“受け止める”キャッチ力が、人と仕事をつなぐ
クリエイティブサロン Vol.177 林弘真氏

コピーライターの林弘真氏が登壇した今回のトークテーマは「なぜ、あのコピーライターはキャッチボールばかりしているの?」。広告制作会社を経てフリーランスとなり、キャッチボールをするに至るまでの過程、そしてキャッチボールの意義について語られた内容は、同じくフリーランスとして悩みを抱えるクリエイターにとって共感できるものだった。

林弘真氏

デザイナーか? コピーライターか?

大学4年の就職活動の時、ある企業の「自分の広告を作る」という課題に対し、履歴書の写真を斜めに貼り「右肩上がりの男です」とキャッチコピーを添えた。その制作過程で、子供の頃から絵を描くことは得意、企画好きだったこともあり、「ビビビ! これだ!」となったという。その勢いのまま、一から勉強するべくデザイン専門学校への入学を決めたのが、林氏にとっての広告業界への第一歩だ。「広告するならデザイン」と当初はデザイナー志望だったが、次第にコピーライティングにも興味を持ち、専門学校と同時期に宣伝会議のコピーライター養成講座に通い始めた。

この頃、林氏は焦っていた。大学卒業後、アルバイトをしながら専門学校に通い、デザイナーになるかコピーライターになるかを決めかねている状態。周りから遅れているという意識もあった。コピーライター養成講座の初回授業では、自作品を「こういうコピーは書かないでください」とダメな例に挙げられ、出鼻を挫かれる。それでも持ち前の負けん気を発揮し、成績優秀者に送られる金の鉛筆を獲得するまでに。その後の上級コースでは、上位の成績を修めた。さらに専門学校の卒業課題では学生デザイン賞に入選。デザインでも高い評価を受けた。

コピーライターを選んだきっかけとなったのは、コピーライター養成講座の講師に「君はオモロイ!」と高く評価されたこと。崖っぷちに立たされ、何かにすがりたい若者にとって、切れ味抜群の殺し文句だった。気持ちはコピーライター寄りになり、今まで以上にキャッチコピーを読み漁った。その中でも、影響を受けた好きなコピーは、全国高校駅伝大会ポスターの「友達を待たせているので、お先に失礼します」。「コピーだけでイメージが浮かぶポスター。コピーもデザイン。メッセージをデザインするものだということに気づきました」。言葉から映像を生み、ウィットに富んだセンスでクスッとさせる、コピーライターの仕事に改めて魅了された。

『コラボレーション事例集2020 挑む。コラボレーション』見開き
メビック コラボレーション事例集2020 を制作

念願のフリーランスは孤独との闘い

専門学校卒業後、広告制作会社(2社)にコピーライターとして13年間勤め、仕事に没頭した。クリエイティブの基礎を叩き込んでくれたという社長に渡された訓示「アイデア20訓」は、今も手帳に挟み、時折読み返しているという。とりわけ「デザイナーは言葉で創れ、コピーライターは絵で創れ」という項は林氏にとって特別な一文だ。「文字の中だけの表現ではなく、絵を思い描いて言葉で表現する手法をとってきましたが、これでいいんやと確認できました」

当時は、不動産広告がメイン。もっと他業種やマスメディアの仕事をしたいと社長に掛け合ったこともあったという。その時に言われたのが「家(不動産)のことを知ることは、暮らしや人を知ること。人のことを知れば知るほど、コピーのためになるで。面白いで」。当時、その意味に気づけなかったが、その大事さを後に気づくこととなる。社内でも頼られる存在になった頃、さらに精進するため、独立したいと思いはじめる。しかし、リーマンショック直後、誰に聞いても「大阪でフリーのコピーライターが食っていけるわけがない」と言われた。それでも独立に踏み切れた一因は、デザインもできたから。コピーとデザインの一人二役で仕事をこなせばなんとかいけると踏んで、2012年に独立した。

古巣から仕事を回してもらえたこともあり、順調なスタートだった。しかし一人二役体制では、営業に回ったり、人に会いに行く余力もない。「一人完結の悲しき広告制作サイボーグでした(笑)」という。余裕がないので、クライアントからの電話が怖いと感じてしまう時もあったという。作業がひと段落した深夜、大阪市内を自転車であてどなく走り回ったこともある。仕事だけに打ち込んだ結果、金銭的な余裕はできたが、気がつけば仕事のつながり以外何も残っていなかった。

「仲間をつくりたい」その答えがキャッチボール

2017年の大阪マラソンに当選し、練習のために、メビックに集まるマラソン愛好家クリエイターたちの自主練グループに参加するようになった。翌年にはメビックのコーディネーターとなり、様々なクリエイターや企業と顔を合わせる機会も増えた。趣味や遊びを通して仲良くなり、共同でイベントを開催したり、仕事でもコラボをしたりと活発に活動しているクリエイターが少なくないことを知り、「そういうつながりっていいな」とぼんやり思っていた時期だけに、彼らが口を揃えて言う「仲間づくりが大事」という言葉が余計に胸に刺さった。

