進化する映像の世界で自分の武器を持つこと
クリエイティブサロン Vol.201 塚本啓太氏

映像の世界はCM、テレビ、映画とジャンルごとに棲み分けがなされていることが多い。そのなかでスタジオ・フィルター代表の塚本啓太氏は、さまざまなジャンルで縦横無尽に活躍する映像ディレクターだ。その経験が活かされ、日本でも数少ないプラネタリウムの映像制作を多く手がけている。今回は4K / 8K化が進み未知の映像体験がはじまった世界で、独自のスタンスを築くまでを語ってくれた。

塚本啓太氏

大学の恩師が率いるクリエイティブ集団で修行

かつてプラネタリウムといえば、ドーム型の天井に投影された数千個の星を見ながら解説を聞く場所だったが、それは昔の話。当時からのアナログ方式で星を投影する「光学式」にくわえ、現在では「デジタル投影機」 のハイブリッド投影が主流で、デジタル投影機で画像や映像コンテンツがプラネタリウムのドームに投影できるようになっており、圧倒的な没入感や高臨場感が味わえる場所に進化。そこで放映されるコンテンツもエンターテインメント性の高い作品が生まれている。このプラネタリウムでの映像制作をはじめ、ジャンルの垣根を飛び越えて活躍するのが、今回登壇する映像ディレクターの塚本啓太氏だ。

もともと映画が好きで、大学は宝塚造形大学の映像デザインコースへ進んだ。卒業後は企業の販促ビデオを制作する会社を経て、3、4年ほどフリーランスとして活動。その頃に大学時代の恩師・大村皓一氏が顧問となっている有限会社イメージファクトリーを訪れる。大村氏は80年代に、並列処理によるグラフィックプロセッサ“LINKS-1”を開発するなど、国内のCG草創期を代表する人物であり、同社は宝塚造形芸大の教え子たちが起業した。

「こちらに間借りするかたちで、先輩たちのパソコンをのぞいては仕事を手伝いつつ技法を学んでいきました」。そのひとつが「2.5D動画」。1枚の画像を立体的に見せる映像表現で、2Dを擬似3D化するというもの。「当時ぼくが唯一使えたAdobe Photoshopだけでつくれたのがこの技法。1枚の写真から切り抜いた画像を立体的に配置したアニメーションです」。これが15年ほど前の話。

「とにかく現場に行くこと」下積み時代に学んだ、仕事の極意

間借り時代は数年続く。その間も先輩たちの仕事を手伝い、友人の結婚式のビデオを制作したりしながら生計を立てていたという。「この頃、ぼくが学んだ営業の極意、それは“現場にいること”」。イメージファクトリーに在籍する先輩5名は、それぞれディレクターとして活動していた。「誰かが打合せに行けば、ぼくもついていく。現場に行けば“誰?”となり、名刺を交換して挨拶できる。それを繰り返すうちに名前と顔を覚えてもらえ、そこから仕事がいただけたりするんです。だから現場=ものごとが起きている場所にいさえすれば、食っていけると思った(笑)」自腹で夜行バスに乗り、東京での打ち合わせに参加したこともあるという。

イメージファクトリーは当時から大手企業をクライアントに抱えていた。「例によって打ち合わせに参加して、ぼくやりますと言ってつくったお仕事」と、塚本氏が手がけた映像も錚々たる企業の名前が並ぶ。そんな日々が続き、30歳を目前に控えた頃ターニングポイントが訪れる。イメージファクトリーの役員のひとりが独立して、2010年ルチルス・アート株式会社を設立、塚本氏は映像ディレクターに就任する。「ここからですね、自分がディレクターとしての仕事に責任を持つようになったのは」

作例
制作・著作 / コニカミノルタプラネタリウム株式会社

「タイムラプス」を武器に新たな映像表現に挑戦し続ける

映像の編集からはじまり、塚本氏の興味は次第に撮影にも向かっていった。「理由は2.5Dのクオリティを上げるため。結局もとの素材がきれいでなければ、完成品のクオリティには限界があると気づいて、それなら自分で撮影できるようになろうと」。そうしてたどり着いたのが「タイムラプス」だった。すごい速さで雲が流れ、みるみるうちに太陽や星が移動する動画を見たことがあるだろう。これはスチール用カメラで一定間隔で連続撮影した数百枚、数千枚という静止画をつなぎ合わせ、一般の動画と同じスピードで再生することで時間の経過をより印象的に表現できる撮影手法だ。

