「おもしろい」を追いかけ、アタックし、“奇跡”を起こす仕事術。
クリエイティブサロン Vol.192 坂口拓氏

人気バンドOKGoやsumikaのツアーグッズ、FM802のアートワークなどユースカルチャーと密接に結びついた仕事を多く手がける、グラフィックデザイナー / イラストレーターの坂口拓氏。自分だけの表現を追い求めつつ、おもしろいと思うものには臆せずアタックし道を切り拓いてきた、これまでの軌跡についてお話しいただいた。

坂口拓氏

カルチャーの洗礼を浴び、貪欲に吸収した多感な10代。

若者が多く集まり、静かな熱気に包まれつつスタートした坂口氏のクリエイティブサロン。画面に映される来歴にも、人生のターニングポイントとなったできごとにはポップなOP(おもしろポイント)マークをつけて強調するなど、遊び心がある仕掛けが盛り込まれていた。
現在、IMAGINATIONという屋号で、フリーランスのグラフィックデザイナー / イラストレーターとして活動する同氏は2017年秋に独立して現在4年目。ポートフォリオだけを見れば華やかだが、そこにいたるまでには、さまざまな現場に身を置きながら、進むべき道を模索した日々があった。

伊勢神宮のある三重県出身、陶芸家の父のもとに生まれ、自宅そばに工房と窯があるという環境で育つ。もの心がつくと、音楽、ファッション、映画、イラスト、デザインといった最先端のカルチャーに目覚め、アルバイトでお金を貯めては名古屋へ出かけるように。
「ミニシアターで海外のマニアックな作品を観たりしては、自分はオシャレだと悦に入っていました。今思えば、絶対に理解できていなかったと思うのですが……(笑)」

高校卒業後は、ファッションへの興味から、大阪の服飾製造工場へ。働きながらデザインやパターンが学べるという謳い文句に惹かれて決めた就職先だったが、裁断の仕事は多忙を極め、新たに何かを学習できる環境ではなかった。それでも、休日には梅田やアメリカ村に出かけては都会の生活を満喫し、好きなイラストをあてどなく描き続ける日々を送る。

「生き方見本市」告知ツール
坂口氏のライフワークである「だまし絵」は、広告に起用される機会も。2017年から全国各地で開催されている、これからの「生き方」を考えるイベントのイメージビジュアル。イラストを手がけた2018年度の本作も数枚を左右上下に並べると、すべてつながる構成となっており、「思いもかけないところで人と人が出会い、つながる。すべての道はつながっている」というメッセージを送っている。

「グラニフ」で働くうちに高まった、デザイナーへの思い。

その後、フリーター生活を経て、デザインTシャツストア グラニフを運営している株式会社グラフィスへ入社。24歳で店長となり、順調に売り上げを伸ばし、昇格していく。同社では国内外のさまざまなデザイナーやアーティストと頻繁にコラボレーションしていたため、販売という立場ながら、知識も増えて刺激的な環境だった。

東京出張に出かける機会も多くなり、合間に美術館やギャラリーをめぐるなどして目を養った。そんな中、2006年に渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムにて「スーパーエッシャー展 ある特異な版画家の軌跡」を観て、かつてない衝撃を受ける。「M.C.エッシャーの版画は、中学校の時にも美術の教科書で見ていたはずなんですけど、再発見してどっぷりとハマりました」。これ以降、自らが手掛けるイラストも、だまし絵的なトリックアート要素の強いものを少しずつ探求するようになっていった。

坂口氏デザインのTシャツ
「デザインTシャツストア グラニフ」在職中に、初めて商品化されたTシャツ。当時、パリにあった伝説的セレクトショップ「コレット」のバイヤーからも高く評価された。

そのうちに、グラニフの商品会議に参加するようになり、自分もデザイナーになりたいという思いが次第に高まっていく。そこでデザインソフトを独学で習得し、自ら考案したデザインを社内プレゼンするように。初めて商品として採用されたデザインは約3000枚がすぐに完売し、手応えを感じたという。しかし部署異動はそう簡単にはできず、ようやく安定してきた生活と、デザイナーになりたいという思いの間でジレンマを抱える日々が続く。

そんな中、2011年に東日本大震災が起こり、やはり悔いなく生きたいと転職を決意。デザイン系の職業訓練校でさまざまなノウハウを身につけ、印刷会社に就職。31歳という遅めのスタートだったが、ようやくプロのデザイナーとしての実務経験を積むことになったのだった。

奇跡”を起こすには、日々の地道な土台作りがあってこそ。

坂口氏の活動は、クリエイターなら誰もがあこがれるような、にわかには信じられないような“奇跡”に彩られている。その最たるものが、シカゴ出身のロックバンド、OKGoとのつながりである。

「おもしろいMVをつくるバンドで、自分と感覚的に近いものがあると勝手に思っていました。そこで、リーダーのダミアンに自主制作した作品をInstagramのDMで送ってみたところ、なんと、2015年の来日ツアーに合わせて、公式LINEスタンプを作ってくれないかという依頼がきたんです」