ここでやっと(笑)キャッチボールの話が登場する。林氏は小学生時代、地元チームに所属する野球少年だった。ある日、押入の奥にしまってあったグローブを見つけ、久しぶりにキャッチボールがしたいと思ったものの、近所に相手がいない。ちょうど肩書や立場にとらわれないフラットな関係性を築くことを目的に交流を行っている自主的コミュニティ「関西ネットワークシステム(KNS)」のプレゼン大会への参加を勧められていたので、プレゼンでキャッチボール仲間を募集することにした。地域おこし団体など、錚々たるメンバーがプレゼンをする中、「たぶんKNS史上、もっともゆるいプレゼンです」と話をしたという。メールだけのやりとりのせいで仕事の話が拗れる、難しい仕事相手には一人では立ち向かえないなど、フリーランサーが溜め込みがちな心の澱をぶちまけ、だからキャッチボールを介して仲間を増やしたい、面と向かった生のコミュニケーションができる相手が欲しいと訴えた。

早速、共感したフリーランサーを誘い、翌月には「がもよんでキャッチボールをしよう」の会をスタート。次第にプログラマー、ライター、デザイナーなどのクリエイターやクリエイター以外の方々も参加し、Facebookでその様子を投稿するたびに反響が大きくなっていった。また、参加者や周りの人がユニフォームや帽子を提供してくれたり、メビックで知り合ったスポーツ用品メーカーのSSKからグローブとキャッチボール専用球が贈られるなど、今では想像以上の広がりを見せている。

「がもよんでキャッチボールをしよう」の会メンバー集合写真
多忙や気後れから外に出られないクリエイターにとって、「がもよんでキャッチボールをしよう」がいろいろな人と交流を持つためのスモールステップとなっている。

“引きつける”ではなく“受け止める”キャッチが大切

参加者の一人が「キャッチボールは茶道の濃茶点前みたい」と感想を漏らした。一杯の濃茶を回し飲みする作法には、亭主と客の間に一体感を生む効果があり、キャッチボールにそれを感じるというのだ。そのためなのか、キャッチボールを通じて気軽に話せる間柄には自然と仕事が生まれ、実利にもつながっているそう。「仕事よりも遊びの方が、人柄がわかっておもしろい。一緒にキャッチボールをすると、人と人として付き合えるような気がします」。コピーライター大西崇督氏とコンビを組んでの大阪デザイン振興プラザ(ODP)の広報サポートや、会社員時代の後輩デザイナー、マウントグラフィックスの溝手真一郎氏・高木知佳氏とともに取り組んだメビックのコラボレーション事例集なども、人と関わることで実現した仕事だ。これまで抱え込んでいた悩みや想いが共感を呼び、楽しみながらいつの間にか互助の関係を築きあげるまでになった。

「林さんはキャッチする人ですね」と評されたことがある。「ぼくは自分を前へ前へと押し出せるタイプではなく、どちらかというと受け身なタイプ。だからこそ受け止める人になれるのかなと思いました。ぼくと同じような人の気持ちをわかってあげられるというのもあります。“引きつける・つかむ”という強引なキャッチではなく、相手のことを知り、“受け止める”キャッチは、相手のことを想像できる、コピーライターとしても、人としても大切な力になるはずです」。いろんな人とのキャッチボールを通じ、会社員時代、社長に言われた「人のことを知れば知るほど、コピーのためになる」という言葉の意味を深く受け止められるようにもなった。触れ合って向き合うことで人を知り、想像力が高まり、コピーのクオリティにも仕事の幅にも生きてくる。しっかりと仕事をすること、信頼される力をつけることはもちろん大切。しかし、単なる仕事バカ、広告制作サイボーグでは、行き詰まることがある。フリーランサーは皆、悪循環に陥りやすい環境にもある。そんなときはキャッチボールでなくてもいい、それぞれの得意な方法で人とのつながり方を見つけて、楽しむことから始めれば、塞がれた視界に道が拓けてくるはずだ。

イベント風景

イベント概要

なぜ、あのコピーライターはキャッチボールばかりしているの?
クリエイティブサロン Vol.177 林弘真氏

コピーライティングやデザインの仕事をはじめて20年以上、独立して8年が経ちました。
これまでの道のりを振り返りながら、 コピーライターになったきっかけや制作する上で大切にしていること、独立後、紆余曲折を経て「がもよんでキャッチボールしよう」というユルい会をはじめた理由、キャッチボールを2年間続けたことで起きた出来事やこれからやってみたいことについてお話しします。

開催日:2020年9月9日(水)

林弘真氏(はやし ひろまさ)

ハヤシヒロマサ コピー&デザイン
コピーライター / デザイナー

1974年生まれ(兵庫県三木市出身)。デザイン学校卒業後、広告制作会社2社(計13年、コピーライター・ディレクターとしてグラフィック広告、SPツール、ラジオ・テレビCM、Webサイトを企画制作)勤務を経て、2012年独立開業。「がんばっている人の想いをしっかり伝える」をモットーに、魂を込めたコピーライティングとデザインを提供する。ホームグラウンドは、大阪市城東区の蒲生四丁目(通称:がもよん)。趣味はマイペースのランニングと蒲生公園でのキャッチボール。

https://gamo4gamo4.exblog.jp/

林弘真氏

公開:2020年10月13日(火)
取材・文:東原雄亮氏(CHUYAN

*掲載内容は、掲載時もしくは取材時の情報に基づいています。