をして『こっちの世界はやはり面白いな。』と思ってもらえたら勝ちだなと思ったんですよ」(滝本さん)

仕組みを翻訳していくのが面白い。

そして少しずつ、ふたりが仕掛けるプロジェクトがはじまっていく。そのひとつがフリーマガジンの制作。滝本さんは2005年にフリーマガジンを創刊していたが、もっとアートに特化したものがつくれないかという思いがあった。2020年から本格的に準備をはじめ、さまざまなアーティストや、印刷会社のサンクラールさんに相談して実現した。

「コロナ禍でパーティーなどは開催できないので、そのプロジェクトを一緒に面白がって誰かに伝えたくなる、スピーカーになってくれる人をどれだけ増やせるのかを考えて、トーク配信などで工夫しています」(滝本さん)

情報を広げるだけでなく、広告に対する考え方も一工夫加えている。従来のフリーマガジンのように、広告を掲載して広告費をもらうのではない。

「広告は誰かがデザインしているので、そこにデザイン費が生まれています。それを引っ張ってこれたら雇用が生まれるのでは、という考え方なんです。僕らはデザインできて、アーティストはアートワークがつくれる。『どのアートワークを使いますか?』とプレゼンしにいこう、と考えてモデルケースとして1号をつくりました。口で言うほどうまくはいってないですが、仕組みを翻訳していくやり方は面白いと思って活動しています」(滝本さん)

1号は印刷会社とインクメーカーがこのチャレンジを一緒になって応援してくれ、それぞれの企業のカタログとしても成立するクオリティを考えたのだとか。

作例
フリーアートマガジン「PLANT ARTMAGAZINE」1号とその制作風景、トークイベントの様子

予算ありきの仕事で考えると「待ち」になってしまう。

また、2号の構想につながるエピソードも興味深く、ふたりが大切にしている「コミュニケーション」から生まれている。それはロケジャさんがまちを歩いていたときのこと。

「急に目の前に車が停まったと思ったら、小中学校時代の同級生が降りてきて『久しぶり!』と名刺を渡されました。見ると広告代理店の経営をしていて『機会があれば楽しいことを一緒にしよう!』となりまして」(ロケジャさん)

そして、その 広告代理店 が運営する、大阪・南港にある多目的スタジオCASOと手を組んでアートプロジェクトを立ち上げることになった。

CASOにはフォトスタジオやギャラリーとしても使える大小の部屋が多数あり、その一部をアート特区と命名。今後展覧会などのアートプロジェクトを行っていく。9月10日~12日の3日間は写真展を開催するのだとか。

「展覧会にあわせてフリーマガジンの2号をphotographyというテーマで考えています。展覧会だけだとそれだけで完結してしまうけれど、展覧会とフリーマガジンなどの自分たちがもっている武器を組み合わせることで、集客や開催期間だけに捉われない広報の広がりができます。予算ありきで仕事を考えていると、どうしても『待ち』になってしまう。何がどう組み合わされば、予算が捻出されて、関わる全ての方がWin-Winになるか、いろいろ考えながら進めていく時代だと思っています」(滝本さん)

ソフビのオリジナル作品
RJ Toysのオリジナルキャラクター“good sleep babies”

「僕はソフビを一生懸命つくっています。ソフト塩化ビニールの略で、昔はおもちゃの人形という認識だったのですが、実は今、世界的にソフビが大流行していているんです。アートとしても注目されています。これまでもソフビ製作をしたいと思っていたのですが、予算や販路の開拓などに不安があって手を出していませんでした。今回、サポートしていただけることもあって製造を決断しました。今後は国内外でオリジナルソフビを発表・販売していく予定です」(ロケジャさん)

「で、実はソフビ特集のフリーマガジンも考えていまして……」(滝本さん)

ふたりの話はただの打ち上げ花火では終わらない。仕掛ける。その仕掛けがうまくいくための仕組みをつくる。そのためにコミュニケーションを大切にする。それらのプロセスが毎日のように繰り広げられているに違いない。「待ち」の仕事だけではマズいと考えているクリエイターにとって、役立つ極意の詰まったサロンだった。

イベント風景

イベント概要

制作&ディレクションで仕掛けるクリエイティブの現場
クリエイティブサロン Vol.204 ロケット・ジャック氏 / 滝本章雄氏

ィレクター、アートスペースの運営、クリエイターとしてリアルな現場を軸に活動するRJ Graphicsのロケット・ジャックとJAMWORKSの滝本章雄が、自ら仕掛けたクリエイティブ事例をもとに“クリエイターにとって今必要と考えられるコト”についてお話しします。

開催日:2021年7月12日(月)

ロケット・ジャック氏

RJ Graphics代表
クリエイター(イラストレーター・グラフィックデザイナー・アーティスト・ディレクター)

1975年大阪生まれ。2008年、RJ Graphicsを設立。2021年、RJ Toysを設立。イラストレーション・キャラクター・グラフィックデザインの制作、アート作品の発表、展覧会・イベント等の企画、ソフビのリリースなど多岐にわたって活動中。

http://www.rjg.jp/

ロケット・ジャック氏

滝本章雄氏(たきもと あきお)

JAMWORKS代表 PLANT / ART Lab OMM代表
アートディレクター・映像監督・クリエイター

1978年大阪生まれ、和泉市出身。成安造形大学を卒業。自身もクリエイターとして作品を発表しながら、映像では様々なジャンルの音楽(MV)や展覧会・作品制作のドキュメント映像、アートディレクションや企業の広報ツールのデザインなど幅広く活動。クリエイティブスペースの運営、アートマガジンの発行、アートプロジェクト“アートゴーズオン”の企画・運営にも携わっています。

https://jam-works.com/
http://artlabomm.com/

滝本章雄氏

公開:
取材・文:狩野哲也氏(狩野哲也事務所

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。