仕事がライフワークであり、逆もしかり。ならば楽しく。
クリエイティブサロン Vol.199 ロックオン柳田氏

少人数でクリエイターをかこみ、じっくり話を聞くというスタイルのクリエイティブサロンもスタートから8年、199回目を迎えた。今回は合同会社ホームランオフィス代表のロックオン柳田氏が登壇。Webクリエイター、経営者、さらにラッパーという肩書をもつ柳田氏が、これまでの道のりを振り返り、たどり着いた自身の仕事論について語った。

ロックオン柳田氏

自分を構成する要素からのユニークな自己紹介。

冒頭から「本日は仕事のノウハウではなく、自分の人間性と価値観について話す」と宣言した柳田氏。まずは自分を構成する要素からひとつずつ分解していく。

2児の父でありキャンプやロードバイク、バスケ、グルメ、昆虫などの趣味を持つ「プライベート」。会社勤めをしていた頃は京町堀界隈を飲み歩き、街の顔として雑誌の表紙を飾ったり、またグルメ好きが高じてテレビ番組に出演したことも。最近では昆虫科学教育館の久留飛克明館長に声をかけ、ネットラジオ「久留飛と柳田の好奇心」をスタートさせ、自然に対する不思議を語り合っている。

次は多くのクライアントを抱えるWebクリエイターとしての顔。こちらは新規サイト作成や運営、営業、映像制作、さらにビジネスやクリエイティブスキルによって構成されている。新規サイト制作ではディレクションからデザイン、ときにはコーディングやコピーライティングまで手がけることも。さらにSEOやSEMを意識し、プレスリリース発行などの運営全般に、ヒアリング、交渉、プレゼン、資料作成にクロージングまで手がける営業。映像制作では企画からプランニングやマネジメント、構成に台本作成も。

この項目の構成要素の半分近くを占めるのがクリエイティブスキル。Photoshopをはじめ制作ツールの知識やノウハウを蓄積し、カメラに関しても同様でスキルをクリエイティブに落としこむ。経営者としては経理、営業として登壇やセミナー講師、メビックでのコーディネーター活動や会合への参加もあり、広報活動として自社サイトやブログ、SNSを活用してブランディングをおこなっている。

スクリーンショット
インターネットラジオ「久留飛と柳田の好奇心」

ほかにはない武器、ラップをもちいて可能性を広げる「アクセスラップ」。

とまあここまではプライベートの多彩な活動は別としても、多くの経営者やクリエイターが似たような項目や要素を備えているのではないか。だが次の「ラッパー」は、かんたんに真似できない、柳田氏の稀有な才能。もともと表現することが大好きで、27歳で就職するまではライブを中心に活動していた。「ラッパーとして人にメッセージを届けたいとか、想いを共有したい。それを本気でやろうとしている。以前のライブやCDリリースをひとつのステージだとすると、現在もステージを変えてラッパー活動は続いているんです」

それは映像での作品づくり。商標登録した「アクセスラップ®️」だ。MapでなくRap。文字通りラップで道案内動画をつくるというもの。これは外資系大手外食チェーンのオープニングにあたって、数々の厳しい制限があるなか編み出された苦肉のクリエイティブ作品。最寄り駅から目的地まで移動しながらラップで道案内し、同時に店の宣伝をするというもの。これによって可能性がまた広がったという。

The ONOE FURNITURE × ACCESS RAP®️ / tell me what you want
立花通りの老舗家具屋から依頼で制作されたアクセスラップ「The ONOE FURNITURE」。20年近く音楽をやってきて、はじめて素直な気持ちでかけた曲だという。

モチベーショングラフで振り返る仕事のやり方と長所短所。

さらに分析好きな柳田氏、今度は19歳から42歳の現在までを、横軸に時間、縦軸にモチベーションの高さとしたグラフで振り返る。プロバスケットボールプレーヤーへの挫折からはじまり、なにか表現したいと音楽活動へ。HIPHOPの自主企画イベントを開催して人気イベントに育て上げるも、自身は売れない。いっぽうでイベント告知のためにはじめたWebに夢中になり、有限会社ティーズに入社。コピーライターの会社でWeb事業部をひとりで切り盛りする。「音楽で鳴かず飛ばずだったから会社員になったのではなく、音楽と同じくらいWebデザインが面白くなっていた。自分の想いやアイデアをカタチにする。それもいろんな人を巻き込みながらのコンテンツづくりが楽しくて。これを仕事にしたいと考えたんです」。ここで技術を磨き、数年後、独立してフリーランスに。