「タイムラプスはスチール用カメラで撮影しているので、1枚の解像度がとても高い。ポスターなどの広告にも使えるほどです」。今ではスマホでも撮影できるが、当時は海外も含めてタイムラプス撮影をする人はごくわずか。さらに独自性を求めてドリー用のレールを使ってみると、カメラのアングルが少しずつ変化し、風景が立体的になった。カメラは設定された時間通りゆっくりとシャッターを切りながらレールの上を進んでいく。しかし日によって天気は変わり、風景との出会いは一期一会。ベストな日を選んでセッティングをするが、撮影前に確認が必要な項目は山のようにあり、この手順を少しでも間違えると思った絵ではなくなる。そんな繊細な作業を積み重ね、タイムラプスを「自分の武器」といえるほど研ぎ澄ましていった。

ここで大型施設のタイアップ企画で、ガールズバンドとロボットが登場するビデオを紹介。ロボットは通常通りの動きなのに、背景はタイムラプス。合成ではない。1秒に1回シャッターをきる設定なので、バックでは人や車がすごいスピードで流れていく。それに対してロボットは1秒に1ミリ動くようにプログラミングされている。その対比が面白い。「10年ほど前にはまだ普及していなかったドローンにも手を出しました」。さらにはドローンを飛ばすより自分が飛んで撮影してみたらと考え、GoProを設置してグライダーで撮影するなど、次々と新しい撮影方法を追求していった。

Tokyo Midnight Groove

音と映像の一体感・臨場感を求め壮大なエンターテインメントを生み出す

ここからはプラネタリウムの仕事について。「プラネタリウムでは球体の映像を制作し、半球形のドームに投影させて鑑賞します。特徴的なのは投影前の時点で歪みを計算した映像をつくること。プロジェクションマッピングと発想は似ていますね」。これは解像度も高く編集が大変だ。「大きいものだと直径数十mの半球ドームでスピーカーも数十個、だからこそほかで味わえない没入感があります」

15年ほど前から全国のプラネタリウムがプロジェクターとスクリーンを導入して、映像コンテンテンツが多くつくられるようになった。「アニメとコラボしたコンテンツは人気があり、そこから映像化の流れが加速して。ぼくも製作にあたって人気アニメの版元と一緒に制作するなど、幅広い業界の人たちと関わる機会が増えました」。さらに最近ではクラブ系アーティストの曲を使用した、よりエンタメに振った作品も制作している。

2019年夏にコニカミノルタプラネタリウムで放映された「Tokyo Midnight Groove」では、今までにないアプローチで東京の夜景と星空の美しさを表現。自身の武器であるタイムラプスを使って、東京の夜景をお洒落に魅せた。

「プラネタリウムでの仕事は大型映像、高解像度映像、ドームへのマッピング技術やVR技術をはじめ、他業界とのコラボ制作など新しいことに挑戦し続けられる場所でした。この仕事を通じて“新しい映像表現や手法を追求する”“もっと新しいことに挑戦する”という感覚を培えたことが、今後の強みになると思っています」

その後、独立し昨年2月にスタジオ・フィルターを立ち上げてちょうど1年ほど。いつか映画を撮りたいという夢はある。ただそれ以上に今は制作チームをつくるのが面白くなってきたという。「今は自分がまとめあげた少数精鋭のチームで、どれだけすごい映像をつくれるかに興味があって。そんなチームでいつか映画が撮れたらいいなと思っています」

イベント風景

イベント概要

迷ったら「不安と刺激」があるほうに行く
クリエイティブサロン Vol.201 塚本啓太氏

子どもの頃から僕は、いつも漠然とした不安を感じていました。それは、わからない事や知らない事が多かったからだと思います。いま僕のいる映像制作の世界は、不安と刺激に溢れています。今となってはこれが最高に心地よく、映像の仕事を始めて気がつけば15年が経っています。僕が出会った人たちは、いつも想定外に対応し、正しい方向へ導くエネルギーに満ちていて、とことん楽しみながら努力する人ばかりでした。そんな中で経験して見えてきたものや変わらないものを、少し特殊な体験談を交えながら、お話ししようと思っています。

開催日:2021年6月24日(木)

塚本啓太氏(つかもと けいた)

スタジオ・フィルター 代表 / 映像ディレクター

1981年 奈良県生まれ。2007年 宝塚造形芸術大学卒。在学中より大村皓一氏に師事し、クリエイティブにおける基礎を学ぶ。卒業後はフリーの映像クリエイターとして、大村皓一氏が顧問を勤める有限会社イメージファクトリーの制作スタジオを間借りし、制作スキルを学ぶ。2010年 ルチルス・アート株式会社の映像ディレクターに就任。2020年 スタジオ・フィルター設立。現在に至る。
主に映像のディレクション、タイムラプス撮影、VFXコンポジットを得意とし、CM、ミュージックビデオ、プラネタリウム、展示映像等、様々なジャンル・フォーマットでの映像制作経験を強みにする。

https://www.studio-filter.com/

塚本啓太氏

公開:
取材・文:町田佳子氏

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。