ちょうど職業訓練校での学びを終え、そろそろ就職活動を始めようかというタイミングだったが、しばらくは就活そっちのけでこのチャンスに食らいついた。来日時には楽屋で彼らに会うことも叶い、その後もTシャツ、スウェット、キャップ、バッジ、ステッカー、ポスターなど数え切れないほどのグッズをデザインし、確かな信頼関係を築いていく。

さらに、「スーパーエッシャー展」を観てから12年後、再び日本で「ミラクル エッシャー展」と銘打った展覧会が全国巡回することを知り、観客としてだけでなく、だまし絵作家として何らかのかたちで関われないかと考えるように。総合プロデューサーや新聞社に自分なりの営業活動をしていたが、ひょんなところで縁がつながり、あべのハルカス美術館のミュージアムショップで作品の展示とオリジナルグッズの販売が実現する。グッズ製作の費用はクラウドファンディングで募り、エッシャー展に花を添えることができたのだった。
また、2014年より「365HAPPY BITHDAY」という毎日、世界の誰かの誕生日を祝う企画をFacebook上でスタートし、なんと今年で7年目に突入。表現の幅を広げるための鍛錬の場として、タイポグラフィ、写真、イラストなどさまざまな手法を駆使したグラフィックで、その日、誕生日を迎える誰かへと捧げている。

そのほかにも、「UNKNOWN ASIA」への出展、ZINEの制作など、常にアグレッシブに発信を続けてきた。“奇跡”を起こすには、日々、コツコツと土台作りをすることも大事だということなのだろう。

作例
左上:OK Go×KORG オリジナルプロダクト
左下:FM802 タイムテーブル表紙、バンパーステッカー、番組リスナープレゼントグッズ
右上:人気バンド、sumikaのツアーグッズも手がけた。SNS経由でバンド側から直接オファーが来たという。ツアー中はInstagram内を検索し、自らがデザインしたツアーグッズを手にファンの若者たちが盛り上がる様子を見るのが楽しみに。
右下:作品集、活版印刷グッズ

停滞を嫌い、常に成長できる環境に身を置く生き方

今後の展望として、「年齢を重ねるとディレクター的な立ち位置に移行していくデザイナーが多いと思うんですけど、僕はずっと手を動かし続けていたい。そして、自分だけの表現をしていきたい。さらに、人に楽しんでもらえることをやっていきたい。この3つを融合させるかたちで、活動を続けていくことが目標ですね」--そう語る坂口氏。

同氏を突き動かす原動力となっているのは、何より、仕事につながる、つながらないを度外視した「おもしろい」の探求である。ここまでは多くの若きクリエイターがチャレンジもし、めざす方向性といえる。しかし、「おもしろい」ものに対して自分に何ができるのかを独りよがりではなく考え、実際に何らかのアクションを起こし、自ら「つかみに行く」ことができる人はそう多くはないのではないだろうか。行動を起こす前にあきらめてしまったり、ちっぽけなプライドを守るために受け身になっている部分はないだろうか、と改めて考えさせられた。

坂口氏は停滞を嫌い、たとえ安定した収入や立場を手放すことになったとしても、あえて自らが成長できる環境に常に身を置き続けてきた。そんな生き方をしているからこそ、見える風景や、創造できるものがきっとあるに違いない。そんな熱い思いを、参加者とともにシェアした1時間半だった。

イベント概要

自分の「おもしろい」を追いかける
クリエイティブサロン Vol.192 坂口拓氏

生まれ育った三重から大阪に出てきて約20年。様々な業種を経て現在のクリエイティブ職に辿り着きました。ほぼコネクションゼロのまま、自分の「おもしろい」を頼りに仕事へと繋がったスタートライン。今に至るまでの紆余曲折や現在進行形で続く毎日のアウトプット、これからのこと。過去のお仕事、制作物の紹介や裏話も交えながらお話しします。世の中の「おもしろい」がハイスピードで変化していく昨今、自分の中で変わることと変わらないこと、日々考えていることなど楽しんで聞いていただけるひと時になればと思います。

開催日:2021年1月21日(木)

坂口拓氏(さかぐち たく)

IMAGINATION
グラフィックデザイナー / イラストレーター

三重県生まれ大阪市在住。大阪市内にある印刷会社のデザイン部署勤務後、2017年に個人事業主として屋号「IMAGINATION」をスタート。法人、個人問わずグラフィックデザインとイラストレーション制作をメインに事業のプロモーション活動に携わる。芸術大学や職業訓練校にてデザイン系講座の講師としても活動中。また、作風昇華のため作家としてアートフェアやグループ展などにも出展、2019年には台湾でのグループ展に参加し活動の幅を広げている。

https://www.sakaguchitaku.com/

坂口拓氏

公開:2021年2月10日(水)
取材・文:野崎泉氏(underson

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。