ゆるやかに右肩上がりを続ける、順調なフリーランスから法人化へ。ここでグラフはみるみる下降線を描き、もっとも落ち込んだ「モチベーション−100%」期へ。それは40~41歳とつい最近のこと。相変わらず仕事は次々と入ってきたが、体調も悪化するほど働いても売上が上がらない。その原因は柳田氏自身が現場でつねに手を動かしており、まったく営業活動ができなかったから。人とコミュニケーションを取れる状態ではなかった。人に出会わないから、自分も会社も忘れ去られてしまう。社員を雇用する経営者としては、当初のコンテンツをつくりたいという想いからかけ離れ、儲かるかどうかが頭をもたげる。「行き当たりばったりでやってきたから、まさかということが起こる。このまさかの対義語って“そして”だと思う。予期せぬ事態が発生したときに、自分を奮い立たせて持ち直す。それを繰り返すから、この激しく上下するグラフのごとき人生になっちゃったんですね」

仕事=ライフワーク、だからこそ自分らしく、とことん楽しみたい。

しかしグラフはわずか1年ほどで急上昇し、V字回復を果たす。理由はふたつ。まず人と出会う機会をつくるようにしたこと。そして自分から発信するようにしたこと。前者はメビックへの参加が大きいという。クリエイティブクラスターに情報を掲載したのはまさにこの頃。「仕事をくださいと同時に、仲間をくださいという想いでアプロ―チしました。ここでのさまざまな出会いを経て、自分でもびっくりするくらい考え方が変わったんです」。後者はブログやSNSを更新し、自己ブランディングにいそしんだ。結果、これまでとは違った仕事が舞い込むようになる。「久しぶりに会った人からブログ見てるよ。面白いことやっているねと言われたり。この“人が見てくれている”ということを完全に忘れていた。人ってつながっている。このつながりを大切にしなきゃと感じました」

そういう変化のなかで自分のおごりにも気づいた。柳田氏は独学でさまざまなスキルを身につけてきた人。むずかしい案件も「できる、できる」と乗り越え、ガムシャラに走り続けてきた。それゆえに孤立した状態をみずからつくってしまう。「メビックのおかげで価値観も大きく変わった。Webクリエイターと名乗りながら、ぼくはデザインが超絶巧いとか素晴らしいシステムを組めるというスキルは持ちえていない。では自分に何ができるかというと、プロデュースや人と人とをつなげていくこと。クリエイティブの中心に自分が存在するということで、いろんな歯車がうまく動いていくんじゃないかと思うんです」。それを具現化するためのプロセスをこれからは歩んでいきたいという。「ぼくはとにかく、楽しくって面白いことが好き。そしてそれが仕事につながることが大好き。自分ができることはすべて仕事だと思っている」。仕事がライフワークであり、逆もしかり。ならば楽しくなくちゃ。そんな素敵な「ロックオン柳田の法則」で締めくくった。

イベント風景

イベント概要

商売の上手い下手はわからんけど、楽しい!から続けてる!
クリエイティブサロン Vol.199 ロックオン柳田氏

Webっておもろいやん! 作れるようになったらもっとおもろいやん! お客さんに喜んでもらえたらもっともっとおもろいやん! 楽しいがドンドン膨らみWeb業界に携わること15 年。企業の代表、プロデューサー、ディレクター、デザイナー、ラッパーと多くの肩書きを持ち、事業計画もなくなんとなく起業した制作会社は7年目に突入。めくるめく様々な方たちとの出会いが僕の可能性をアップデートさせてくれている。商売の上手い下手はわからん。気持ちのバイオリズムは上がったり下がったり。だけど、仕事がめっちゃ楽しい! そんな僕の仕事の楽しみ方、取り組み方をお話しします。

開催日:2021年3月15日(月)

ロックオン柳田氏(やなぎだ)

合同会社ホームランオフィス
Webクリエイター

1978年生まれ。大阪育ち。大阪商業大学卒業後、デザイン事務所を経て独立。2015年、合同会社ホームランオフィス設立。Webサイト制作を中心に企画、制作、サイト運営、広告 運用、動画・静止画といったヴィジュアル撮影など、Webにまつわる幅広いサービスをワンストップで提供。

https://homerun-office.jp/

ロックオン柳田氏

公開:
取材・文:町田佳子氏

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。